第29話 高校生、父親と帰路につく。

 打ち合わせの後、俺と陽菜ひなは、父さんと陽菜ひなの両親と一緒に家路に向かう電車に乗っていた。(ヴァシュロンは、会議室に残って全裸待機をしている)


 俺は、会議室で聞きそびれた疑問を父さんに投げかける。


「株式会社ノーチラスの人たちが、クロノス王国が現実に存在する事に気がついたのって、いつくらいの事なの?」

「んー。2ヶ月くらい前のことだったかな? 『クロノスの聖女』がマスターアップした後、ダウンロードコンテンツの作成のためにクロノスの聖女の世界構築のAIを再起動したら、突然、パソコンの上に時空のはざまが出来たんだ。いやー、あのときは本当に度肝をぬかれたよ」

「見つかったのって、結構最近なんだ」


 俺の感想に、陽菜ひなの母さんが口を挟む。


「時空のはざまが発生したのは、こっちの世界とクロノス王国で、同時に世界構築のAIが起動したためよ。魔王ヴァシュロンが討たれた後、私は地球に戻るためのAIの研究をはじめていたの。陽菜ひなには、クロノス王国と地球、どちらの世界で生活をするか、自分の意思で決めてほしかったから」


 父さんが、話しを引き継ぐ。


「時空のはざまは、まあ言ってしまえばバグの一種みたいなものなんだよ。地球と、クロノス王国、お互いの異世界に干渉するAIを起動した結果、予期せぬ相互干渉によってワームホールが発生した。それが、時空のはざまって訳さ」


 なるほど。偶然に偶然が重なったってわけか。

 お父さんはボサボサの頭をかきながら、陽菜ひなの両親に向かって話す。


「それにしても、お二人はトンデモナイですな。剣と魔法の世界に召喚されて、いちから懐中魔道士メカニカルウイッチなんて大発明をしたんですから」

「そ、そんな!!」

「私たちなんて、全然すごくないですよ!!」


 父さんの言葉に、陽菜ひなの両親は謙遜をする。


「私たちは、あくまで、大賢者マリーン様の助手ってだけです」

「大賢者マリーン様は、魔法はモチロン、クロノス王国ではまだオカルトにすぎなかった科学にも精通していました。大賢者マリーン様は、その卓越した知識で、クロノス王国の文明を200年進めたといっても過言ではありません」

「なるほどねぇ。そんなにスゴイ人物なら、僕も合ってみたいもんだなぁ」


 父さんが、伸び放題の無精髭をジョリジョリとなでながら感心していると、陽菜ひなが口をとがらせながら話に割り込んできた。


「ちょっとちょっと!! 大賢者マリーンは、裡子りこ先輩をさらった賢者のモスの親玉なんだよ! いくら偉い人でも、やって良いことと悪いことがあるよ! アタシだってあやうく『精霊の儀』の生贄にされちゃうトコだったんだから!!」

「そ、そうだね」

「ごめんなさい、陽菜ひな。あなたの気持ちを考えれば、憎むのも当然よね」


 陽菜ひなの両親は、陽菜ひなに平謝りだ。

 でも妙だな。陽菜ひなの両親がそこまで慕う大賢者マリーンが、どうして『精霊の儀』なんて凶行に走ったんだろう。


 俺が合ったのはあくまで『クロノスの聖女』のゲーム内のキャラクターだけど、大賢者マリーンは極端なくらいの穏健派だったはずだ。ちょっと言い方が悪いかも知れないけれど、いい人すぎて人に利用されるタイプって感じの人だった。


 ひょっとして、さらなる黒幕がいる? 悪いやつに騙されてるとか??

 いや、考えすぎか。魔法も科学も精通している大賢者が、そうやすやすと騙されるわけないもんな。ゲームとかでもよくある、凡人が到底理解できないような深遠なる目的があるのだろう。


 俺達は、最寄り駅で降りると、徒歩25分の道のりを、壬生みぶ家とひのえ家、それぞれでタクシーに乗って家路につく。


「ただいまー」

「ただいま」

「あら? あなた、珍しいじゃない。こんな早い時間に」


 父さんを見た母さんが、困惑の表情を浮かべる。早いといっても今はもう夜中の9時だ。


「母さん、実は流斗りゅうとの事でおりいって話があるんだけど……」

「まずは、お風呂に入りなさい! あなたいつから会社に泊まってたと思ってるの?」


 母さんは、父さんの発言をピシャリと遮る。そして、


「ついでだから流斗りゅうと、あなたも父さんとお風呂入っちゃいなさい! 晩御飯は、わたしがパパッとつくっとくから」


 俺と父さんが久しぶりの裸の付き合いをして台所にいくと、母さんは晩御飯の準備を済ませていた。

 晩ごはんを食べながら、俺と父さんは改めて母さんにいきさつを話す。


「ふーん、いいんじゃない?」


 母さんは、俺の休学をあっけらかんと受け入れた。


陽菜ひなちゃんと一緒に世界旅行だなんて。新婚旅行みたいでうらやましいわ」

「べ、別に観光で旅行するわけじゃないんだからさ。ヴァシュロンもついてくるんだし!!」

「ま、何はともわれ、これで決定だね。大変だと思うけれど、よろしく頼むよ流斗りゅうと

「わかったよ。父さん。早速明日から探索を始めるよ」


 俺は答えながら、母さんの言ったことで頭がいっぱいになっていた。

 新婚旅行か……翌々考えたら、これからしばらく、ずっと陽菜ひなと一緒なんだな。


■次回予告

 ヴァシュロンを従えて、世界を旅することになった流斗りゅうと陽菜ひな。新婚旅行気分で本当に大丈夫か? お楽しみに!!


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10年ぶりに再会した幼馴染から告白された。ただし彼女は異世界で聖女していたとイタイ発言をする。え?本当に行ってたの!? かなたろー @kanataro_

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