25,おかえりなさい
マジか。
なんというか、マジか。しか出てこない。
長年おばあちゃんと一緒にいたけど、え、いつから?
「おや、固まっちまったよ」
「メグ大丈夫? 驚いてしまったよね……ごめんね、ずっと教えなかった僕が悪かったよ」
「皇子殿下が悪いとかそんなんじゃなくて……すみません、ちょっと頭の処理が追いつかなくて」
「まあそんなことはどうでもいいさ。それより肝心なのは水晶だろう? さっさと出しな」
「そうだけど!」
それで皇子殿下はおばあちゃんとコンタクトが取れたってことか。納得したけど納得できない、なんで家族である私にそんな重大なことを伝え忘れるんだ⁉
水晶を取り出すと、おばあちゃんの目の前に置く。
「これなんだけど……」
「おお、見事に染まって。こんなに深い赤は初めてさね」
「やっぱり壊れちゃったのかな……」
あ、また涙が出てきた。情緒不安定か。
グスッと鼻を啜ると、皇子殿下が私の頭を撫でてくれた。
「だからそういうのは二人っきりの時に……まあいいか。
いいかいメグ。この水晶は私たちペジー家が代々受け継いできたものさ。
先祖の想いも、私達は引き継いでいる」
「うん、聞いたことがある。皆の想いや歴史が詰まってるんだよね?」
「そうさ。そうして時を流れてきたこの水晶には、意思が宿っている。
主人を守ろうとする意志さ」
忠誠心、のようなものだろうか。
皇子殿下も私の頭を撫でることを止め、おばあちゃんの方に体を向けた。
「水晶は基本何でも教えてくれる。
この水晶にとって私達は我が子同然なのさ。自分の運命の人間を問われたら、嫁に出したくない親心で邪魔をする」
「…………ほ?」
「つまり、水晶はお前さんの運命の相手が近づいてきたから赤く怒り狂ったのさ」
ということは? いや、それは私の思い込みだろう。
頭の中でその考えを否定するが、相反して顔に熱が集まっていく。
「ラセータ嫗、つまり……あの、なんというか、僕の運命の相手を教えてくれるように頼んだんだ直後に赤く染まったんだけど、その相手がメグだったということかな?」
「そういうことになるね」
皇子殿下は立ち上がり、天井を仰いだ。
どういう感情なんですか。
「さて、水晶を戻そうか。その涙を三滴おくれ」
「あ、はい」
おばあちゃんは私の目元を拭うと、その指先に滴った涙を持っていた小瓶の中に入れた。
その中には透明なシロップのようなものが既に入っている。
「それは何??」
「イブキジャコウソウとマジョラムを煮詰めたシロップさ。
メグの涙を入れて軽く振ると……」
「ピンクになったね」
きっとこのハーブも普通のハーブじゃないんだろうな。
パッと見可愛いピンクの液体を、あろうことか水晶に垂らした。
すると。
「水晶が‼」
「大切なのは、この水晶が守ろうとしたものの涙なのさ」
ここ数日私の胃を痛め続けた真っ赤な水晶が、清水のような美しさを取り戻していく。
あっという間に現れた美しい透明感に、思わず拍手喝采。
「ご先祖様の日記にこんな浄化方法、一切残ってなかったのに‼
なんでおばあちゃん知ってるの?」
「あまりにも独特な浄化方法だろう?
だから西の国に行くついでになにか解明できるかと思って、その部分の資料を持って行ったんだよ」
「そりゃ探してもわからないわ」
でもこれで私の代で水晶を終わらせるという最悪な展開は間逃れた。
久しぶりに見たこの姿に、涙すら浮かぶ。
「さて、これで水晶は一件落着ってとこかね。
……でも、お前さん達はまだもう少し話し合いがあるみたいだね」
「ええ、これからが大切な正念場です」
机の下で、皇子殿下に手を握られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます