証村編

第3話 証村

証村

「ところでアマナス君。体の方はもう大丈夫なの? 応急手当はしたけど……」

「実はまだ違和感があるんですよね」

 アマナスは剣を掴んだ方の手右手を擦りながら答える。

「そうか。じゃあ次の村で、お医者さんに診ておらわないとね」

 町を出発した彼らは、そんな会話をしながら歩いていた。

「それにしてもあの剣、何だったんでしょうね?」

「どんな魔物も倒せるって話だし、きっと強力な魔道具なんだろうね」

「すみません。せっかく見つけたのに、俺のせいで回収出来なくしちゃって」

 アマナスは眉を八の字にし、口をへの字にして謝る。

「いいんだよ。君が無事ならそれで」

 嗚呼、やっぱりこの人の為に頑張りたいと、彼は思うのだった。


 日常会話をしていた二人の前に魔物が飛び出して来た。

「!」

 アマナスは驚きながらも魔法を放った。すると今までとは違い、一撃で魔物を仕留めることに成功した。

「「これは……」」

 二人は唖然とした。今までの魔法とは威力も範囲も桁違いに増えていたからだ。

「アマナス君。今のは?」

「分かりません。ただ、体の内から力が沸いてくるのを感じます」

「それ以外に何か変わったところは?」

「いえ、特には」


 それから十分ほど歩いたところで村が見えた。

「見えてきたね。宿より先にお医者さんかな?」

「宿が先で大丈夫ですよ」

 症状の軽さから、彼はそう提案した。

「駄目だよ。些細なことから、思わぬ大病に繋がることだってあるんだから」

 オーメンは優しいトーンで、それでも真剣な眼差しでそう返す。

「分かりました。じゃあそうします」

 そして二人は村の病院へと向かった。


「これは……。よくここまで歩いて来れましたね」

 医者は驚きと呆れた表情でそう言った。

「そんなにマズイんですか?」

 アマナスは恐る恐る聞いた。

「黒い魔力が混じっています」

「俺、元から黒い魔力持ってるんですけど」

 アマナスは気まずそうに答えた。

「不吉の象徴ですか。どうりで……」

「黒い魔力って、悪いものなんですか?」

 怒りを押さえつつに聞く。

「魔物と同じ魔力ですからね」

「~~」

 彼の顔は、無知と怒りで赤く染まる。

「まぁ元から黒いなら特に問題ありません。強い魔力が流れ込んで、それをモノにするまで、違和感があるくらいでしょう」

 それを聞いてアマナスは納得した。だから魔物を倒せたのかと。

「一応、魔力操作が出来る者を紹介しますので、不安ならそっちに診てもらってください」

「ありがとうございます」

「お大事に」


 彼は診察室から、オーメンが待つ待合室へ退室した。

「どうだった?」

 彼は医者から言われたことを伝えた。

「そうか。ならこのあと魔力操作の治療を受けようか」

 断ろうとしたが、彼女の言葉大病に繋がるを思い出し、承諾した。


 受付に呼ばれ、会計へ。

「納税証明書はお持ちでしょうか?」

「何ですか、納税証明書って?」

「この村独自の制度です」

「それを持ってると、どうなるんですか?」

「医療費が三割負担になったり、学校に行けたり、選挙に参加できたり、色々出来るようになります」

「へぇ。」

  スタンプ制度みたいなものか、と彼は思った。

「持ってないので、スタンプでもいいですか?」

「大丈夫ですよ」

「じゃあスタンプで」

「では、三割負担になりまして、お会計三千ゼニーになります」

 そう言って、受付のスタッフは、心臓に紫の光を当てる。すると紋章が浮き出る。

 この紋章…。やっぱりそうだ。出会えて良かった。と、紋章を見たオーメンは思った。


 アマナスが会計を済ませて病院を出ようとしたとき、隣で会計をしようとしている少女と、受付の会話が聞こえてきた。

「ツケでお願い!」

 驚いたアマナスはそっちを向いた。

「申し訳ございませんが、当院ではツケや掛けは受け付けておりません」

 どうやら少女は医療費を払えず、困っているようだ。

 こんなとき、オーメンさんならきっと迷わず助けるだろう。そう考えたアマナスは彼女のほうをチラっと見る。

「君、どうかしたの?」

 少女は一瞬びっくりしたようだが、藁にも縋る気持ちで、オーメンの問いに答えた。

「実は私、納税証明書を持ってなくて、しかもお金が足りないの」

「そうかい。じゃあお姉さんが代わりに払ってあげよう」

「お姉ちゃんありがとう。」

「気にしないで、私がやりたくてやってるだけだから」

 そう言って少女を諭す。

「それで、おいくらですか?」

「三万ゼニーになります」

 アマナスの診察料の十倍だが、彼女は嫌な顔一つせず、金を払った。

 

 そして少女と別れ、二人は魔力操作の治療へ向かった。

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