第2話 縁談がきました。(1)

「えんだんって、けっこんですか!?」


 お母さまにリビングに来るよういわれたわたしは、礼儀れいぎ作法さほうの本を閉じて自室を出ました。

 リビングに向かうとそこには、にこやかに微笑むお母さまと、むすっとした顔のお父さまがソファーに並んで座っていて、わたしがふたりの対面に腰を下ろすと同時にお母さまからつげられた言葉が、


「あなたに縁談えんだんがきました」


 でした。


「わたし……まだ子どもですけど?」


 この国の女性は生後2000日で、結婚ができる「半成人ローター」とみなされます。

 2000日って……ねぇ? さすがにまだ幼女ですよ。前世では小学生ですらありません、園児です。

 そうはいっても生後2000日で結婚するなんて、王族の政略せいりゃく結婚けっこんや高位貴族の身内みうちがためばかりですけど。


 ですが、なにごとにも例外はありまして、生後2500日を迎えたばかりのわたしに結婚の話が来るのも、とりたてて不自然ではありません。

 わたし一応、貴族令嬢のすみっこに座っていますから。


 ……ん? 不自然じゃない?

 って! そんなわけない。めっちゃ不自然だよ。こんな下級貴族の幼女に、縁談が来るわけないでしょ。

 だけどお母さまは、このような冗談をいう人ではありません。

 なので、わたしに縁談が来ました。はい、わかりました。それはわかりました。

 わかりましたけど!


「わたし、まだけっこんしたくありません」


 自分の意思をきちんと両親につげました。幼児らしく、舌足らずを演じながら。

 たとえ親子であっても、人は話をしないと分かり合えませんからね。それは前世でも今世でも同じです。

 前世の両親は高圧的で、あまり話が通じるタイプではありませんでしたけど。


 ですが結婚ですよ? 結婚。

 結婚すれば家を出て、旦那さま(考えるだけでもちょい恥ずかしい)につくす生活になるわけですよね。


 今世のわたしには、結婚なんてまだ早いです。お母さまとお父さまが、わたしの生後2500日の記念日をお祝いしてくれたのは、つい数日前ですよ。

 前世でいうならわたし、小学生になったばかりの幼女ですから。


「あなたは見目もよろしいし、頭もよろしい。今すぐ人妻ひとづまとなってもしっかりやっていけます」


 わたしの主張は完全無視で、やさしく微笑ほほえむお母さま。なにいってるんですかこの人。そんなわけないでしょ?

 たなの高い位置のお皿が背伸びしても取れないような子どもに、人妻がつとまるわけないでしょ!?


 とはいえこの世界での……というか今のわたしは、自分でも「ふふんっ♡」と自慢気じまんげになっちゃうほどの幼女ようじょです。

 大きなひとみに長いまつげ、桜色の唇に白い肌。背中を隠すほど伸ばされた髪は少し波うつ赤みをびた金髪で、金色というよりは輝く桃色のような色合いです。

 前世でこの外見だったら、芸能界にスカウトされていたでしょうね。めっちゃかわいい♡ ですからね!


 はっきりいってこの世界でも、今のわたし……ココネ・メックールほどあいらしいおんなの子はみたことがありません。

 領民りょうみんのみなさんも、「姫さまは本当めんこいなー」と大絶賛だいぜっさんですよ。

 なのでロリコンというか幼女ようじょ趣味しゅみというか、そういうヤバめの人たちが求婚してくることもありえます。


 うわぁ~……ゾッとしますね!


 今のわたしはロリっにすらなれていないお年頃だというのに、「結婚してください」っていってきたわけですね?

 ですがこの様子だと、お母さまは結婚に賛成みたいです。


「お父さまっ!」


 わたしを溺愛できあいしているお父さまなら、結婚には反対のはず。まだ幼いわたしを、手放てばなしたくはないでしょう。

 ですがお父さまは、


「仕方ない。これ以上の縁談は、この先望めない……」


 と、苦虫にがむしを噛み潰したような顔をしました。

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