第12話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメのケース──⑨ 復活のM

 ブブブッ


 と、空気を震わせながらユキメに飛び掛かってきた巨大G。

 だが、その狙いはなぜか逸れた。

 ユキメの身体の真正面ではなく、その足元に飛び掛かる。

 だから、


「ぃひぃぃぃぃぃっ!?」


 悲鳴と一緒に出たユキメの反射的なジャンプでかわされる。


「かすった! かすったぁああ! Gが生足に! いやぁぁあぁ!」


kj『ひいい』

もちっこ『もざいくかけて』

カスタム二郎『食事中の人もいるんですよ』

ヒーロー『Gを映すとかBAN対象だ。不快なチャンネルとして通報する』

青いゲリラ『狙いが逸れたのは巨大Gも幻影の巻物の効果を受けているからか? 検証のため、もう一回やられてみて』


「みんな勝手なこと言ってぇ! 今はそんなことよりユキメがどう生き残るかでしょぉ!? どうしたら助かるか、ちゃんと指示してよぉ!」


ひろし『まずは服を脱ぎます』

まるア『さっき落ちてた指輪探して』

はちみつ『魔力が漏れててろくな魔法も使えないんだろ? 詰んでるって』

カシス『ちんだ』

もちっこ『俺達からの指示なんてゴミクズだから、助けるなんてとてもとても……』

ひろし『そして脱衣後、全裸土下座します。そうすれば、万が一ユキメちゃんは助からなくてもこっちは助かります』

青いゲリラ『覚悟の無抵抗』

まるア『指輪!』


「さっきから指輪指輪しつこいなぁ!? なんなんっ!?」


 ユキメは追い詰められた獣のように目線キョロキョロ、逃げ道を探す。

 その視界の端にきらりと光る指輪を見つけた。


「あの赤い石の嵌った指輪でしょぉ!? あれがなんなわけぇ!? 全てを支配する指輪か何かなんかぁ!?」


 と、指輪は赤く輝き始めた。

 まるでユキメの言葉に反応したかのように。


青いゲリラ『魔力に反応しているようだが』

まるア『ユキメちゃんから漏れてる魔力を勝手に吸収して、指輪のギミックが発動可能になってるよ! 今なら使える!』

はちみつ『なにそれしらん。こわぁ』


「指輪のギミックぅ!? な、なんだかわからんけど使えばいいのぉ?」


 ユキメは指輪を拾いあげる。

 その途端、ユキメの身体から漏れ出る魔力が全て指輪へと流れ込んだ。

 まるで指輪が貪欲に魔力を飲み込むように。

 と、指輪の赤い輝きが閃光のように激しくなり、


「まぶし……っ!」


 赤い石は異音と共に弾ける。

 と、溢れ出た光が渦を巻き、ぐるぐるとまとまっていくではないか。


「これなんの魔法ぉ!? トラップじゃないのぉ!? 騙されてんのではぁ!?」


 そして光は人の形に、それも少女の形に収束していった。


青いゲリラ『これは召喚魔法か? それとも転移?』

骨ロック『魔法少女の変身バンクみたいになってんぞ』

ひろし『変身! 全裸! うぉぉぉおおおおぉっ!』


 赤い光で肉付けされ、次第に形を成していく少女。

 小柄で、薄い胸が露わになっていく。


もちっこ『えっっっ』

高校デビュー『えっど』

ひろし『見えたっ! そこぉっ!』


 そうして赤い光が収まったとき、そこには、


「……え? あれ? ここは?」

「あれぇ!? どうしてぇ!?」


 二つの声が同時に上がった。


「なんで僕こんなところにいる?」

「マナカ先輩ぃ!?」


 ユキメの目の前に、死んで肉体を失ったはずの御使マナカが最低限の装備を纏って立っていた。具体的に言うと肌着のみ、武器・防具なし。

 マナカは寝ぼけているように瞬きし、


「あれ? ユキメじゃん? なにしてんの?」


びよーん『リスポーンした!?』

青いゲリラ『まだデスペナルティ時間中のはずだ。それにリスポーン地点でもなくなぜダンジョン内に』

デンタル『装備全ロスしてるやん』

ひろし『全ロスしてるならなぜ全裸じゃないの!? おかしいでしょ!?』


 そこでマナカは自分の姿に気付いたようで、


「えぇっ!? ちょっ、僕、半裸じゃん!? バカバカバカバカ、なんだよこれえ!?」

「なんでマナカ先輩がここでリスポーンしたのかわかんないですけどぉ! 今、ちょぉっと立て込んでましてぇ!」


 ユキメはマナカの後方を凝視しながら、声を上擦らせた。


「あのぉ、後ろぉ!」

「う、後ろ?」


 切羽詰まった口調に促され、マナカは振り向く。

 そこにはクマの如く仁王立ちした巨大Gが、今まさにマナカを頭から齧ろうと顎をキチキチ鳴らしているところだった。

 直立しているものだから、巨大Gの腹側が丸見え。


「ぎゃああああ! なにこれキモッ!?」


 マナカは反射的に腰に手をやり、


「無い!? 雷針が……!」


 その間に、巨大Gの前腕がマナカの肩を捉えた。

 ぐぐっ、と巨大Gがのしかかってくる。


「おええええええ! 複眼ドアップと目が合っちゃったんだけど!?」

「マナカ先輩、これ!」


 そんなユキメの言葉と共に投げつけられた物を反射的に掴んだマナカ。

 まるで意識せず自動化されているかのように、それを自然と抜いていた。


「……雷針」


 そのショートソードは巨大Gの顎の奥に深く突き入れられる。

 ぶじゅる。

 といった妙に柔らかな手応え。

 巨大Gの節足が一斉にガサガサと激しく動き始めた。


「……天罰!」


 マナカの左手に青い稲光が集い、放たれた。

 それは雷針を伝って、巨大Gの内側へと撃ち込まれる。

 びんっ、と巨大Gの6本の足が伸びて硬直した。

 漂うのは、髪が焼けるような嫌な臭い。

 そして、巨大Gは後ろ向きにひっくり返った。

 もうピクリとも動かない。


「……やった……」


 ユキメがぼそりと呟く。

 それから、緊張から解き放たれたのか、言葉を溢れださせた。


「……やりましたねぇ! ユキメが雷針を回収してよかったでしょぉ!? ユキメが雷針をマナカ先輩に投げ渡さなかったら死んでたんじゃぁ? リスポーンしたばかりでリスキルされちゃうとこだったでしょぉ?」

「……おまえええ! 僕になにしたんだよ!?」


 マナカはユキメに詰め寄った。


「僕はデスペナが終わるまで待機してはずなのに、急にこの場で復活して……で、いきなり呼び出されたと思ったら巨大Gと戦わされるって何の罰ゲームだよこれえ!?」


 御使マナカは生き返った喜びと感謝の言葉をユキメにぶつけた。

 涙目だった。

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