第26話 新たなる訪問者、ゲーム会社のエントランスに行く。

「ああ。断言しよう! ここから北に9メートル、上空へと29メートル……このビルの13階に時空のはざまがある」

「そんな! この場所って……俺の父さんが務めている会社じゃないか!」


 おどろく俺を見て、陽菜ひなが首をかしげる。


「あれ? 流斗りゅうとのお父さんの仕事って、ゲームプログラマーだよね。会社名、ちがくない? 確か、めっちゃ有名な会社だったよね。スポーツジムも経営してる」

「そっか、陽菜ひなは知らないよな。父さん、結構前に転職したんだよ。それがこの、株式会社ノーチラスなんだ」


 株式会社ノーチラスの社長の名前はおり円人えんと。『世界で最も革新的なプロデューサー、クリエイター 50人』にも選ばれている、めちゃくちゃ有名なゲームクリエイターだ。

 詳しくは知らないけれど、所属会社とゲームの制作方針について揉めに揉めて退職、そのまま新会社ノーチラスを設立した。おり円人えんとの部下だった父さんは、ノーチラスの創立メンバーのひとりだ。

『クロノスの聖女』は、株式会社ノーチラスの第1作目だ。天才ゲームクリエイターの新作という話題性と、ゲームユーザーの期待を裏切らない面白さで、『クロノスの聖女』は売れに売れまくった。今では、パッケージ版とダウンロード版、併せて200万本を超える売上を誇る大ヒットゲームだ。


「さて、壬生みぶ流斗りゅうと、時空のはざまは発見したが、これからどうするのだ?」

「もちろん! カチコミかまして裡子りこ先輩を救出するよね!! 流斗りゅうと!!」


 陽菜ひなのやつ、随分と物騒な事言ってるな……俺が陽菜ひなをなだめようとすると、ヴァシュロンが口をはさんだ。

 

「いや、我は聖女ヒーナの作戦に反対だ。乗り込むのであれば、勇者ランゲと幻術師ゾーネ、そして懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタンを呼ぶべきではないか?」

「なんで? ヴァシュロンがいるじゃない」

「我は非暴力主義なのだ」


 ヴァシュロンはたくましい胸筋をゆらす。

 そうなんだ。そういえば『クロノスの聖女』でも、レベル1の勇者ランゲを襲えばいいのに、魔王の城でずっと待ち続けていたもんな。ゲームのラスボスあるあるだ。


「もう、ヴァシュロンって意外とヘタレなのね。しょうがないわね。一度戻って、ランゲとゾーネちゃんに報告しよっか……」


 残念そうに肩を落とす陽菜ひなの言葉を、俺はさえぎる。


「いや、ノーチラスに行ってみよう」

「ええ? アタシたちだけでカチコミするの?」

「普通に受付に行くよ。だってこの会社、父さんが働いてる会社なんだし。息子が会いに来たって別に不思議じゃないだろう? 視察くらいはできるはずだよ」

「あ。なるほど」


 確かに、裡子りこ先輩を救出するためだけなら、ランゲたちと改めて訪問するべきだ。でも、俺にはもうひとつの理由があった。もう1ヶ月以上、家に戻ってこない父さんの行方を確認したいためだ。

 どっちかというと古い気質の父さんは、仕事が佳境になると家に帰ってこないってこともしばしばあった。ヒドイときには、月曜日の朝に出社して、土曜日の朝に帰ってくるなんてこともあった。

 だけど、1ヶ月家を開けるなんてさすがに初めてだ。ひょっとしたらクロノス王国のいざこざに巻き込まれてるんじゃないか、そんな予感がしたからだ。


 ウイーン。


 エレベーターが静かに開いて、株式会社ノーチラスのエントランスに向かう。薄暗い照明に、四角いのぞき窓が点在する独特の内装だ。

 陽菜ひなは、キョロキョロと周囲をひととおり見回すと、思ったことを口にした。


「随分と変わった会社だね」

「ノーチラスって、『海底二万里』って小説に登場する潜水艦の名前なんだ。きっと、このエントランスは潜水艦をモチーフにしているんじゃないかな?」


 俺は受付においてある受話器を取ると、ほどなく、女性の声が聞こえてきた。


『はい。株式会社ノーチラスでございます』

「あの、壬生みぶ精工せいこうと会いたいんですけど」

『部長の壬生みぶでございますか? あいにく、壬生みぶは席を外しております。どのようなご要件でしょう?』


 ? この人、父さんがいないことを即答してきた。なんだろう、めっちゃ違和感を感じる。なんというか、同じ受け答えを何度もこなしてすっかり言い慣れている感じ??


壬生みぶ精工せいこうの息子です。父がもう1ヶ月以上帰ってこないので心配で……」

『……!? しょ、少々お待ち下さい!!』


 ブツリ!


 電話口の人が一方的に電話を切る。めっちゃ焦ってる! 完全になにか隠している感じだ。俺は首をかしげながら受話器を置く。


「どうしたの、流斗りゅうと??」

「息子だって言ったら、いきなり電話をきられちゃったんだ」

「なにそれ!? めっちゃ怪しいじゃない!!」

「少々お待ち下さい。って言われたから、とりあえずしばらく待ってみよう」

「わかった」

「我も承知した」


 俺達は、エントランスに備え付けられた長椅子にこしかける。

 数分後。ひとりの男性がやってきた。


「おまたせしました。キミが壬生みぶ流斗りゅうとくんだね?」

「はい。……えええ!?」


 その人を見て、俺は驚愕した。だってその人は、俺が尊敬して止まない『世界で最も革新的なプロデューサー、クリエイター 50人』のひとりに選ばれた、株式会社ノーチラス代表、天才ゲームクリエイターのおり円人えんとだったからだ。



■次回予告

 株式会社ノーチラスの社長、おり円人えんとに父のことを尋ねる流斗りゅうと。長期出張をしている父の居場所は思いがけない場所で……!?

 お楽しみに!!


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