24,うっかりで済まさないで
「なんでここに⁉ ハーブ集めに旅に出てたんじゃなかったの⁉」
「なに言っているんだい、水晶がえらいことになったってお前さんが私に手紙をよこしたんじゃないか」
「返事もらってないけど‼」
「あ、これ。昨日届いていたよ」
横から滑るように手渡されるのは、スイバの紋様にスイートシスリーの薫りを纏った羊皮紙の手紙。まごうことなきおばあちゃんからの手紙だ。
「ごめんね、本当は昨日渡したかったんだけどタイミングがわからなくて」
「そ、そうですか」
いや、昨日ばっちり私たち話していましたけどね。
手紙が開封されているのは、きっと検問に通してもらうためだろう。致し方ない。
サッと手紙を取り出して目を通すと、近いうちにそちらへ帰省すると短く綴られているだけだった。
「手紙を受け取るよりおばあちゃんが早かったんだ……」
「国単位で距離が離れているんだ、そういうこともあるだろう。……おや? 入っている手紙はそれだけかい?」
「? うん」
隣の皇子殿下がそっぽを向いた。
え、なんで?
「……まあいいさね。
ここじゃなんだ、別室をお借りしても?」
「もちろん」
なんという切り替えの速さと対応力。ついさっきまで私にプロポーズそしていただなんて思えないほど……あ、思い出すだけで顔が熱い。
しかもおばあちゃんに見られていたなんて!
「メグ、どうかした? 顔が赤いよ?」
「や、その……えっと……」
「あ、もしかしておばあ様にプロポーズを見られて恥ずかしかった? ごめんね、メグがあまりにも可愛かったから我慢できなかったんだ」
「皇子殿下、孫娘を口説いてもらうのは一向にかまわないんだがね、そういうのは二人っきりの時にお願いできないか」
「もう穴に埋まりたい‼」
「だめだよ、そんなことしたらせっかくの可愛いメグの顔が見れなくなっちゃうよ」
「(私は蚊帳の外ってかい)」
赤みが引くことないままの顔を抑え、私たちは会場の外にある休憩室へ赴くのだった。
******
「ふう……やっと一息つけるよ」
「なにか飲み物でも用意しましょう。紅茶にブランデーで香り付けしたものでよろしいですか?」
「ああ、ありがとうございます」
なんでこんなに落ち着いていられるんだ。
目の前で繰り広げられるほのぼのとした会話に眩暈がする。
落ち着けメグ、今私は少し取り乱しているんだ、だってついさっき人生で初めてプロポーズされて……あああああああダメだ、落ち着けない‼
「さっきから一人で何を百面相しているんだい」
「悩むメグ……可愛い貴重だ閉じ込めておきたい画家呼んで姿絵を残してもらおうか」
「皇子殿下、少し落ち着かれてはいかがですかね」
おばあちゃんに激しく同意。。
そんなおばあちゃんはこちらに到着したばかりのようだった。
少し汚れたローブを受け取ると、顔がよく見える。きっと長旅で顔色もあまりよくない……おや?
「前より肌艶がよくなってない?」
「西の国まで薬草を取りに行っていたんだがね、どうも向こうの薬草は私の肌と相性がよかったようなんだ。
十歳ぐらい若返った気分さ。たまには国王の使いで動くのも悪くないね」
「国王様から⁉ そんな重大な仕事だったの⁉」
悲鳴にも似た驚愕の声を上げると、皇子殿下とおばあちゃんが顔を見合わせた。
「まだ言ってなかったんですか?」
「聞かれたこともなかったしねぇ……私はてっきり皇子殿下から既に伝わっているのものだと思っていましたよ」
「僕もそんな話の流れになったことないので言っていませんでした」
やだあ、なんか仲間外れにされてる……。
私だってもう大人だし別に拗ねたりなんかしないけどさ、省けはよくないと思う。
「ああ、メグが拗ねてる! 可愛い!」
「可愛くなんてないです」
「照れてる! 可愛い!」
「皇子殿下、少し落ち着いてください。
あのねメグ、うっかり言うのを忘れていたんだがね。
私は国王の専属占い師なんだよ」
どんなうっかりだ。
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