第6話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメのケース──③ ゴブリンにモテないし友達もいない

1234『初見です。今なにしてるんですか?』


「初見さん、こんユキでーす。今、ユキメは幻影の巻物を使ってゴブリンに化けてるところですよぉ」


 突然の空気を読まないコメントにも笑顔で返す勇者ユキメ(巨乳)。


ケツパジェロ『余裕あるな』

塩辛『そんなにこやかに配信してられる状況じゃないと思うんだけど』

青いゲリラ『幻影(認識改変)の巻物を使った勇者ユキメ(巨乳)。無事、自分のことをゴブリン(巨乳)だと認識改変させ、ゴブリンたちの仲間になりたそうな雰囲気を醸し出すことに成功』

ひろし『そして、ゴブリンたちの目は巨乳に釘付け! やったね!このままだと、狙い通りゴブリンさん達とえっちな方法で仲良くなって仲間になれるよ!』

はちみつ『仲間っていうかセフ〇……』

塩辛『もう、ぶっ倒しちゃって!』


 しかし、ゴブリンたち。

 しばらく顔を見合わせ合った後、ぺっと唾を吐いたり、萎えた顔で肩を竦めるなどして、ユキメへの関心を失ってしまったようだ。


ひろし『え!? どうしたの、ゴブリンさん!? ちゃんとして!?』

青いゲリラ『ゴブリンたちには彼女がゴブリンに見えているわけで、冷静に考えてみろ。巨乳とはいえ、ゴブリンに欲情できるか?』

もちっこ『ゴブ×ゴブとか地獄絵図だろ。絵面が酷い』

闇姉妹『リスナーには普通にユキメちゃんに見えてるけどゴブリンの立場になってみたら……』

カシス『ゴブ×ゴブは抜けない』


 そんなゴブリンたちのやるせない感情を知ってか知らずか。

 ユキメは小首を傾げ、アピールする。

 ぼいんぼいん。


「あれぇ? どしたぁ? ゴブリンさんたちぃ? どしたどした? 無視ぃ? それはそれで傷つくなぁ」


 ゴブリンたち、恨めしそうに巨乳を見つめ、思いっ切り溜息。


もちっこ『ゴブリンに巨乳がついてても何の価値もねえな』

kj『豚に真珠みたいな?』


 ユキメはその場でジャンプなどして見せる。


「あらよっと! ほーら、ばいんばいーん、と! ねえ、どおよ?」


 ゴブリンたちはいよいよ悲しそう。

 だが、ユキメの胸元をどうしてもチラチラ見てしまうようだ。


「そんなしょんぼりした顔してぇ。これはあれよ、見たくもないのに胸が揺れるとつい目が行っちゃうっていう、ね。生き物は動く物を目で追うようにできちゃってるからねぇ。悲しい性だねぇ」


もちっこ『エロいことするの絶対ムリ! ゲロ! ってくらいのキッツいブサなのに、おっぱいの所為でつい気になっちゃう……悔しい! ってなってそう』

ひろし『ゴブリンさん、がんばえー! 負けないで! できる、できるよ!』

デンタル『ていうか煽るな』

骨ロック『いつ気が変わって襲ってくるかもしれないんだぞ!』


 ユキメはコメント欄に反応する。


「ええ~? ゴブリンさん達、ユキメのこと襲えるかなぁ~? ……試してみるか。はぁい、ボインボインですよぉ? セクシーでしょぉ? と、期待させてからの見なぁ! このゴブリンフェイス! ……っははは、しょぼくれてんねぇ。激萎えしてますぅ?」


カシス『失望に打ちひしがれているゴブリンたちを前にしてよくそんな酷いことできるな』

カスタム二郎『エッチなことできるかもと一瞬期待して、でも理性が働いたせいで激萎えしたのを耐えてる人達を性的にからかうのはよくない。かわいそうだろ』

53万『これはゴブリンさん達に同情してしまいますね』

はちみつ『こんなんだから友達できないんだよ』


「おい、やめろー! 友達いないとかいうのはぁ!」


 なんか刺されたユキメが急に感情を昂らせる。


もちっこ『だってうざいことするし』

カシス『性格が、ねえ?』


「性格がなんだ? 言ってみろぉ! ユキメ、優しいんですけどぉ? 手ぇ冷たいしかわいいし!」


はちみつ『自分で優しいとかいっちゃうところが、あーあ、なんだよ』

塩辛『ユキメちゃんはかわいいよ』

うそつき『性格もかわいいよ』

塩辛『優しいけどウザ絡みしちゃうだけなんだよね?』

もちっこ『ああ、そういう人よくいるよくいる』


「そうだよぉ。根は優しいんだから。あのー、あれよ。ユキメって、雨の中、捨てられた子犬とかいたら自分の傘をその子犬にさして、自分は濡れて帰っちゃうタイプ」


びよーん『帰っちゃうのかよ』

kj『連れてってあげて』

ケツパジェロ『一緒に帰るという選択肢は無いのか?』

はちみつ『やっぱ友達いないの納得だわ』


「もおおおお、なんでこんなところでボコボコに言われにゃあかんのぉ? マジで傷ついちゃうんですけどぉ? これにはユキメの方が激萎えだよ。打ちひしがれてますぅ! ほらぁ、かわいそうでしょぉ! 同情してぇ! そして謝って!」


塩辛『ごめん』

カシス『ごめんね』

もちっこ『ごめんて』

はちみつ『ごめんね!(#^ω^)』

青いゲリラ『なんだこのノリ』

まるア『話進まなくない?』


「あ、そうだったそうだった」


 コメント欄を見て我に返ったユキメ、ぽんと手を打つ。


「リスナーさんと殴り合ってる場合じゃなかったわ。幻影の巻物が効いてるうちに、マナカ先輩の雷針サンダーニードル見つけださないとねぇ」


 そして、目の前のゴブリンたちに呼びかける。


「ゴブリンさん達ぃ、ユキメを偉い人のところまで連れてってくれるぅ? ほら、ユキメ、新しく仲間になったから、偉い人に挨拶に行かなきゃいけないでしょぅ? わかるぅ? おーい?」


 ユキメはゴブリンたちの前で掌をひらひらさせる。

 ゴブリンたちはしかめ面で首を傾げた。

 中の1人は頭の横で人差し指をクルクル回してみせる。

 ユキメは大声と勢いのパッションゴブリン語でなんとか意思疎通を試みた。


「奥に! つれてって欲しいの! 罠とかに引っかからないように。そんで雷針を持ってるようなボスゴブリンのところまで案内してくれるぅ? ついでに、そのボスゴブリンから雷針取ってきてくれたら助かるんだわ。まあ、それはユキメが自分でやるからいいけどぉ、もしできるならよろしくねぇ? 最悪、ユキメの盾になってくれるだけでもいいからぁ」


もちっこ『こんな話通るわけないやん』

はちみつ『ほんとガバガバ過ぎる』


 しかし、ゴブリンたちは顔を見合わせた後、1人がのそのそと洞窟の奥へと向かいだした。

 しょうがねえな、ついてこい。

 みたいなうんざり顔でユキメの方を振り向く。


デンタル『通じてる』

骨ロック『マジか』


「おいおい、ユキメが会いに行ってやるって言ってるのに案内は1人だけかい。みんな一緒に来なぁ。6人全員揃ってユキメをエスコートしてぇ?」


もちっこ『図々しくて草』

青いゲリラ『いや、ここのゴブリン全員奥までつれてって、そこで敵対したら難易度上がるだけだと思うが』


「ええ~? ゴブリンさん達、みんな一緒に行かないのぉ~? 一緒に行こうよ、ねぇ~。その際全員、ユキメの前歩いてねぇ」


びよーん『盾にする気満々じゃん』

骨ロック『ゴブリンを罠探知機にするとか』

kj『炭鉱のカナリアみたい』

はちみつ『そんな都合のいい話、通るわけねえだろ』


 と、ゴブリンたちは6人揃ってユキメの前に立ち、先導し始める。


はちみつ『通るのかよ!』

カシス『ここのゴブリンたちはバカなの?』

カスタム二郎『いうてゴブリンだしなあ』


「いえーい、通じた通じた。ほぉらね? 幻影の巻物使って潜入作戦、大成功じゃない? いやあ~、やっぱユキメ持ってるわぁ~」


 ゴブリンたちは胡散臭げにユキメを見ながら、ぼそぼそこそこそ、洞窟の奥へと歩いていく。

 すぐに、道が二手に分かれた。


「んん? これ、どっち行けばいいのぉ?」


もちっこ『圧倒的に右』

はちみつ『右』

1234『初見ですけど右がいいと思います』

まるア『マナカちゃんはそこで右に行って死にかけたよ!』


 ゴブリンたちが左へと進んでいくのを見て、ユキメもそれに従う。


「ほぉらほぉら、ゴブリンさん達に案内してもらえれば危ないとこなんて行かなくて済むんだから」


 得意げなユキメの声。

 更に道は途中で二手に分かれ、ゴブリンたちは今度は右手へと進んでいく。


「また分岐かぁ。ここで左に行ったら何があるんだろうねぇ? ……左からは、なんかドブみたいな匂いしてるんだけどぉ……ここもゴブリンさん達について右にいったほうがよさそうやな……」


もちっこ『ちっ』

まるア『あ、多分次中ボスの部屋だから、準備した方がいいよ!』


 そうやって案内されてきたユキメは、その部屋に入った瞬間目を見張ることになる。


「ううわ、こりゃあ……いっぱいおるねぇ……」


 ユキメは思わず呟いていた。

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