第18話 書を捨てよ
書を捨てよ
「あの日。俺は妹に拒絶された。作家活動が家族にバレたんだ」
「お兄ちゃんこれどういうこと!?」
「……」
「これのモチーフ、明らかに
「……」
「何とか言ってよ!?」
「……」
「何の申し開きもないわけ?」
「……」
「最低。もう関わらないで」
「それで俺の心は曲がった」
師匠が情熱を持って書けるものを書けと言ったのに!
師匠も家族をモチーフにした本を書いたのに、家族仲は良好だった!
俺はこんなに惨めなのに、師匠はずるい!
「それで、師匠から作家としての才能を奪おうとしたんだ」
「サイン会は関係無いってことですか?」
アマナスが驚き、質問する。
「サイン会? 人が少なくても、満足させられてるからそこは関係ないよ」
読んでから来てほしかったって言ってたのは、そういうことだったのか。
「話を戻そう。つまり君は妹さんに拒絶され、私の身内との関係に嫉妬し、魔道具を使ったということかな?」
「そうですよ」
オーサーは少しふてくされたように答える。
ライトは少し考え、口を開く。
「あの言葉は今でも撤回する気はない。だけど、捕捉はさせてもらうよ。情熱を向けた結果、誰かのことを傷付けるなら、熱量を抑えるか、向ける先を変えなきゃいけないこともある」
「そんなこと出来るわけない! 俺はシズのことが好きだから書いてるんだ!」
「出来るさ。私がそうして見せただろ」
「!」
「私はミステリーが好きだ。トリックを考えているときなど心が踊る!」
心底からの笑顔を浮かべる。
「だが」
顔を下に向け真顔になる。
「今回はトリックが思い浮かばなかった。しかし!」
バッと顔を上げる。
「リコちゃんが、教えてくれた。探偵がビシッと決めるところが好きと」
そして冷静になり
「だから私は考えた。トリックを明かす以外で探偵を活躍させる方法を。その結果があれだ」
皆黙っていた。
「"好き"を分析すれば向ける先を変えることも出来る。後は経験が助けてくれる」
「妹以外を好きになれと?」
「完全に切り替えることは不可能だろ?」
「ええ」
「だったら熱量を抑えるんだ。妹さんに向けていた情熱を、少しだけ他の人に分ける。それでいいんだ」
「考えておきます」
推理は終了した。
「さ、決着はついたし、ご飯でも食べようか」
ライトは明るい声で場の空気を変える。
宴もたけなわ。パーティーが終わる頃、ライトはオーサーに話しかける。
「オーサー。君は彼らについていくべきだよ」
「オーメンを好きになれってことですか?」
「それでもいいけどね。経験を積むには、やっぱり冒険が一番だよ。「書を捨てよ」だよ」
翌朝。アマナスたちは街を出ようとしていた。
「忘れ物ない?」
「うん」
「大丈夫です」
「じゃあ行くよ」
その時だった。
「ちょっと待って!」
オーサーが三人に声をかける。
「俺も連れていってくれ」
「俺は構いませんけど……」
アマナスはオーメンをチラっと見る。
オーメンはポケットに手を入れる。
「いいですよ」
「私も」
全会一致。かくしてオーサーはアマナス達のパーティーに加わることになった。
彼らの旅はまだ始まったばかり。
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