06,もう少し
「ねえ‼ 見た⁉ メグ‼ あんなに可愛く成長して……‼」
「はあ……俺は昔のマーガレット嬢を知らないのでなんとも言えませんが」
側近のジェイランにダル絡みをしている自覚はある。
でもしょうがないよね、ようやく会えたんだから。
「よかったですね。ですが殆ど強制的に見えましたよ、マーガレット嬢に悪印象を与えたのでは?」
「メグがこっちに来るまで、だよ」
ここまで待ったのに、掌から擦り抜けられたら正気を保てる気がしない。
まずは確実に体を手に入れるため、許されるギリギリのラインまで己の権力を使うのだ。
「いやー、上手く行って良かったよ! やっぱりメグのおばあ様に手を回したのが一番効いたね」
「それでよかったんですか? それもあって不信感抱かれているように見えましたけど」
「そんな不信感、痛くも痒くも無いよ。城に招き入れた後にゆっくり懐柔していけばいいんだから」
ずっと、ずっとこの日を夢見ていた。正確には来週の迎えに行く日かな。
僕が思っていたよりメグはずっと綺麗に成長していた。
天空に広がる夜空のような艶やかな黒い髪や、朝日を切り取ったような目映い瑠璃色の瞳は変わっていなかった。
けど体つきが女性らしくなった彼女は、きっとどの男性から見ても美しく映るだろう。正直ジェイランにすら見せたくなかったけど、それはしょうがない。
「それで何処まで話しを進めたんですか?」
「全部だよ。城に迎え入れることも、本拠地を移して欲しいのも、別塔やハーブ畑を用意しているのも」
「彼女はよくそれを……いや、承諾していないと言っていたか」
「そこはね? ほら、僕って皇子だし、なによりおばあ様の手紙があるし」
「よく引かれませんでしたね」
「引いていた……のかな? でもちょっと心配になったよね、こんな少し押されただけであんな可愛い顔して困っちゃってさ」
愛馬に揺られながら整備されていない獣道を走っていくと、明かりが見えてくる。もうすぐ村の入り口だ。
馬で走れば速いが、人の足で歩こうと思うととんでもない時間を要するだろう。メグはこんな所に住んでいるのか。
いや、否定するつもりは無い。この森の全てが彼女を作り上げたのだ、感謝をしなければ。
「ですが彼女はカルロ皇子のことを覚えていなかったんでしょう?」
「痛いところつくよね」
ちょっとだけイラッとした。
けどそれもすぐに消え去る、大したことのない感情だ。
「別にいいんだよ、これからもう一度始めたらいいんだから」
頭上にひしめく星は、うるさいくらいに震えている。
城に来てくれたらどんな歓迎をしようかな。
ほんとうはこの夜空に輝く星のようなダイヤモンドの髪飾りを送りたいけれど、きっと彼女はそういった貴金属を好まないだろう。ならばこの両手に抱えきれないほどの花束を贈ろう。
「ふふっ……楽しみだなぁ……。十五年ぶりだ」
「(こじらせてるな……)」
大丈夫、今まで会えなかった時間を考えると、あと一週間くらい待てる。
そうだ、ハーブ畑だけじゃなくて、好きなハーブを植えられるようにまっさらな畑を追加しておこうか。他にも薬草を調合するための機材やら棚も用意して……ああ、考えるだけで胸がいっぱいになる。
見張りの立つ村の入り口で、緩んだ口元を引き締めた。
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