21,マウント合戦
「カルロ皇子殿下、本日はお招きいただき……」
「カルロ様! 今度是非我が家のサロンへ、」
「皇子殿下。ついこの間皇子殿下にお似合いの絹が手に入りまして……」
誰ですか、知り合いの貴族しか来ない小さなパーティーとか言ったの。
私達が入場した後、想像していた十倍以上の人数に即圧倒された。入場したらサラッと皇子殿下から離れる予定だったが、あっという間に取り囲まれてしまったのだ。
少し小ぶと……恰幅の良い、男性が私たちの前に割って入ってきた。
「おや?こちらのレディは?」
「私の専属占い師です。最近色んな相談ごとに乗ってもらっていて、頼りにしているんですよ。ね?」
「コ、コンニチハ」
おいいいいいいいい‼
こんな状況になるなんで聞いていませんよ、皇子殿下‼
「(ひいいいいい……!逃げたい……!)」
「専属占い師殿ですか! 昨今は老若男女問わず人気があるとか。なるほど、皇子殿下が占い師を抱えたとなると巷も賑わいましょうぞ!」
「彼女が進言してくれるのはあくまでアドバイスです。従うのではなく、助言を受け入れて物事を進めていけばと思いましてね」
「流石皇子殿下!見分がお広い!」
このおじさん、やけに皇子殿下を持ち上げるな。
こっそり盗み見すると、蛇のような視線とぶつかった。あ、なんかゾワゾワする。
「ところで皇子殿下、ガーランダルク領のご息女と婚約を結ばなかったと小耳にはさんだのですが」
「事実だね」
ガーランダルク領のご息女と言えば。
私の記憶にこびりついているのは、昨日帰ってきた時にひと悶着あった城門前でのことだ。
皇子殿下がご令嬢にキレていたところ私が間に入ったのだが、そのご令嬢のことをマリーさんが確かガーランダルク領のご息女と言っていたのを思い出す。
「(ガーランダルク領のご息女とはご縁が無かったってことで……)」
次に行きましょう、皇子殿下。
生暖かい目で皇子殿下を見上げると、これまた柔らかな眼差しが返ってきた。いい意気込みです、皇子殿下。
「おお、噂に違いはありませんでしたか! それで本日は皇子殿下に是非紹介させていただきたい女性がいるんです!」
小太りおじさんの陰で見えなかったが、後ろに華奢で庇護欲を掻き立てられる女性が佇んでいるのに気が付いた。
淡いグリーンのドレスに身を包み、頬は愛らしいピンクに染まって耳元の小ぶりな宝石が儚さを際立てている。見るところ社交界に出たばかりだろう。
「この子は私の遠縁の親戚でしてな。成人したのを機に都心にやってきたのですよ!
いやはや、歳の近い知り合いがいない地で右も左もわからないのはとても心細いでしょう、是非皇子殿下には友人として手取り足取りご教授いただきたいのです!」
ああ、つまり親戚の子を婚約者としてどうだってことね。
「(私情はしまうって決めたのにな)」
鈍く軋む胸を抱えて、浅く息を吐いた。
しかしここでご縁を見るのが私の仕事、水晶の力無しでもやってやるぜ。
一歩引くと腰に何かが当たった。皇子殿下の腕だ。
「お気遣いいただき感謝する。しかし今日は見ての通り、連れがいてね。またの機会にお願いできるかな」
「(え、ちょっと!)」
「そ、そうですか、これはこれは失礼……」
「では私たちはこれで。メグ、あっちで少し休憩しようか」
「いえいえいえいえいえ皇子殿下、私は一人で休憩できますので是非ともご歓談を‼」
マジで机と椅子を用意してもらうべきだった‼ しかし今更後悔しても遅すぎる。
壁際でこちらを伺っていたジェイランさんが頭を抱えたのが見えた。面目ないです……。
結局私はエスコートされるがまま、バルコニーに出るしかなかった。
「皇子殿下‼ あれはまずいです‼」
「なにが?」
「なにがって、全部です!」
頭が痛い……!
思わずテラスにあった椅子に腰をかけ、机に沈んだ。
「ここに歩いてくるときに少し聞こえたんですけど、やっぱり私が皇子殿下を洗脳してるんじゃないかって噂されていましたよ!」
「そうなんだ。あ、メグが好きな鳥の香草焼き貰ってきたよ」
「ありがとうございます‼」
この人はなんでここまで冷静にいられるんだ⁉ 皿の上に山のように盛られた鳥の香草焼きをフォークで口に運ぶ。こうなったらやけ食い……あ、うま。
「大体最初から断っていたのに〝やっぱり参加しろ〟っていうから参加したんだよ。
感謝こそされど文句を言われるのは心外だ」
「(じゃあ私はなんのために来たんだ……)」
急に体の力が抜けて、背もたれに体を預けた。これではただ飯を預かりに来ただけな気がする。
「皇子殿下は運命の人を見つけにパーティーへ参加したんじゃないんですか」
「……運命って、なんだろうね」
都会でも星って結構見えるもんだなあ。なんて、呑気に空を見上げていたら、ため息の様な呟きが聞こえてきた。
「運命は、人の上に訪れるめぐりあわせ。天命によって定められた人の運ですよ」
「模範解答をありがとう。でもさ、僕は運命が怖い」
中からバイオリンの音が聞こえてきた。どうやらダンスタイムが始まったらしい。
が、今はそんなことどうでもいい。
「運命が怖いとは?」
「せっかくだし踊ろっか」
「はい⁉」
「大丈夫、中には入らないよ」
ちょうど鳥を一切れ食べ終えたところで、持っていたフォークを取り上げられた。 その流れで私の手を取ると、皇子殿下は流れるように私をエスコートする。
「わ、ちょっと!」
「あはは! 上手上手!」
「絶対嘘です! あ、足蹴りそう!」
「メグにならどれだけ蹴られたってかまわないさ」
「それ第三者に聞いたら勘違いされますよ!」
ゆったり揺れて回されて、受け止められて。
こやって夜空が広がるバルコニーにいると、昔の事を思い出してしまう。
「……そういえば、私が幼い頃一度だけこういったパーティーに参加したことがあるんです」
「へえ、興味があるな。そんなパーティーだった?」
元々近かった皇子殿下の顔が、より一層近くなる。なんだか恥ずかしくなって、思わず顔を伏せた。
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