第5話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメのケース──② 秘策を持って行き当たりばったり

びろーん『そもそもユキメちゃんに回収なんかできんの?』

まるア『魔法職勇者1人で狭いゴブリン洞窟攻略とかムリゲーじゃ?』

青いゲリラ『即死級のトラップもある。落下系トラップと相性の良かったマナくんでさえ倒れた。トラップを回避する魔法もあるが、そちらに魔力を費やす分、攻撃力・継戦力は格段に落ちる』


 ユキメの捕らぬ狸の皮算用に対し、コメントから冷静なツッコミが入る。

 だが、ユキメは余裕の表情。


「回収できんの? って? 別にユキメは力業でゴブリンさんたちを皆殺しにするわけじゃないですからねぇ。策略があるわけよ! その片手間に、雷針を回収するんだって余裕ですわ」


デンタル『力業じゃない?』

骨ロック『魔法使いならではの頭を使った攻略法ってこと?』

塩辛『ユキメちゃんが頭使うって……』

はちみつ『いや、これはフラグと見たね』

もちっこ『即落ち2コマやろ』

まるア『なにするの?』


「罠作って待ち構えてるゴブリンさん達を、逆に罠にはめてやろうっていうねぇ、そのために丁度いいアイテムがあったんですわ。それがこちら! じゃじゃーん、幻影の巻物」


カシス『巻物?』

闇姉妹『一度きり、その巻物に書かれている呪文が仕えるようになるマジックアイテム』

青いゲリラ『敵・味方の認識誤認をさせる系の巻物に見えるが?』


「そう! それよそれぇ! これを読めばゴブリンにはわたしのこと味方に、つまりゴブリンに見えるようになるってわけ」


 ユキメは得意げに、画面内で胸を張った。


ひろし『でっっっ』

カスタム二郎『でかい』

もちっこ『暴力だろこんなの』

ひろし『これがゴブリンには巨乳のゴブリンに見えるようになるってこと……?』

青いゲリラ『ゴブリンの振りして中に潜り込む、と?』


「そうだよー。味方の振りしてダンジョンに入り込んで、それから不意打ち! 最悪ゴブリンさん達を討伐できなくても、雷針だけ回収して脱出! で、雷針をマナカ先輩に返したら、今度は2人でコラボしてゴブリン洞窟攻略にリベンジって寸法よぉ! ……これならコラボしてくれっかな……?」


 ユキメの表情に一瞬不安の影が差す。


もちっこ『なんでそんなコラボに固執するのか』

はちみつ『だから普通に誘えばいいじゃん』


「いや、さっきも言ったけど、やっぱコラボするにしてもきっかけがないと誘いにくいしね? 雷針を取り返して今度こそリベンジって流れなら自然にコラボできなくなぁい?」


kj『そんな面倒なことしないで友達でも誘えば?』

まるア『最初から友達の勇者とパーティ組んで攻略しなよ』


「あ? いないよ、友達」


塩辛『あ……』

kj『え……』

カシス『またまたぁ』

もちっこ『コラボしてくれる友達の勇者いないとか信じられんのだが?』


「コラボしてくれる勇者いないの信じられないって、それ陽キャの考え方なんだわ。友達はいるのが当たり前っていうねぇ。……でも、こういう人もいるんですよ?」


ユキメは急に静かな口調になった。


「いないの。寂しいの。だから、こういうチャンスを使ってコラボ相手見つけていきたいの。そんでコラボからワンチャン友達になりたいの……わかりますぅ?」


塩辛『なんかごめん』

カスタム二郎『俺達がいるじゃん』

ひろし『話きこか?』

53万『友達いないアピールやめてください』

はちみつ『こんなにかわいくてしかも勇者なら友達の方から寄ってくるわ、普通』

びよーん『↑それ友達か?』


「……その普通ができない人がいるんですぅ。ええ? どこにぃ? いるさ! ここにな! はい、っていうわけでね。もうこの話やめやめ!」


 ユキメは手をぶんぶん振った。


青いゲリラ『策略はわかったが、幻影の巻物は一度敵対行動を見せてしまうと魔法が解けてしまう。ゴブリンたちに不意打ちで最初の一撃は決まるかもしれないが、その後はどうする気?』

長生き『範囲魔法で一発で全滅でもさせないと、後は数の暴力。魔術師系勇者じゃ太刀打ちできないかもね』


 ユキメのがばがば策略に懸念の声が上がる。

 それに対し、ユキメは湿った笑みを浮かべた。


「……んっふふふ。それねえ、ユキメも考えましたよ。幻影解けちゃったら、そのあとどうしようって。でもですよぉ? 敵対行動取らなければ幻影は解けないじゃないですかぁ?」


闇姉妹『まあそうよね』

デンタル『じゃあ、ずっと攻撃とかしないでゴブリンの振りしとくの?』

まるア『ゴブリンのまま、雷針だけ盗んで脱出するとか?』

はちみつ『いや、雷針盗んだら敵対行動やろ。盗んだ瞬間、魔法解けてタコ殴りされる』


「ユキメ、氷雪系魔法得意じゃん? いや、得意なのよ。だから、ゴブリン洞窟のどっか空いたスペースにね、氷結魔術展開して極寒地帯を作り出そうと思うの。そこに入り込んだら氷雪系ダメージ喰らうやつねぇ。その場所にゴブリンさんが勝手に入り込んで死ぬ分には敵対行動にはならないと思わん? ユキメはただ、誰もいないただの空きスペースに極寒地帯作り出すだけだしぃ」


kj『え?』

カシス『うーん……』

はちみつ『そんなグレーなやり方ええんか?』

塩辛『天才』

はちみつ『いや、敵対行動で幻影解けるやろ』


「なんでよぉ! 寒いところに入り込んだゴブリンさんが勝手に死ぬだけなんだよぉ? ユキメ悪くなくない? いや、そりゃまあ、極寒スペースのゴブリンさんが入り込むように、こっちこっち、って呼んだりするかもだけどぉ。それにつられて極寒スペースに入り込む選択をするのはゴブリンさんでぇ、自己責任ん?」


びよーん『ええ……』

うそつき『いいね!』

青いゲリラ『これは策に溺れて自滅するパターン』

もちっこ『この性格なら友達いなくてもしょうがないわ……』


「おい! 急に刺してくんな! やめろよぉ、そうやって友達いないとか言ってくんのぉ……」


 ユキメは文句を垂れる。


「……まあ、これで幻影解けてバレても、いうてゴブリンだし? 冷たい手で凍らせていけば何とかなるっしょ?」


はちみつ『やっぱりがばがばじゃないか!』

骨ロック『ダメだと思うなあ』

塩辛『そうそうもっと楽天的に考えていこうよ!』


「それに幻影の巻物を使う理由は罠避けの意味もあってぇ、ゴブリンさんの振りしてゴブリンさんの後をついていけば、罠のあるところを回避できるってわけ! これ、頭良くなぁい?」


デンタル『そういうのも考えてたのか』

kj『罠避けとしての幻影魔法なら、まあ』

塩辛『何にも考えずに正面から洞窟に突っ込むよりはいいかな』

青いゲリラ『もっと詳細を詰めて想定しておかないと予想外の展開で詰む』


「……うるっさいなぁ、いちいちいちいちぃ……これだから指示厨おじさんはぁ! これだけ準備したんだからもう大丈夫なの。いいの、これで。まあ見てなって!」


 ユキメは幻影の巻物を紐解き、中身を読み上げた。

 途端に、光に包まれるユキメの全身。


「……はいっと! どうぉ? これでゴブリンさん達にはユキメが味方のゴブリンに見えてるはずだよ」


kj『変わって無くない?』

カシス『俺達には変わりなく見える』

はちみつ『見る者の認識を味方だと誤認させる魔法だから。俺達にとっては味方である勇者のままの姿に映る』

ひろし『すっごい巨乳のゴブリンに見えるよ!』

もちっこ『リスナーの中にゴブリンおるな』


 ユキメは悪そうな笑顔を浮かべた。


「……じゃあ、幻影の巻物が効いてるうちにゴブリンさん達をさくっと騙し討ちしにいきますかぁ!」


 そうしてユキメはゴブリン洞窟の方へと歩みを進め始める。


  ◆


 ユキメがゴブリン洞窟に入り込んでちょっとのところ。


 ぐへへ……ぐへへ……


 と、なにかの鳴き声が聞こえてきた。


おまえら『ゴブリンか?』

青いゲリラ『見張りのゴブリンたちだろう』


「さあ、いよいよだねぇ。まずは友好的に挨拶しなきゃ。挨拶って大事だかんね」


 ユキメはそこで大声をあげる。


「おーい、こんユキ―! どーもどーもどーもぉ、冬路ユキメでぇす! 今日はぁ、皆さんの仲間になりたくて来ましたぁ、よろしくどうぞぉ」


骨ロック『え』

kj『あれ?』

まるア『ユキメちゃん、ゴブリン後喋れるの?』


「ん? 喋れんが?」


びよーん『早速ダメじゃねえか!』

もちっこ『やることなすことダメ』

はちみつ『初手失敗』


「だぁいじょうぶ大丈夫! 敵意のないことをねぇ、態度で示しておけば仲間のゴブリンなんだし手荒な真似は……」


 ユキメが挨拶した見張りのゴブリンは合計6体。

 それぞれが唸るような声を上げ、顔を見合わせている。

 見知らぬ同胞を前にどのような態度をとるべきか、決めかねているように。

 と、ゴブリンたちの視線がユキメの一点に集まり始めた。


「あれぇ? どうしたどうしたぁ? おーい、仲間ですよぉ? ねえ、仲良くしましょうねぇ?」


はちみつ『どこ見てんだこいつら?』

カシス『あ』

ひろし『今このゴブリンたちにはユキメちゃんがゴブリンに見えてるんだよな?』

もちっこ『めっちゃでっかいおっぱいのゴブリンおるなと思われてる』

ひろし『ユキメちゃん、ゴブリンたちと仲良いことされちゃわない?』

塩辛『え』

青いゲリラ『あーあ』

もちっこ『同じゴブリンなら襲われないといつから錯覚していた?』


 ゴブリンたちの群れを前にして、ユキメの清楚は一気に危機を迎えつつあった。

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