「あーあ、だから言ったのに。そこ罠あるって言ったよね?」──勇者ちゃんはわしらが育てた──勇者候補生のダンジョン配信を視聴した指示厨おじさん愉悦部活動記録(ネタバレ:感情を食う化け物がでてきます)
第4話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメのケース──① 巨乳の企み
第4話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──冬路ユキメのケース──① 巨乳の企み
今日も空気な一日だった。
当たり障りのない、空っぽなやりとりだけして。
あとは、ただ与えられた仕事をこなす。
誰かと心から笑い合ったり、本音を晒したのはいつのことだったろう。
もう子供じゃないんだ。
くたくたになって自宅に帰る。
誰も待っちゃいない。
俺なんかこの世にいてもいなくても関係ない。
俺はコンビニ飯を食いながら、配信を見始める。
今日はどの勇者を見ようか。
◆
配信画面にはオープニング映像が流れている。
白い魔道服を纏った少女が、雪の中、祈るように目を瞑っている一枚絵だ。
その少女は青く豊かな髪をしていた。
胸も豊かだ。
その胸を背景に、静かで切ないBGMが流れている。
そのオープニング映像が切り替わった。
涼し気な眼差しの美少女が、画面越しにこちらを見つめてくる。
「はぁい、こんユキです。手が冷たい子は心が温かい、氷の手をした勇者こと雪の妖精冬路ユキメでぇす。冷え性言うな! どうも、こんユキ~」
白く滑らかな手を振ってくる美少女、ユキメは微笑んでいる。
それに合わせて、配信画面内のコメント欄も動き始めた。
びよーん『こんユキ~』
女雪『こんユキ~』
ケツパジェロ『冷え性ネタ定期』
もちっこ『原因は運動不足。やせて』
「おぉい! いきなり喧嘩かぁ!? しっつれいな奴だなぁ! やせてますぅ! どこに目ぇつけてんのぉ?」
そうは言うものの、ユキメの魔道服はゆったりとしたローブで体の線がわかりづらい。
体型を誤魔化すのに便利だ。
そんな魔道服の上からでも、ユキメの胸の存在だけは非常に目立った。
デンタル『ユキメちゃんは太ってないよ』
骨ロック『ナイスバディすぎる』
うそつき『ユキメちゃんは太ってないよ』
ひろし『検証したいから脱いでみて?』
ユキメは胸を両手で隠す仕草をする。
「きっしょ……! ちょっと! どこ見てんのぉ!?」
ひろし『きっしょって言われた! やったー!』
カスタム二郎『ええな』
もちっこ『ご褒美ずるい』
カシス『俺にも言って』
青いゲリラ『これはセクハラ』
ユキメは呆れたように一つ溜息をし、
「やめてくださーい。ああ、やだやだ、男の人っていつもそうなんだから、やれやれだよ。あーやれやれ」
カスタム二郎『すみません』
カシス『ごめんて』
もちっこ『女だけどすみません』
ひろし『わたし、女わよ!』
まるア『話進まなくない?』
青いゲリラ『それで今日は何をするの?』
「おっと、そうだったそうだった」
画面の中のユキメは気を取り直したようにかしこまる。
それまでのチョイやさぐれた態度から、清楚な雰囲気が漂い出した。
「……こほん。今日はですねぇ、最近はやりのゴブリン洞窟に行ってみようかなぁって思ってます」
落ち着いた声。
そうして、配信画面内には岩山に開いた洞窟が映し出される。
動物の骨で作られたトーテムらしいものが入り口に掲げられている洞窟だ。
まるア『この前マナくんが全ロスしたとこだ』
塩辛『ユキメちゃん1人で行くの? ヤバくない?』
ユキメはそこで小声になった。
「……なんか切り抜き動画のサムネでちらっと見たんだけどぉ、あの、なに? マナカ先輩、全ロスしたんだって? ゴブリンにぃ? っははは……」
失笑。
「そんで、あれでしょぉ? あのぉマナカ先輩の大事にしてた剣も無くなっちゃったんだよね? あの、サンダーとかニードルとか中二臭い名前の。ええ、かわいそお~」
闇姉妹『無くなってはないよ』
青いゲリラ『勇者が死亡して落としたアイテムをモンスターが拾得して使用してくることもある』
まるア『今はゴブリンの小頭が自分の武器にしてるね』
ユキメの目が瞬く。
「え? 無くなってはないの? ゴブリンに回収されて、今、ゴブリンが装備してる? へえ~、そうなんだぁ」
はちみつ『つまり、今そのゴブリンの小頭を倒せばマナくんの雷針を落とす』
もちっこ『そうやってドロップしたものは、拾った人のものになるよ?』
「……じゃあさ、そのゴブリン倒したらサンダーニードル横取りしちゃえるってことぉ?」
ユキメはひそひそ声でリスナー達へと問いかける。
そして、はっとしたように取り繕ったすまし顔。
「んっんっ、いやいや、回収よ回収? マナカ先輩の代わりにユキメが代わりに回収しといてあげるだけ」
もちっこ『いいんじゃない?』
カシス『なんか今悪い顔して無かった?』
骨ロック『企んでるな』
「なんにも企んでないですけどぉ⁉ 人聞き悪いなぁ。ただ……返してほしかったら、わかるな? 誠意ってなにかね? ってやつぅ。これいいんじゃない?」
青いゲリラ『あ』
ケツパジェロ『マジか』
ひろし『これ、エッチなことさせるやつですね! わかります!』
もちっこ『いいよいいよーそういうの見たい見たい』
長生き『人ってホント下衆いなぁ』
「下衆い言うな! ただの善意でしょぉ? あーやだやだ、なんでも悪くとらえる心の貧しい人ばっか! 大体、回収するんだってただじゃないんですからねぇ? その対価を貰っても当然だよねぇ?」
ユキメは開き直る。
びよーん『勇者とは』
はちみつ『まあ慈善事業じゃないしな』
「そうそう! こちとら慈善事業で勇者やってるわけじゃないんでねぇ?」
びよーん『いや、勇者は慈善事業だろ』
53万『あなたはなにを言っているんですか?』
デンタル『しっかりして』
ひろし『そんなことよりエッチな話しようぜ!』
もちっこ『で、雷針の代わりに、なにをさせたいわけ?』
そこでなにを想像したのか、ユキメの口調が弾んだ。
「なにをさせるかってぇ? そりゃあ、もちろんあれよ!」
ケツパジェロ『配信できる内容なのか……?』
青いゲリラ『青少年も見ていることを忘れるな』
ひろし『みんなの前で恥ずかしい目に遭う系のアレをお願いします!』
「マナカ先輩もぼっちなんでしょぉ? んじゃあさ……剣を渡す代わりに今度コラボしてって言ったら聞いてくれると思わん?」
闇姉妹『ん?』
ケツパジェロ『コラボ?』
青いゲリラ『マナくんと一緒に配信する、と?』
ひろし『女の子2人でしかできない配信……ってことは!?』
はちみつ『そんなの別に雷針を人質にしなくてよくない?』
「ん、まあ、これが最初の一歩でさぁ……そのぉ、なんどかコラボしていければ、いいなぁって思うんだよね。ほら、ユキメ、魔法職やん? マナカ先輩は、まあ、魔法戦士っぽい中二臭いけど一応前衛やん? それなりに相性いいと思うんだよ。ねえ?」
もちっこ『もっとえぐいことさせるんじゃないの?』
おまえら『陰キャにコラボさせるとかえぐいやん』
カスタム二郎『お互い話すことなくて放送事故になるやつか? いたたまれねえ……』
塩辛『普通にコラボに誘えば?』
「……いや、コラボに誘うにしてもきっかけがないと誘いにくくなぁい? それに普通に誘って断られたら……キツイでしょぉ? だからさ、丁度いいかなぁって、ユキメが横から雷針を回収しちゃってマナカ先輩の拒否権なくしちゃえば安心よね?」
カシス『うわ』
kj『マジで言ってる?』
塩辛『ユキメちゃんの心配もわかるよ』
もちっこ『ああ、この杞憂の仕方は陰キャですわ』
リスナー達は思い思いのコメントを上げていく。
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