第14話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメと御使マナカのケース──② 後輩は先輩を立てるもの

 終わってなかった。

 御使マナカは今更のように首を捻る。


「……で、この穴からどうやって出るの?」

「? いや、羽の生えた天使なんだから空飛べるでしょぉ?」


 冬路ユキメはマナカの顔をまじまじと見た。


「それで上まで行ったらロープかなにか垂らしてくれるぅ? ユキメはそれ使って登るからぁ」

「? いや? 僕の羽は浮遊するだけだぞ?」


 マナカもユキメの顔をまじまじと見る。


「だから今の高さより上に浮上したり、飛行したりできんけど?」

「……っかえねぇ先輩だなぁ!」

「おいっ!? それが先輩に言うことかあ!?」


 声を荒げるマナカに対して、ユキメはやれやれと首を振るばかり。


「それじゃあ出れないじゃん。なんのための天使キャラなのぉ?」

「おめえの方こそ魔法使いだろうがよ! なんかいい魔法ないの?」

「これだから素人は……あのですねぇ、ユキメ、さっきキノコ食べちゃいましてぇ」

「キノコ?」

「正確にはお酒に入っていたキノコのエキスを飲んじゃったって感じなんですけどぉ」


ひろし『なんか下ネタ言ってる?』

びろーん『キノコのエキス:審議中』

カスタム二郎『まずいですよ!』

まるア『え? なにが?』


 コメントがざわついたが、ユキメ達は気付かなかったようだ。

 キノコの話を構わず続けている。


「そのキノコの所為で、ユキメ、今魔力が駄々洩れ状態なんですよぉ」

「ふうん? 大変なの、それ?」

「ろくな魔法が使えないんよ。今はこんな風に……」


 と、ユキメは近くのゴミ山に手を伸ばしてみせた。

 指先から冷気が放たれ、ゴミ山が凍てついていく。


「……見てぇ? こんな風にちょっと冷気が出て凍らせることができるくらいで、それ以上の魔力を集中する魔法使えないんですぅ」

「空飛ぶ魔法とかは?」

「そもそも知らんしぃ」

「……っかえねぇ後輩だなぁ!」

「それパワハラぁ! それが後輩に言うことかぁ!?」


はちみつ『使えない2人』

もちっこ『使えないもの同士でのみっともない争いはやめるんだ!』


 マナカはため息交じりに首を振る。


「……っかし、ほんと、これどうするんだよ。ぼく達、落とし穴から出られないで死ぬのを待つだけ?」

「……有識者、なにかいい方法ないかぁ?」


 ユキメはコメント欄に問いかけ始めた。


「いつものように指示厨してぇ? みんな得意でしょぉ?」


カシス『指示待ちやめろ』

デンタル『いうてそれカンニングやぞ』

青いゲリラ『都合のいい時だけ教えてもらおうとするのはどうかと思うが』

はちみつ『そこは自分で考えないと』

塩辛『ゴブリンをおびき寄せたらどう?』


 ユキメの目がコメントの1つに吸い寄せられた。


「なるほどぉ? ここで騒いでゴブリンたちの注目をひく、と」

「ああ。ここから出して! ってゴブリンたちに助けを求めるってこと?」

「親切なゴブリンなら助けてくれるかもしんないねぇ。いねぇよ、そんなゴブリン」

「じゃあどういうことだよ!」

「マナカ先輩、お腹痛くなったりしてなぁい?」

「は?」

「よくあるでしょぉ? 牢屋の中の囚人が病気の振りして、看守が様子を見に来たところをやっつけるみたいなぁ。それできないかなぁ?」

「ああ、それでお腹痛い振りしろって?」

「振りじゃすぐバレちゃうかもしんないからぁ、本当に痛くなった方がいいと思うんだよねぇ。マナカ先輩、そこに落ちてるゴミ食べてみてぇ?」

「嫌に決まってんだろ! なに言ってんだおめえ!」


青いゲリラ『大体、ゴブリンが落とし穴の中まで降りてくるはずがない。腹痛を訴えたところで、逆に面白がって上から糞尿を投げつけてくるような奴等だぞ』

もちっこ『わざわざ殺しにも来ないで、衰弱死するのを笑いながら待つだろうな』


 コメントを見て、ユキメは肩を落とす。


「ほなアカンかぁ……」

「アカンアカン! 人にゴミ喰わせようとすんな! そもそも人として終わってんだよなあ」

「じゃあどうしますぅ? マナカ先輩、ここから出るためのいい考えあるんですかぁ?」

「それはそのお……ええっと、ユキメが踏み台になって、僕がそれを踏んづけて上までジャンプするとか?」

「マナカ先輩が下になってくださいよぉ。先輩でしょぉ? 後輩のための捨て石になってぇ?」

「後輩が下だろうがよ!」


骨ロック『どっちにしろ、そんなんじゃ手も届かないだろ』

kj『結構この落とし穴深いね』

まるア『さっき殺した巨大Gがあるよ!』

塩辛『え』


 コメント欄の一言に、ユキメも一瞬押し黙る。


「ん? どした?」

「……マナカ先輩……わかりました、先輩が先に上ってイイデスヨ」

「え? いいの!? じゃあ、ユキメが僕の踏み台になってくれるってこと? いやあ、悪いね!」

「いいんですよぉ。でも、ユキメが踏み台になったくらいじゃ上まで届かないんでぇ……もっと大きなものを踏み台にした方がいいと思うんですよねぇ」

「? なんかそんなおっきなものあったっけ?」

「……それとか」


 ユキメは近くでひっくり返っている巨大Gを指差した。


「……人の背丈くらいあるデカさでしょぉ? マナカ先輩、それ使ってぇ?」

「……これ踏めって言うのかよ!? Gを!?」

「どうぞどうぞお先に行ってぇ? 上まで行けたら、ロープかなにか垂らしてくださいねぇ?そうすれば後はユキメ1人で出られますからお構いなくぅ」

「嫌だよ!? 大体、巨大Gって言ったってこれを踏み台にしてもまだ上に手が届くかどうか……。別の方法考えよ? そうしよ?」


kj『巨大Gに触るの? いやあ』

びよーん『巨大Gもう映すな不快』

もちっこ『嫌な臭いとかばい菌いっぱい移りそう』

まるア『巨大Gを縦に置いて、冷気で固定。更に巨大Gの足をもいで梯子状に組み立てて冷気で固定。そうやって重ねれば、落とし穴の上まで余裕で上がれるよ!』


 ユキメは無感情にコメント欄を眺め、


「……だそうですよ、マナカ先輩」

「いやだあ! おめえがやれよお!」

「マナカ先輩が先に上がるって言ったんですよぉ? こういう時、後輩は後から行きますんでぇ。じゃあ、さっさと巨大Gの足もいで組み立ててくれますぅ? 組んだ後、凍らせて固めるのはユキメがやるんでぇ」


 ユキメは指先から冷気を出しながら、マナカを促した。


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