18,暴走、ダメ、絶対
「お待ちください! 確かに行きすぎた発言ではありますが、なにもそこまでしなくても……」
「……メグ?」
「はい‼ メグです‼」
さっきまで恐ろしい程の無表情を貼り付けていた皇子殿下の顔が、少し崩れた。
より庶民じみた私の顔を見た気が抜けたのだろうか。
「皇子殿下、どうかお考え直しを‼ 彼女も皇子殿下の身を慮って行きすぎた進言をしたのです、どうか寛大な処置「メグ‼ 会いたかったよ‼」グエッ‼」
な、なに……⁉
さっきまでの塩対応は何処へ行った……⁉
皇子殿下は私を認識するなり、思いっきり抱きしめてくれたのだ。
それも唖然とする大勢の人の前で、だ。
「ああ、メグ、メグ……‼ 出迎えられてなくてごめんね、本当街の出入り口まで行こうと思っていたんだけど、ジェイランに捕まっていて……急いで出てきたんだけど、そこの女にも邪魔されてしまったんだ。僕と一緒に買ったハーブは今朝水やりしておいたんだ、一緒に様子を……あ、長旅で疲れているかな? いい薔薇が花屋から届いたんだ、バスタブに浮かべてゆっくりお風呂に入って休むかい?」
「お気遣い痛み入ります、ではなくてですね‼」
ほら、皆ビックリしてるじゃん! まだくっついてくる皇子殿下をなんとかして引き剥がすと、ちょっと寂しそうな顔が視界に入った。かまって貰えない大型犬か。
「皇子殿下、どうか彼女の罪をお許しください」
「えー……」
また皇子殿下の目の色が冷たく下がった。これは、私も不敬罪になるのだろうか。し かしお金で雇われているとは言え、専属占い師。ここで雇い主を間違った道に行かせるわけにはいかない。
「どうかお願い致します。ここで彼女を許す広いお心は民への安寧にも繋がるのです」
「……そうだよね、ちょっと言われたくらいで怒っていたら器が小さいって思われる。それは悲しいな」
よかった、わかってくれた……!
「じゃあ今回は不問にするよ。だから僕のお願いを聞いてくれないかな?」
「え? まあ、叶えられる範囲なら……」
「やった! 実は明日急遽パーティーに出席しないといけなくなったんだ。僕一人だと心細いからついてきてくれないかな」
「えっ、パーティーに⁉」
「本当は断っていたんだけど、国王陛下のご命令さ」
「私が行ったところでなにも変わらないかと思うのですが……」
「そんなことないよ、もしも近くに僕の運命の人がいたら、メグに助言を求められるだろう?」
いつの間にか陰に潜んでいたイライラモヤモヤが、ひょっこり顔を出した。
……って、これは仕事の依頼だから! 公私混同、ダメ、絶対‼
「助言依頼ですね、お任せください」
「ありがとう! 助かるよ!」
パーティーならあの赤く染まった水晶を持っていくことはなく、部屋の隅っこで人相占いや手に入れた情報で姓名判断くらいできる。
問題はパーティー会場に馴染むような服があるかどうかなんだけど……。
「わ、わたくしはこれで失礼しますわ……!」
「(あ……)」
可哀相に、あんなに青ざめて……。
ガーランダルク領のお嬢様が駆け足で走り去るその後ろ姿を、何ともいえない気持ちで見送る。
お気持ちはわかりますよ、怖かったですよね……。
しみじみとしていると、皇子殿下の腕が腰に回った。
「さあメグ! 今日も君の好きなお菓子を用意したんだ! あとでゆっくり一緒に食べよう」
「え、ちょっと……」
グンと近くなる距離。
昨晩森の中でマリーさんが私に叩きつけた言葉がリフレインする。
『これは奇跡……いいえ、最早寵愛、寵愛よ‼』
『誰もが喉から手が欲しがるその立ち位置を‼ 当然の如く甘受しているのをどう思っているのかしら⁉』
皇子殿下は運命の人を探すために私をパーティーに連れてこうとしている。
だから勘違いしちゃいけないんだ。
下唇をキツく噛んだ。
「……ちょっとは意識し始めたみたいね」
この様子を遠くから見ていたマリーさんがため息をついていたことは、私にはもちろん聞こえていなかった。
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