17,ただいま
「戻ってきちゃった……」
特に何の成果も得られないまま、文字通りノコノコと王都に足を踏み入れた。たった一日しか離れていなかったというのに、懐かしく見えるのは何故だろうか。
「んー……あれだけ長時間馬車に揺られたのに疲れを感じないわ。やっぱり自然の中で寝ると睡眠の質も良くなるのかしら」
「きっと木が空気を綺麗にしてくれているから、気のせいじゃ無いと思いますよ」
でも森の中と違った都会の空気も悪くないと思い始めている私は、染まってしまったのだろうか。
自分の知らなかった薄情なところが見えた気がして、ちょっとやるせない。
「ちょっと顔色が悪くない? 昨日眠れなかったのかしら?」
「そりゃ顔色も悪くなりますよ、結局水晶は綺麗になるどころかあんな真っ赤に染まって……」
「私の話聞いていた? そりゃ占い師であるマーガレットにとっては大変なことだろうけど、現状カルロ皇子は水晶がなくても特におとがめはしないわよ」
「出た、マリーさんの寵愛説」
「何か言ったかしら」
「イイエナニモ?」
馬車から荷物を降ろしていると、城の入り口が騒がしいことに気がついた。
まあ私はそこを通らないから別に良いけど、僅かな野次馬心が芽生える。
「マリーさん、あの人集りなんでしょうね?」
「喧嘩かしら、行ってみましょう」
ちょっと遠回りになるけど、城前からでも塔はいけるし。
荷物を御者さんに預けて、目と鼻の先にある入り口を潜った。
「……あ」
皇子殿下だ。それと……。
「マリーさん、あの綺麗な女性は誰ですか?」
城の前にいる人集りの正体。それは皇子殿下と見目麗しい女性だったのだ。
しかしなんとも険悪な雰囲気……というか、優雅な笑みを浮かべてらっしゃるご令嬢に対して、皇子殿下は無表情。
喧嘩でもしたのだろうか?
「あの方は、ガーランダルク領主のご息女ね。近々カルロ皇子と婚約されるって噂だったけど」
「そうなんですか⁉」
なんでそういう大切な話をあの方は私にしてくれないんだ! 水晶は無くともタロット占いで相性くらいならみれるのに!
なんかイライラモヤモヤするけど、こうしちゃらんねぇ!
「ちょっと、私行ってきます!」
「あ、マーガレット!」
私は外套のフードを被ると、行き交う人々に紛れながら二人に近付いた。
「カルロ様、先日お送りしました夜会の件、あれほど参加してくださいませとお願いしましたのに」
「そうだったかな?すまないがこちらも予定が立て込んでいてね、しばらくそういった場には顔を出せそうに無いんだ」
「まあ、それはそれは……お忙しい御身ですものね。あまり我が儘は言えませんわ。……ですが、最近面白い噂を聞きましたのよ」
な、なんつう塩対応……。
思わず身震いした。どうしよう、人相占いも併せて試みようと思っていたけど、そもそもの関係性がこんな歪では占いなんてもってのほかだ。
人の陰に隠れながら、こっそり耳を立てた。
……だからびっくりして耳が大きくなるんじゃないって。
「なんでもここ数週間、あの別塔に若い占い師を住まわせているとか?」
「僕の専属占い師だ。それが何か?」
「個人の趣味をとやかく言うつもりはございませんわ。ですが皆心配されておられますよ」
「そうか、それはご忠告感謝する。ではこれから用事があるので失礼」
「お待ちください」
やば、こっち来る!
そう思って慌ててその場を離れようとしたが、幸いなことにご令嬢が皇子殿下を引き留めてくれた。
よし、これはご縁がなさそうだな。撤収撤収! この隙にマリーさんのところへ戻ろう。近くに居た衛兵さんに紛れて戻ろうとしたのだが。
「ご存じですか?〝カルロ皇子殿下は若い女の占い師に誑かされ、洗脳されている〟なんて、サロンでもよく話題に上がるのですよ」
「洗脳……?」
おいおいおいおいおいなんだそれ‼
思わず飛び出したくなったが、なんとか堪えた。偉いぞマーガレット、お前は偉い子だ。
「なんでも夜な夜な塔に通い詰めては朝日と共に出てくるとか、占い師の願いを全て叶える代わりにその体を隅々まで楽しんでいるとか」
ス……と、自分の体を見下ろした。
「(……私のことを見ていないのに、なんでそんな噂が立っているんだろう……)」
自慢じゃ無いけど、中々貧相な体だと思う。
反対にあのご令嬢は出るところは出て、絞まるところは絞まって。同じ女性として羨ましい限りだ。
もし私があのご令嬢くらい破壊力のある体だったら、その噂も納得が行くのだが。
つまり濡れ衣にも程がある。
不敬罪か何かでしょっぴかれやしないだろうか、ご令嬢が心配になってフードの隙間から二人を見ると――
「今の言葉は我が専属占い師と僕に対する暴言と捉える。衛兵、彼女を地下牢へ」
「え⁉」
「(ほら‼)」
いわんこっちゃない‼
私だけならまだしも。皇子殿下になんと言うことを‼
「それからサロンで話題になっていると喋った。この女が参加していたサロンを調べろ。そこに同調した人物も同罪とする」
「ちょっと待ったー‼」
そこまでは行き過ぎだ‼
慌てて衛兵の背中から飛び出すと、皇子殿下に向かって駆け寄った。
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