第9話 祝福
祝福
「私、この子を生みます」
レイは店長に告げた。
「じゃあ明日から休職だな。書類渡すから書いてきてね」
店長は相変わらず事務的だった。
「家事とか手伝うし、話し相手にもなるからね」
琴は変わらず優しかった。
「ありがとうございます」
他の嬢たちも、それぞれ激励やアドバイスの言葉をかける。
「今日からお休みかー。どうしよう」
今まで仕事を休むことはなく、休日は母の看病に費やしていた。何をすればいいのか分からなかった。
ひとまず妊娠、出産や子育てに関する本を読むことにした。
腰痛、貧血、疲れやすさ、食べたらいけないもの、食べた方がいいもの、ウォーキング、精神の不調等々。
不安だ。やはり父親がいないのは、不利なことが多い。こればかりは、嬢たちでは代えがきかない。
「本当に生んでもいいのかな?」
思わず口から溢れた。
それから半年程経過した。
大きく膨れたお腹は彼女の心身の日常を変える。少し歩くだけで息は上り、以前よりも食事は摂れず、睡眠不足を招いた。
「早く復帰したいなー」
仕事は大変だったが、収入はあり、仲間とも対等でいられた。それを実感した彼女はまた、心細くなるのだった。
「ごめんください」
琴の声がした。彼女を家に入れると、調子をたずねてきた。
「まあぼちぼちですね」
「そっか。お昼まだだったら作るよ」
「じゃあお願いします」
任せてと言うと、彼女は台所へ向かった。
やっぱり琴さんはいい人だなぁ。だからこそ、お世話になりっぱなしにはなりたくないな。
料理をする彼女の背中を見て、レイはそう思った。
それから更に半年ほどが経ち、陣痛が来た。
「~~!」
入院していた彼女は、痛みに耐えながらナースコールを押す。
即座に看護師と助産師が駆けつけ、分娩室へと彼女を運ぶ。
そして十二時間が経過し、遂に
「おぎゃー」
子どもが生まれた。
助産師が赤子の体を拭き、臍の緒を切ってから、毛布にくるむ。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
初めて顔を合わせたレイは、赤子に祝福の言葉をかける。
「初めまして。お母さんだよ。生きていたら楽しいことも辛いことも沢山あるけど、それはこれまでとこれからに祝福があるからなんだよ。生まれてきてくれてありがとう。リコ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます