第8話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメのケース──⑤ 酒飲んでキレるけど大好き♡

 ゴブリンの小頭から勧められたゴブリン酒を目の前に、胃の奥から込み上がるものを飲み込むユキメ。

 頭蓋骨を加工された盃。

 その中で、不純物の浮きまくっている酒がぷぅんと臭いを放っている。


「ねええええ、ちょっとぉ、お酒の中でなんか動いてない? これ、ほんまにアカンやろ。死んでしまいます、やめてくださぁい……」


 ユキメはぐずぐず言った。

 と、コメント欄が一斉に励ましてくる。


びよーん『いけるいける』

塩辛『ほんとに嫌なら断っていいんだよ、アルコールハラスメントだから』

はちみつ『酒好きでしょ?』

デンタル『頑張って!』

高校デビュー『ユキメェの、ちょっといいとこ見てみたい』

ひろし『酔っ払った女の子ってかわいいよね! 隙ができてパンツとか脇からおっぺえとか見えそう』

青いゲリラ『酒を断ってゴブリンたちと戦闘になるリスクを考えれば、ここは飲む方が圧倒的にアドがある。耐久度のチェックになるが、バックグラウンド【酒飲み】を持っているから判定は有利。やらない理由がない』


「そんなに言うならあんたらが飲みなさいよぉ!」


 ユキメはキレた。


「他人事だと思って勝手なこと言ってぇ! お前らちゃんどもって奴等はほんとにもぉ! ここに来い! 飲ませてやっからぁ!」


青いゲリラ『できもしないこと言わないで』

デンタル『嫌です』

びよーん『おえええ』

闇姉妹『無理』

塩辛『指示厨おじさん達の言うことなんか聞かなくていいよ』

もちっこ『自分が嫌なこと人にやらすな』


「どの口が言うぅ!?」


はちみつ『酒好きじゃなかったんか? 酒飲みキャラやめた?』


「好きだけどぉ……最近は健康にも気を遣って、ですねぇ……ていうか、これお酒として認めちゃいかんのではぁ?」


はちみつ『どんな酒でもガバガバ飲んで平気な顔してたユキメェが……変わっちまったな』

もちっこ『守りに入ってるよね』

カシス『アルコール消毒されてるから平気やろ』


「だからあんたらが飲みなってぇ! 簡単に言ってくれますけどねぇ!? 酒飲みだからこそ、酒として認めたらアカンもんはアカンって言えるんですよぉ?」


 そんなユキメの目の前で、ゴブリンの小頭の目つきが不穏になってきた。

 俺の酒が飲めねえのか?

 そう言わんばかりに乱杭歯をむき出しにしてくる。


kj『あ』

カスタム二郎『あーあ』

長生き『ゴブリンは気が短いな』

まるア『あんまり待たせるとこのゴブリン怒り出すよ』

青いゲリラ『覚悟を決めろ。もう時間がない』


「え? え? 選択に時間制限アリなのぉ? ちょ、待っ……あー、もぉっ! わーかったよ! 飲みますぅ! 飲めばいいんでしょぉ!? くっそぉ……うっわ、キッ……」


 ゴブリンの小頭の一睨み。

 ユキメは曖昧に微笑んで、


「あ、いえ、おいしそーですね(棒)。オホホホホホ……吠え面かかせてやるかんなぁ……いくよぉ、みんなぁ? ほんとにいくよぉ?」


はちみつ『はよしろ』

もちっこ『いいから飲んで』

カスタム二郎『はよ飲め』


「……なんでこんなことに……い、いきますっ! ……と見せかけてぇ?」


闇姉妹『うざ!?』

はちみつ『飲めって!』

もちっこ『はよ』

kj『あ』

青いゲリラ『もう時間切れ』


 ゴブリンの小頭、手にしたコブつき棍棒を、たしーんたしーん、とし始める。


「ああああ飲む飲む飲むからぁ! ……ちくしょおおおお!」


 ごくり。

 ユキメの喉が鳴った。


びよーん『うわ』

骨ロック『ホントに飲んだよこの人』

デンタル『おえええええええええ!』

kj『グロ』


 ごくりごくりごくり。


はちみつ『飲み干すやん』

びよーん『おげええええええ!』

1234『プライドないんですね失望しました』


 頭蓋骨の盃ドン、ぷはぁあああ!

 そして、


「お前らが! 飲ませたんだろうが!」


げえふ。


塩辛『ゲップ助かる』

カシス『助からない』

ケツパジェロ『きたない、ミュートして』

もちっこ『どぶみたいな匂いのげっぷ』

ノリアキ『女の子のしちゃいけないゲップ』

ひろし『なんか汚いもの飲まされてゲップする女の子っていうジャンル開発されそう』

はちみつ『これは友達できんわ』

デンタル『ゴブリンのハナミズ飲んだ女……』

カスタム二郎『きったな……!』


「うるせぇっ! こっちはもうやけくそなんだよぉ! もう一杯寄こせっ!」


 目を据わらせたユキメは、ゴブリンの小頭に頭蓋骨の盃をぐいっと差し出す。

 それで胸を突かれたゴブリンの小頭、よろめいた。


「……あと、ことある毎に『友達いない』につなげるのやめろやぁ!」


 ユキメはコメント欄に向かって吠えた。

 それから、もう一杯、と差し出されたゴブリン酒を今度は疑わし気な目で見つめる。


「大体これさぁ、キノコのお酒ぇ? だっけぇ?」


まるア『この洞窟で採れるキノコを使ってるお酒だよ』

骨ロック『知らん』

はちみつ『ただの汚水だろ』


「そんなのあるぅ? ユキメ、ちょぉっとお酒には詳しいんだけどぉ、キノコを発酵させてお酒造ったとか聞いたことないんだがぁ?」


青いゲリラ『単に風味付けでキノコを使っているだけ』

おまえら『出汁効いてそう』

闇姉妹『キノコ以外も入ってるんでしょ? 無理』


「梅酒みたいにお酒に漬けて作ったお酒ってことぉ? 美味しいか、それ? シイタケとかならともかく、これ……なにキノコ? 毒ではぁ?」


はちみつ『逆にうまい』

もちっこ『毒って美味しいよ』


「お前飲んだことあるんか? ユキメは今飲んだんだがぁ? 実際、生臭くて最悪なんですけどぉ? 適当言ってんなぁ」


はちみつ『一度飲んだんなら二度飲もうが同じ』

もちっこ『いいから飲め』

高校デビュー『飲ーんで飲んで飲んで!』


「……いつかお前らちゃん達にもこれ、飲ませてやっからなぁ!」


 言うや否や、またもごくりごくりと瞬時に飲み干す。


「……うううううううっクッソマズいっ!? もう一杯ぃぃぃっ!」


 更なるお替りの要求に、ゴブリンの小頭の目が丸くなる。


デンタル『すっげ……あれ飲んでピンピンしてる……』

塩辛『丈夫な胃腸だ』

カスタム二郎『くそまずい、だけで済んでるの化け物だわ普通死ぬよ』


 ゴブリンの小頭が顔を歪めた。

 笑ったらしい。

 ぐへへぐへへ、と耳障りな声を発する。


「ああ!? なにぃ!? なんやあ!? ゴブリンさん、なんてぇ?」


まるア『ユキメちゃんの飲みっぷりに感心してるよ』

青いゲリラ『ゴブリン酒を飲むことでゴブリンの仲間として認められた。耐久度の判定も問題ない。やはり酒を飲んで正解だったな』

もちっこ『な?』

はちみつ『俺らの言ったとおりにしてよかったろ?』

もちっこ『ありがとうは?』


「あんたら絶対、ユキメを助けようとして酒飲めって言ってなかったよねぇ!? 単に意地悪だよなぁ!? おいぃっ!? ……でも、ありがとぉ♡ 大好きだよぉ?」


もちっこ『いいってことよ』

カシス『急に態度かえるやん』

カスタム二郎『もう酔っ払ってんの?』


 ゴブリンの小頭はユキメのことを指し示しながら、大声で周りの連中に叫んだ。

 それに反応して、周りのゴブリンたちもぐへへぐへへと鳴き始める。


まるア『歓迎されてるね』

おまえら『ゴブリンの仲間になった』

闇姉妹『勇者としてそれはどうなの?』


「そうだよぉ、ユキメ、みんなの仲間だよぉ? だから、そこのお前ぇ、焼きそばパン買ってきてぇ? 5秒で」


ひろし『ゴブリンの仲間になったんなら、早速村娘攫わせてきて! 5秒で!』

もちっこ『で、ここで幻影の巻物の効果が切れて正体ばれるまでがワンセット』

はちみつ『イキったところでポンやらかして死ぬ。完璧な勇者候補生だ』


「はいはい、巻物の効果はまだ余裕で時間ありまぁす。残念でしたぁ。ていうか、ここまでひっどいお酒我慢して飲んであげたんですよぉ? ……なんかイイものくれてもいいんじゃなぁい? ねえ、ゴブリンの小頭さぁん?」


 と、ユキメはゴブリンの小頭の腰にぶら下がっているものを指差しながら言った。


ひろし『それはマズいですよ!』

塩辛『仲間になっていきなり雷針を要求するとか度胸すごい!』

デンタル『図々しいの間違いでは』

はちみつ『あーあ、調子に乗って殺されるやつ』

ケツパジェロ『フラグ回収早いな』

もちっこ『あーあ』


「……って、こいつが言ってましたよぉ、ゴブリンの小頭さぁん」


 ユキメは手近にいたゴブリンを掴んで盾にした。


闇姉妹『勇者さん……?』

高校デビュー『すぐ人のせいにする』

はちみつ『これは友達できんわ』


 コメント欄がやや荒れた。

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