第16話 反応アリ

反応アリ

早朝。三人が街を出歩いていると、声が聞こえた。

「待ってくれよシズ」 

「ついてこないでよ気持ち悪い!」

 オーサーが女の人を追っていた。

 彼と目があった。

 

「いやぁ、恥ずかしい所を見られたね」

「何があったんですか?」

 アマナスが問う。

「彼女は俺の妹でね。怒らせてしまったんだよね」

「心当たりはありますか?」

「小説だよ」

 何となく察しがついた。

「昨日オーメンさんには見せた本あるでしょ?」

「兄妹の恋愛を書いたものと、ライトさんから聞きました」

「なら分かるだろ? あれを書いてから、微妙な雰囲気になってしまったんだよ」

「そうでしょうね」

「それでも、妹が出てくる物語以外は気持ちが乗らなくて……」

「妹がいるのにそういう本を書いたら、こうなるって分かってましたよね?」

 呆れたように聞く。

「それでも俺には、これしか書きたいものがないんだ」

「どうしてそこまで固執するんですか?」

「俺にとって妹は、唯一自分を肯定してくれる存在だからだ」


 四年前、彼が十八の頃。

「母さん。交通費貰ってもいいかな?」

「はぁ、貴方もそろそろ自立してほしいものね」

 母が不満を言いながら、金を渡す。オーサーは多少の負い目と共に金を受け取る。

 その日は久々に友人と遊びに行く予定が入っていたのだ。

 

 遊びから帰ると、家族の声が聞こえた。 

「あいつももう十八だというのに、遊んでばかり。何がしたいのかさっぱり分からない」

「シータは働いていて、シズですらバイトしてるのに、何でオーサーはあんな風になっちゃったのかしら」

「何か作家になりたいとか言ってたけど、筆をとってるとこを、一回も見たことないんだよね」

 父、母、姉が口々に彼への不満を話す。

 いないと思って好き勝手言いやがって。とオーサーが思っていると

「きっとお兄ちゃんも、考えがあるんじゃないかな?」

 とシズのフォローが入った。

「考えってどんな?」

「それは分からないけど。でもいつまでもあのままってわけじゃないと思うよ」

 オーサーは救われた気がした。悪いのは自分だと分かっていても動けない。そんな時に、きっと動けると肯定されたことが、彼にとっては大きな救いになった。


「昔からあいつだけは、俺の言うことを聞いてくれた。嫌々ながらだとは思うけど、否定や比較ばかりされてばっかの俺には、本当に救いだったんだ」

「歪んでますね」

 アマナスはばっさり切り捨てた。

「分かってるよ。でも俺にとってはそれが全てだ。そしてその気持ちは全部、小説にぶつけてる」

「結局それで気持ち悪がられてますよね?」

「今朝もそれを言われてね。もう兄妹モノは書かないでって」

「ならそうするしかないですね」

「無理だよ! アイデアは出ても、筆が進まないんだ!」

「作家ですよね!? そこはしっかりしてくださいよ」

「ごむたいなー」


 三人はオーサー宅を出て、昼過ぎまで街を少しまわった。

「さて、目ぼしいものも無かったし、そろそろ――」

 出発しようと言いかけた時、ライトに声をかけられた

「もう出発するのかい?」

「はい。もうあらかた廻ったので」

アマナスが答える。

「ライトさんは何をしていたんですか?」

「散歩だよ。ちょっとネタを探していてね」

「見つかるといいですね。それでは」

 と、歩を進めようとしたときだった。

「いや、やっぱり少し残ろう」

 とオーメンが言い出した。

「えっ? でももう――」

「ライトさん。今ネタを探していると言いましたよね?」

「そうだが?」

「それ、魔道具のせいかもしれませんよ」

「「!!」」

 オーメンは不気味な笑顔をニタァと浮かべた。

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