第13話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメと御使マナカのケース──① 2人はグダグダ

「いや、ユキメに言われてもわかんないんですけどぉ。ていうかむしろ聞きたいのはこっちでぇ、先輩、なんで指輪から出てきたんですかぁ?」

「指輪? おめえなに言ってんの?」

「いや、マナカ先輩、赤い石の嵌った指輪からぬるっと出てきたじゃないですかぁ。覚えてないぃ?」

「赤い石……? 指輪……? ああ、僕がこの前拾ったやつ? え? その指輪から僕復活したの? なんで?」

「いや、だから知らんがなぁ! こっちが聞いてるんですよ先輩? 大丈夫ぅ?」


 噛みあわない勇者候補2人の会話に、コメント欄も混乱している様子だ。


kj『結局なにが起きたわけ?』

骨ロック『巨大Gは倒せたけど、このあとどうなんの?』

デンタル『いや、これそもそも本物のマナくんか?』

まるア『ほら指輪見つけられて良かったでしょ?』

カスタム二郎『あの指輪、蘇生魔法の込められた指輪だったとか?』

はちみつ『いや、マナくんの死体もなかったのに蘇生魔法とか発動できないだろ』


 ユキメは考え込みながらも、言葉を続ける。


「ええっとぉ、ともかく、指輪の力でマナカ先輩が復活できたみたいなんですけどぉ……なんか違うんだよなぁ……」

「あ? 違うってなにが? 僕が偽者だって疑ってる?」


マナカの心外そうな返答に、ユキメは顔をしかめた。


「あのぅ、マナカ先輩? その手に持ってる雷針は誰が取り返したものかわかってますぅ? ユキメですよぉ? なのに、あれぇ? まずは感謝の言葉があって当たり前ではぁ?」

「は?」

「それで、この御恩は一生忘れません、これからは下僕として一緒に働かせてくださぁいって土下座するところですよねぇ? これから一生、病めるときも健やかなるときもユキメについていきますって誓ってもいい場面なんですけどぉ……あれぇ? なんか感謝の言葉が聞こえなぁい」

「おめえなに言ってんの? なんで僕が下僕になるんだよ! 雷針を取り返してください、なんて僕、ユキメに頼んでないよねえ?」

「おっかしいなぁ、やっぱ違うんだよなぁ。こんな恩知らずなのマナカ先輩じゃない。やっぱり指輪が作り出した偽者ではぁ?」

「馬鹿言ってんじゃないよ、ほんとにい! 僕本物です。その証拠に昔のことだってちゃんと覚えてるんだからな! おめえ、前にごはん奢ってやっただろ! ちゃんとそういうの覚えてんぞ!」

「? そんなことありましたっけぇ?」

「なんでおめえが忘れてんだよ!? 1人でアホほど飲んで僕すっからかんになったんだぞ!」

「でも、指輪の効果もよくわかってないし、記憶もコピーしたのかもしれないですしぃ。そうなるとやっぱりマナカ先輩が本物かどうかわかんないですよねぇ? マナカ先輩、指輪のことなにか知らないんですかぁ?」

「そんなこと言われてもさ。この前、僕がこの洞窟で見つけた奴だよねえ? なんだっけ? 確か婚約指輪で好感度が100あがるとかなんとか聞いたような?」


 その頃、コメント欄では指輪の正体について重要な証言が上がっていた。


はちみつ『これただの贈答用アイテムだろ、違うのか』

まるア『魔法の婚約指輪だよ。魔力を捧げるとその指輪の持ち主が愛の力で一度だけ無条件で復活するやつ! デスペナルティもなく即時! 元は、愛する人にもう一度会いたい、っていう願いが作り出した魔法』

青いゲリラ『そんな魔法の指輪、存在したのか』

ヒーロー『なぜそんなことを知ってるんだ』

まるア『復活させた相手を味方にするの、ダンジョン攻略するのに便利でしょ!』


 ユキメはコメント欄を横目に見ながら、マナカに問い詰めるように言った。


「もしかして、指輪の効果について知らない振りしてたぁ? 怪しいなぁ」

「怪しくありませんー。なんでそんな疑うんだよ、僕本物でいいじゃん、もう」

「いやぁ、そうやってマナカ先輩復活したと見せかけて、なにかデメリットがあるんじゃないのぉ? マナカ先輩のこと安全だと思ってたけど、実は知らずに摂取してると健康被害被るとかぁ。だいじょぶか、これぇ?」

「先輩のこと、これ言うな! 大丈夫です。別に、僕、有害物質垂れ流して健康被害もたらすとかじゃないからね?」

「ほんとぉ? 先輩、なんか臭そうなもの排出してなぁい? なんか臭そうなんだよなぁ。貧乏の匂いとか……」

「おめえライン越えか? 誰が生乾きの雑巾みたいな匂いがするだよ! やっちゃったねえ! あーあ、これ戦争か?」

「そんなことまで言ってないのに、随分具体的に臭さ出してきましたねぇ? あれぇ? これってもしかしてマジで……?」

「風評被害やめろ。マジで訴えるぞ。ていうかさぁ? 逆に聞いていい? ユキメ、なんで頼まれてもいないのに、僕の雷針取り返してくれたの?」

「だからぁ、本物の心優しくて恩義に厚いマナカ先輩なら感謝してユキメの下僕になってくれるでしょぉ? ユキメのための肉盾が欲しかったんですよねぇ」

「……僕が欲しかった? 僕のこと好き過ぎか?」

「はああああ!?」

「なんだ、そうだったのかよ……まったく素直じゃねえんだから……」

「ああ、出た出た! まぁた自意識過剰の勘違い天使出てるねぇ! すーぐ、誰かが自分のこと好きなんじゃね? って意識しちゃう中学生男子みたいなメンタルぅ!」

「でも、事実として僕のために雷針取り返してくれたよね? 僕のこと好きじゃなきゃ、こんな危ない真似する必要ないじゃん。……ったく、ユキメのこと相手してあげられるのなんて僕だけってことかー」

「うわ、やめてもらえますぅ? きしょくない?」

「照れんなって!」

「そうじゃなくてぇ! まずは、助けてもらってありがとうございます、でしょぉ!? まずは頭下げてもらっていいですかぁ? どっちが立場上か、わかりますよねぇ?」

「僕のことを好き過ぎなおまえの方が僕にお願いする立場じゃないの? 仲間になって助けてください、って頭下げてみ?」

「そっちが!」

「そっちだろ!」


びろーん『これをダンジョン内でやり始める勇気よ』

もちっこ『隙だらけだぞ、ゴブリンはなにやってんだ』

ひろし『ゴブリンなら俺の横で寝てるよ』

まるア『くだらないマウントの取り合いしないで。話進めて』


 コメントの指示に従ったわけでもないだろうが、ユキメとマナカはひとしきり言い合った後、互いに大きく息を吐いた。

 肩で息をする。


「……こんなことしてる場合じゃないんですけどぉ? マナカ先輩、状況わかってますぅ?」

「わかるわけねえだろ。いきなりこうなったんだから。結局、ここどこなんだよ?」

「ここはマナカ先輩が死んだゴブリン洞窟で、しかも落とし穴兼ゴミ捨て場の中。落とし穴の上にはまだゴブリンがうじゃうじゃいて、そこを突破しないとユキメ達は生きて帰れない、って状況」

「……僕、死んだあとゴミ捨て場に捨てられてたってこと?」

「まあ、そうかもしれんけどぉ、使わなかった部分は指輪と一緒に捨てられたのかもしれませんねぇ」

「使わなかった部分? 使われた部分があるってこと? ていうか使われるってなに?」


 ユキメは頭蓋骨の盃を思い出しつつ、


「まあ、そういうのはここを出られたら話しましょうかぁ。……生きて出られたらですけどぉ」

「あん? なにいってんのおめえ」

「はい?」

「僕ら2人も勇者候補がいるんだよ? ゴブリンの群れくらい蹴散らせるに決まってんだろ!」

「……そのゴブリンに殺された人がぁ?」

「あれはたまたま土砂崩れがあって! 運が悪かっただけなの! でも今回は、その、おめえもいるんだから……楽勝でしょ!」

「それってユキメと一緒に……ふふん、いいですよぉ。突発コラボっていうことで、攻略しちゃいましょうかぁ!」


 勇者候補2人は落とし穴の中で大いに盛り上がった。

 ちなみに落とし穴の中に出口はない。

 冒険は終わった。

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