第8話 発生源

 『高階唯』。この名前を聞いたことがあるだろうか。

 私がこの名前を初めて聞いたのは先月末、某出版社に勤める旧友と飲んでいたときの事だった。


「なあ、『高階唯』って知ってる?」

 私は首を振る。

「今巷で話題になってる都市伝説?みたいなヤツでさ。同じ名前の女子高生が自殺したって報道が何度も出てるんだって。んで、詳しく調べてみるとそんな女子高生が自殺したって記録はないんだよ。テレビ局も新聞も、ウチの雑誌部もそんな報道した覚えないってさ。でも事実、『高階唯』は死に続けててそれが世に出回ってる。・・・なあお前、オカルトライターやってたよな?ちょっと調べてくれない?」

 調査の発端は大体こんな感じだった。そもそも私はオカルトライターではなく、オカルト”も”書くだけの雑食ライターなのだが、原稿料はそれなりに出るとの話だったので『高階唯』に関する特集記事の仕事を引き受けた。


 調べてみて驚いたのは、結構公に『高階唯』に関する情報が出回っている事だった。都市伝説の類いであればそこまで表沙汰にならず、オカルトファンやネット民の間で話題になっている程度だろうと思っていたが、『高階唯』で調べると多くの情報がヒットした。

 予想通りオカルトファンが主に騒いでいるのだが、情報元の約3分の1が一般人、中にはよくテレビで見る芸能人もいた。

 彼らの情報はまちまちだが、一貫しているのは『高階唯が首吊り自殺した』という事実。場所も時間も、時には国すらも超えて点在する情報群は全て『高階唯が首吊り自殺した』という大元の上に成り立っている。

 私はとりあえずこの高階唯、もしくは高階唯のモデルとなった人物の捜索に努めた。

 

 ・・・・・


 2週間。私はPCと睨み合いを続けていた。

 高階唯に関する情報は真偽不明なモノが文字通り無数に存在する。初めは一つ一つ調査しようと地道な方法をとっていたが埒があかない。そこで高階唯に関する一番初めの、最古の情報を探すことに調査の方向性をシフトしていた。

 『高階唯』と調べて出てきた検索結果をただひたすらにスクロールする毎日。ページを追うごとに時が遡っていく。たまに有用そうな情報に目を通し、それが全くの無意味であったことに落胆する。そんな日々。

 そんなある日、私はある一つのサイトを見つけた。

 それは某県内の学校に関する口コミを纏めたサイト。恐らくは各学校に通う生徒の保護者が書いたと思われるコメントがそれぞれの学校の写真付きで掲載されている。

 そのサイトの一番最後、ここでは仮にR高等学校とするが、R高校の口コミの中にこれまで探し求めていた名前がひっそりと載っていた。


『高階唯はここで殺された』


 日付は20年前。2004年にコメントされている。私はすぐにR高校について調べた。

 ██県██市██高校(通称・R高校)。地域でも有名な進学校で、多くの難関大学合格者を輩出している。部活動も盛んで陸上部はインターハイ常連の強豪である。

 かの高校に悪い噂はなく、評判も悪くはない。ましてや『女子高生が殺された』なんて事は少なくともネットで調べた限りでは全く無い。

 そろそろ机にかじりついての調査も限界を迎えたのかも知れない。私は遠出の身支度を済ませ、現地へと赴くことにした。

 


 


 


 

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