第8話 白く染める宣告

白く染める宣告

 母が亡くなってから三日。レイは未だ職場へは戻っていない。しかしそれでも腹は減る。

 台所へ行き食材を確認する。まだいけるな、と判断し、料理をする。

「はぁー」

 味噌汁が美味しい。


 食事を済ませたレイは、職場へと足を運んだ。

「お店空けちゃってすみません。今日から復帰します」

「頼んだよ」

 相変わらず店長は店のことを考えている。


 指名が来るまで、待機室で琴と話す。

「もう大丈夫なの?」

「はい。ご迷惑おかけしました」

「迷惑だなんて思ってないわよ。それと、辛かったら言ってね」

「はい。でも大丈夫です」

 そして指名が入り、淡々と仕事をこなす。


 その日の仕事が終わり、夕食を口にした時だ。

 吐いた。精神的な理由からではない。肉体的な理由だった。

 それから数日、腹痛や吐き気、出血が続いた。

 まさかと思い、病院へ行く。


「妊娠してますね」

「……そうですか」

 頭が一瞬真っ白になった。そして遅れて、考えが群れを成してやってくる。

 仕事は? 出産の費用は? 父親は? 手続きは? 妊娠に耐えられる? 堕ろす? 堕ろさない? 私一人じゃん!

 医者が何か言っているが、頭に入ってこない。

「お会計七千ゼニーです」

 そうだ。納税証明書。これも父親がいないんじゃ、作れない。この子には不便をかける。やっぱり堕ろすしか……。


 ひとまず店長に報告することにした。

「そうか。それでどうするの?」

「どう、とは?」

「だから、堕ろすのか堕ろさないのかって話」

「もし堕ろさなかったら、どうなりますか?」

「休職扱いにはするよ。君は人気だからね」

「……少し、考えさせてください」

「早めに頼むよ」


 待機室で琴と話す。

「ということなんですけど。琴さん、私はどうすればいいんですか?」

「生むのも堕ろすのも、体には負担がかかるのは分かるよね?」

「はい」

 「もし生むのなら、私達はサポートできる。勿論、堕ろすときも出来ることは最大限協力する。ただしどっちにしても、本人が乗り越えなきゃいけないことはあるわよ」

「そう、ですよね」

 指名が入り、話は中断された。


 寝る前、レイは考えた。子どもを育てるお金はある。サポートしてくれる人もいる。だったら、このお腹に宿った命を殺すことは出来ない。

 生もう。

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