第14話 はじめてのデート。(6)

「そうですか、まぁまぁですか……。でしたらこれは下げて、次のお菓子に参りましょう」


「え!?」


 ちょっ、それは! あなたなにいってるの、こんな美味しいもの下げちゃったら泣くよ!


 唖然あぜんとなったわたしを見て、クスクスと笑うフレイクさん。


「冗談です。ココネは素直ですね、わかりやすいです」


 うっ、からかわれたっ!


「フレイクさまはイジワルです。泣きますよ」


 悔しいので、すねた顔をしてやりましょう。


「それは困ります。あなたに好かれたくて、私はここにいるんですから」


 あれ? 本当に困った顔だ。そんなお顔をさせるつもりはなかったんですけど。

 わたしは、


「あ~ん」


 再び口を開けて、彼がスイーツを運んでくれるのを待ちました。


「小さな歯ですね」


 でしょうね。乳歯ですから。


「あーんっ!」


 わたしの催促さいそくに、


「どうぞ、お姫様」


 チョコケーキっぽいスイーツが、再びお口の中を満たしました。


(美味しいっ! これ本当に美味しいっ)


 お父さまとお母さまにも食べさせてあげたいな。お土産に欲しいってねだったら、買ってもらえるでしょうか。

 でもこれ、きっと高級品ですよね。うちの財力では、とても手が出せないほどの。

 だってアレク王子主催の豪華なパーティーでさえ、が使われたスイーツはなかったもの。

 だからわたし、この世界にチョコっぽいものはないと思いこんでいたんだけど、あったんですね。


 ですからこんな美味しいもの、もう二度と食べられないかもしれません。わたしはしっかり味わってから、


 ごっくん……



「おいしいですっ! とってもおいしいですっ」


 この人に困った顔は似合わない。彼が喜んでくれたらいいなと思いながら、本気の笑顔をお見せしました。

 実際このチョコケーキは、本気で美味しかったですし。


「フレイクさまもたべてみてください。本当においしいですよ!」


 大喜びのわたしに、


「気に入ってもらえてよかったです」


 彼は嬉しそうに微笑んで、


「まだまだ美味しいお菓子はありますよ。たくさん召し上がってくださいね」


 ときどきご自分でも味わいながら、わたしのお腹がいっぱいになるまで、いろいろなスイーツをお口へと運んでくれました。


     ◇


 王都でのデートは、とても楽しいものでした。お土産もたくさんもらいましたし。

 わたしがおねだりしたわけじゃありませんが、あのチョコケーキは10個もいただけました。お母さまよりもお父さまの方が、「スゲッ、これスゲェな!」とびっくりしながら貪っていましたよ。

 わたしも食べたかったのですが、早めのディナーもご馳走ちそうになりましたからお腹がいっぱいで、それに今日は甘いものをたくさんお口にポイしてもらえましたから、


(明日までもつかな? チョコだし大丈夫かな)


 と思いながら、自分の分は確保しておくにとどめました。


「お父さま、ひとり1個ですからね。のこりは村長さんにわたしてください。すこしずつになりますけど、小さな子たちにもたべてもらうんですから」


「あぁ、わかった。今から村長のところに行ってくるよ」


 村の人間は村民だろうが領主だろうが、大家族のひとりです。みんなで助け合って、みんなで幸せになるんです。

 お父さまはそういう考えの人で、お母さまはに惚れたらしいです。わたしもお父さまの、そういうところは尊敬そんけいしています。


 さすがに今日は疲れました。王都の往復は、馬車の時間も長かったですし。楽しい時間ではありましたが、気が張っていたのも事実です。

 寝間着に着替えたわたしは、自分のベッドにもぐります。すぐに眠くなって、


(おやすみなさい……)


 その夜わたしは、ひさしぶりに前世の夢を見ました。

 街中をスイーツを探しながら、フレイクさんと一緒に散策。前世の夢だから、わたしは前世の姿。フレイクさんは年下の男の子って感じです。


 異世界人の彼は見るもの見るものが珍しいらしく、子どもっぽいお顔で目がキラキラしているの。

 花屋さんでわたしが、農林課で得た知識を偉そうにしゃべると、彼は感心した様子でうなずき、


「ココネは花が好きなのですか?」


 好き? 別にそれほどじゃないけど、


「はい! お花はすてきですもの」


 適当ぶっこきましたよ。女子はだいたい花が好きですからね。

 彼は前世のわたしにも優しくて、お店で横並びの席に座ってスイーツを食べてるときなんか、スプーンにすくったプリンをお口へと運んでくれたりも。


「おいしいですか?」


 そうたずねる彼に、わたしは自分でもスプーンに乗せたプリンを差し向けます。

 わたしたちはたくさん笑い合いって、味覚も雰囲気も甘いだけの時間を過ごしました。


 彼はチョコレートがお気に召したようで、わたしが勧めるままに食べてくれました。トリュフを歯で挟んで割り、半分は自分のお口に、もう半分はわたしのお口に入れてくれたり。


(これって、間接キスなんじゃ……)


 なんて恥ずかしくなったけど、彼と同じ味を楽しめているのが嬉しかった。


 そんな夢を、見たの。


 で、翌朝。

 フレイクさんから、また花束とお手紙が届けられました。花の量が昨日ほどではないのは、わたしが昨日、


「花はキレイだけどたべられない」


 みたいなことを、ポロっと口にしたからかもしれません。

 お手紙には、


「また、お菓子をご一緒いたしたいです。あなたが美味しそうでいらっしゃる、愛らしい姿が忘れられません」


 要約すれば、そのようなことが記されていました。

 そういえばあの人、お菓子に夢中になってるわたしをガン見してましたよね。

 もしかしてあれ、


「かっわい~な~♡」


 って思われてたの!?


 幼女はお菓子に夢中になるものです! そ、それはわたし、かわいいですわ。わかってますよっ! 自分でもかわいいって思いますしねっ。


(うっ、うぅ~……恥ずかしい~)


 だけど、よくわからなくなりました。


(やっぱりあの人って、幼女趣味なのかしら……)


 そう思いましたが、彼を知る前に感じたような不快感はありませんでした。

 なぜでしょう?


 幼女趣味は許せない。


 その思いに変わりないのに、彼がわたしに向けてくれる言葉は不快じゃなく、その視線はよこしまでなく、ただ本当に、


(わたしと結婚したいだけ……なの?)


 そう、感じたの。

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