第6話 お見合いかな?(1)

(え? なにこの人、人間? 2mくらいあるんじゃない!?)


 のっぽな執事さんを見上げるわたし。


「ヘッセンシャールこうがお会いになられます。わたくしめがご案内いたしますので、どうかご同行をお願いいたします」


 これ、丁寧語ていねいごなの? 聞きなれない言葉づかいで、よくわからないんですけど。

 というかこの執事さん、プレッシャーがすごいな。背が高いし顔も濃いしで、あつがすごいんですけど……。


 とはいえここで、「いやです」なんていえないし、わたしだって貴族の令嬢としての教育は……少しですけど受けていますから、


「あんない、おねがいいたします」


 無難ぶなんに答えましたとも。


 執事さんに続いて部屋を出ようとするわたしをにらみつけるように、無言で「わかってますよね!」を突きさしてくるお母さま。

 

(はぁ……わかってます、わかっておりますとも!)


 幼く見えますが前世の27歳までの記憶をもっていますから、ではありません。大丈夫です、たぶん。


 男爵家の中でも下の方だと思われるわがと、王子のご友人であられる新公爵さまとでは、身分が違いすぎます。もし失礼があったら、わが家の爵位没収もありえます。


(わが家の命運は、わたしの言動にかかっているわけですね? わかりました。気が重いです)


 わたしはお母さまに、


(だいじょうぶです。きっと、それなりに!)


 という思いを乗せた笑顔を残し、不安そうなお母さまを残して部屋を出ると、高身長執事さんに続いて廊下をまっすぐに進みます。


 ですが……お母さまと離れて、ちょっと心細くなってきました。


 しばらく無言で歩き、執事さんに案内されて到着したのは、豪華で重々しい扉の前。


「メックール男爵令嬢、ココネ様をお連れいたしました」


 その声に内側から扉が開けられます。扉を開けてくれたのは、室内にいたメイドさんでした。


 扉の先は、豪華ごうかですが落ち着いた雰囲気の部屋。執事さんにうながされて室内に入ると、ソファーにかけていた貴公子きこうしが腰をあげて、


「招待をお受けいただき感謝いたします、メックール男爵令嬢。私はフレイク・ヘッセンシャール。このやかたあるじをしております」


 にこやかというより、さわやかに微笑ほほえむこの人こそ、ヘッセンシャール新公爵。

 どういった理屈かはわかりかねますが、わたしに求婚の意思を向けている人です。


(やっぱり美男子だな、この人)


 美麗びれいというのかな? 王家にもつながる高い身分のお貴族さまだし、庶民(田舎男爵家含む)とは血統けっとうが違うのでしょう。


「メックール男爵家第一子、ココネともうします。本日はおまねきくださり、こうえいにぞんじます。ヘッセンシャール公爵さま」


 ドレスのすそをつまみ、軽く膝を折って頭を下げます。

 挨拶はですね、しつこく練習したので大丈夫です。これで良いはずです。ダメなら悪いのは、指導したお母さまです。


「丁寧なご挨拶ありがとうございます。男爵令嬢は幼いにもかかわらず、すでに淑女しゅくじょでいらっしゃるのですね」


 それ、ほめ言葉なの? それに今「幼い」っていいましたよね。「上手にご挨拶できてえらいね〜」ってことでしょうか。

 結婚してほしいわりには、ちょっと失礼なんじゃございませんこと?


 でも、怒っているわけじゃなさそうですから、挨拶はあれでよかったのでしょう。

 第一関門は突破とっぱです。


「どうぞ、おかけになってください」


 公爵さまが手でしめすソファーに、


「はい。しつれいいたします」


 腰をうめる。


(なにこれ!? ふっわふっわ。こんな上等なソファー、前世でも座ったことないよ)


 わたしの正面に座り、彼は作ったような笑顔をします。貴族ですから作り笑顔は得意でしょう。

 ですが作り笑顔なら、わたしだってそれなりにできますよ。


 にっこり♡

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