第9話 まとめ 前

 梅雨にさしかかり、蒸し暑さが増した六月下旬。

 私は閑静な住宅街を傘を差しながら歩いている。 

 「高階唯」の痕跡を求めて、私はR高校へ取材を申し込んだ。私個人の取材では高校側も承諾してくれないだろうと思い、旧友に頼むと、彼を通して取材の承諾を得ることが出来た。持つべきはそれなりに偉くなった大手出版社勤めの友人であるとしみじみ思う。

 そういう訳で、私は住宅街を抜けた先にひっそりと建つR高校へと足を踏み入れた。


 正門から入って昇降口横の高校事務室へ挨拶を済ませ、見学者証を受け取る。校舎内は誰もいないんじゃないかと思うほど静かで、廊下を歩く私の足音が異様に大きく聞こえる。今のところ事務室の職員以外誰とも会っていない。

 1階から2階へ階段を上り、1年生の教室前を通り過ぎる。黒板前の先生が雄弁に語り、生徒はそれに応えるでもなく居眠りをかましている。かつて私も経験した午後の一時。懐かしさを覚えつつ、3階、4階と歩を進めていく。


 一通り校舎を見て回った後、職員室や事務室にお邪魔し、「高階唯」に関するお話を伺った。

 そして最後に授業終わりの生徒にもお話を伺う機会をもらい、遠慮なく取材をさせていただいた。生徒は終始「誰だコイツは」という顔をしていたが、取材自体は滞りなく終わった。

 

 わざわざ泊まりの支度までしてきた取材の旅は、およそ2時間ほどで終わった。どこか観光するでもなく、足早に帰路に就いた私は、家に帰るや否や早速PCとにらめっこを始め、現在この文章を書くに至っている。


 

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