第27話 さらなる異世界の訪問者。

「おまたせしました。キミが壬生みぶ流斗りゅうとくんだね?」

「はい。……えええ!?」


 俺があこがれのゲームクリエイター、株式会社ノーチラスのおり社長を眼の前にしてキョドりまくっていると、となりにいた陽菜ひながまくしたてる。


「あんたね!? 裡子りこ先輩を拉致したふとどきものの親玉は!! 今すぐ裡子りこ先輩を開放なさい!!」

「ちょ!! 陽菜ひな!!」

「はっはっは、元気のいいお嬢さんだ」


 陽菜ひなの無礼な物言いにも、おりさんは笑顔で対応する。


「まあ、私を怪しむのも仕方がないか。キミたちは、そこにいる雲上人ヴァシュロンが時空のはざまを見つけたから、ここを訪れたようだからね」

「やっぱり!! このおじさんめっちゃ怪しいよ!! 目つき悪いし、スキンヘッドだし、もみあげとヒゲがつながってるし!! どっからどう見ても悪役だもん!! ねえ、流斗りゅうと! すぐに逃げよう!!」

「あはは……悪人顔なのは認めるけれど、ちょっと傷つくなぁ」


 陽菜ひなの言葉に、おりさんは苦笑いしてから話しをつづける。


「安心してくれ。僕はキミたちの敵ではない。断言するよ。その証拠を今からお見せしよう」


 そう言うと、おり社長は俺達を先導して、エントランスの一番奥にある会議室で立ち止まった。会議室の扉には『立入禁止』の張り紙がされてある。


 コンコンコン

「はい」


 おり社長がドアをノックすると、中から返事が聞こえる。父さんの声だ。なんで??


壬生みぶくん。キミに会いたいと言う人物を連れてきた。お通ししてもいいかい?」

「……私に? 一体、誰です?」


 父さんの声が気持ちふるえているのが判る。随分と警戒している感じだな。


「はは、そんなに警戒しなくてもいいよ。絶対にキミの敵ではない。断言をするよ」


 おり社長は、俺達と話したときとまったく同じ受け答えをすると、ガチャリとドアをあける。すると……


「え!?」

「パパ、ママ??」


 俺と陽菜ひなは、驚きを隠せなかった。


 会議室に、俺の父さん以外にも、陽菜ひなの両親がいたからだ。

 そしてもっと驚いたのは、会議室にいたもうひとりの人物だ。いかにもファンタジーな出で立ちの高級そうな服とマントを羽織り、王冠をかぶったヒゲのおじいさん。この人ってまさか……。


「クロノス王、紹介いたします。聖女ヒーナの側にいるのは、壬生みぶ精工せいこうくんの御子息の流斗りゅうとくん、そして、かつてクロノスの地で魔王と呼ばれた雲上人ヴァシュロンです」


 やっぱりだ! このおじいさん、クロノス王国の王様だ。王様なのに宿屋の主人とそっくりなモブキャラ感満載の王様だ!


 一体どういうことだ?? 混乱しまくっている俺と陽菜ひなに、おり社長が説明をしてくれる。


「今のクロノス王国は、大賢者マリーンに制圧されてしまっていてね。クロノス王は、僅かな側近と共に潜伏をしているんだ。その潜伏先がこのビル。我が社の下のフロアに避難をしてもらっている。でもって、今はちょうど大賢者マリーンの打倒の作戦会議をしているところだよ」

「作戦会議? 陽菜ひなの両親は判るけど、そこに何で父さんが?」


 俺のストレートな質問に、父さんが頭をかきながら返答する。


「ゲーム、『クロノスの聖女』の世界観設計は、父さんが開発した人工知能で生成をした世界なんだ。やたらリアルな設定ができたなーと思ってたら、まさか実在する異世界だったなんて……いやー、父さんびっくりだよ」


 マジか!! 父さんは衝撃の事実を、めっちゃ軽い口調で説明する。とてもにわかには信じられない。

 

「そうなんだ! 流斗りゅうとのおじさんって天才じゃん!!」

「いやー! それほどでも?」


 陽菜ひなは完全に納得していて、褒められた俺の父さんはまんざらでもない顔をしている。え? 俺の感覚がおかしいの?

 ここ1ヶ月以上、不条理に晒されまくって随分と耐性がついたつもりだったけれど、まだまだ修行が足りないみたいだ。


 俺は、どうにかこうにか、今のトンデモな状況に頭の整理をつけていると、


 ガタン。


 会議席の上座に座ったクロノス王国の王様が席を経った。


「ヴァシュロン……おお……貴方様が……」


 クロノスの王様はプルプルと震えながら杖をつき、一歩一歩ヴァシュロンに向かっていく。そして眼の前で崩れるようにひざまずいた。


「おお……ヴァシュロン様……雲上人であらせられる貴方様を『魔王』とたばかり、威光を削いだ一族の愚行をどうか、どうか、お許しください」

「大丈夫だ。問題ない。はるか昔のことだ。人の王よ。面をあげるのだ」

「おおお……ヴァシュロン様……もったいないお言葉」


 クロノスの王様は、ヴァシュロンに向かって更に平服をする。


「我は、もうひとりの聖女、高野たかの裡子りこの力により、このとおり半身を取り戻した。我ら雲上人はこれ以上人類に関わる意味はないだろう。我は、我の半身を取り込み次第、雲上へと帰るつもりだ」


 半身? どういうことだ?? 今の姿がヴァシュロンの本当の姿じゃないのか??

 とまどっていることが、表情にでていたのだろう。ヴァシュロンが俺にむかって話しを続ける。


「本来の我は、両性具有。我の半身は、懐中魔道士メカニカルウイッチとして再現をされている」

懐中魔道士メカニカルウイッチ!? それって……」

「ああ、懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタン。それが我の半身だ」

「えええ!? あの可愛いコンスタンタンが、このマッチョと同一人物??」


 陽菜ひなが、思ったことを思ったまま、かなーり失礼に口にすると、陽菜ひなの両親が話に加わる。


懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタンは、時と共に失われた雲上人の時を巻き戻して再現させた疑似生命体なんだ。もうひとつある懐中魔道士メカニカルウイッチ、賢者ノモスに奪われたピゲは、大天使オーデマの半身で出来ている」

「賢者ノモス、そして大賢者マリーンの思惑は、懐中魔道士メカニカルウイッチピゲと、裡子りこさんを同化させることによって、雲上人の能力を人の手で完全に掌握することよ」

「ええ? 半身を奪われちゃったら、大天使オーデマはどうなっちゃうの!?」


 陽菜ひなの両親の説明に、陽菜ひなは疑問をなげかける。答えたのはヴァシュロンだ。


「消滅することになるだろう。もっとも、崇拝の対象としてその名は残り続けることになるだろうがな」


 ヴァシュロンの言葉を、俺の父さんが引き継ぐ。


「雲上人の力を人が手に入れれば、それはもはや現人神あらひとがみだ。人類が手にして良い力ではない。決してだ!」


 父さんは、今まで見たこともない、とても真面目な、とても厳しい顔をして言い放った。ちょっと怖いくらいだ。父さんは、はっと我に返ったかのようにいつものゆるーい笑顔に戻ると、俺と陽菜ひなを交互に見る。


陽菜ひな、そして流斗りゅうと。ここに来たのは、賢者ノモスにさらわれた高野たかの裡子りこさんを救出するためで間違いないかい?」


 陽菜ひなは即答する。


「モチロンだよ! おじさん!! 裡子りこ先輩がアタシの代わりに『精霊の儀』の犠牲者になるなんて、絶っっっっっっっ対にイヤ!!」

流斗りゅうとはどうだい?」

「俺も陽菜ひなと同じ気持ちだよ」


 俺の返答に、父さんは軽く息をついて、陽菜ひなの両親とクロノス国王を見る。


「王様。陽菜ひなちゃん、そして流斗りゅうとを、大賢者マリーン打倒の解放軍に加えてもよろしいでしょうか」

「お願いします! 王様!!」


 父さんの申し出に、陽菜ひなもつづく。そして、俺も、


「よろしくお願いします」


 クロノス王に頭を下げた。すると、ヴァシュロンの前にひざまずいていた王様は杖を支えにヨロヨロと立ち上がり、俺の前に手を差し出した。


「頼むぞ。流斗りゅうと殿」


 俺は、無言でその手を握り返すと、ヴァシュロンが語り始める。


「クロノスの王よ。壬生みぶ流斗りゅうとは、我の半身、懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタンの主人とも言える存在だ。いわば壬生みぶ流斗りゅうとは我の御主人様だ。きっとクロノス王国を正しい道に導くであろう」

「おお! それは頼もしい!!」

「……は、はい」


 ヴァシュロンの御主人様って、なんかなヤナ響きだな……と内心思いつつ、俺は努めて平静を装って返事をした。



■次回予告

 株式会社ノーチラスに構えられた解放軍の作戦会議に参加する流斗りゅうと

 父さんたちが考えた裡子りこ先輩救出作戦とは? お楽しみに!!


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