第25話 新たなる訪問者。服を着る。
「承知した。我が先導しよう」
空中を滑走して美術室を出ようとするヴァシュロンに、俺はつとめて冷静なツッコミをする。
「ヴァシュロン。まずは服を着てくれないか??」
「服? 何故だ?」
まさか服を着る必要性を説明しなければならない日が来るとは思ってもいなかった。
「そのまま外に出たら、公然わいせつ罪でつかまっちゃうからだよ」
「なるほど、我のこの美しい肉体を晒すのは罪ということだな?」
「まあ……そういうことでいいや。あと、空中を浮遊するのもダメ」
「地面を歩くのはいささか面倒であるが承知した。では、早速服を着るとしよう」
ヴァシュロンはバサリと羽をはばたかせて自分の身体をくるむと、羽がまばゆい光につつまれて服へと変形していく。
「よし、では行こうか」
服を着たヴァシュロンがサイドチェストを決める。俺は努めて冷静に、眼の前に起こっている出来事にツッコミを入れた。
「なんで女子の制服なんだよ!!」
ヴァシュロンはJKの制服に身を包んでいた。ミニスカートから伸びるたくましい内側広筋とハムストリング、そしてハリのある下腿三頭筋とヒラメ筋の美しさを、くるぶし丈のソックスがこれでもかと引き立てまくっている。
最悪な絵面だ。
「我が肉体美をできるだけ露出させるためだ」
「警察から職質されまくるわ!!」
「ふむ、人の世界とは生きづらいものだな。止むをえん。
ヴァシュロンは渋った顔で再び自分の身体を羽でくるむと、羽が男子の制服へと変形をする。
ちょっと制服のサイズがピチピチすぎる気がしないでもないけど、まあ許容の範囲だろう。
「まったく、人類は何故にかような動きづらい物を纏うのか……理解に苦しむな」
さすが雲上人。凡人にはとうてい理解が出来ない価値観だ。
「では、
「詳しい場所が分かるのか?」
「無論だ。服を着ている間に詳細な場所を突き止めた。ここより西南西に9.53キロ。地上29メートルに時空のはざまを感知した」
俺はスマホを確認する。
「そこなら、電車で20分もかからない。すぐに行こう!」
・
・
・
俺達は今、電車に乗って移動をしている。
ざわ……ざわ……
「なんだあの男」
「すげーマッチョ」
「腕まわり、あたしのウエストより太くない?」
「制服着てるから、高校生だよな……??」
「金髪だから、きっと留学生なんじゃないか?」
制服を着たヴァシュロンは、周囲の目を釘付けにしている。
「ふうむ。やはり服を着ていても我の肉体美は隠し仰せないか」
ヴァシュロンがまんざらでもない顔でつぶやく。
『次は~秋葉原~秋葉原~』
「
俺はふたりに声がけをする。
ざわ……ざわ……
「秋葉原ってことは、あのマッチョ、コスプレなんじゃね?」
「一緒に降りてくめちゃんこ美少女も同じ制服っぽいし間違いなさそう」
「でも、あれ、なんのキャラだ、ゲーム? それともアニメ??」
「さあ……」
俺達は、乗客からの視線を独り占めにして、秋葉原のホームに降りる。
通りには、客引きをするコスプレをしたひとたちや、外国人からの観光客も多いから、ヴァシュロンもそれほど悪目立ちをしない。本当に助かる。
ピク……ピクピク……!!
ヴァシュロンが大胸筋を震わしているのが、制服を着ていてもはっきりと分かる。
「ヴァシュロン、ふざけるのはやめてくれ」
「ふざける? 何を言ってる。我はいつでも大真面目だ」
「じゃあ、なんで胸をひくつかせてるんだよ!」
「時空のはざまを探知するためだ。服を乳頭にこすりつけることで探知感度を敏感にしているのだ」
「そ、そうなんだ」
ヴァシュロンは、周囲に聞かれたら、まごうことなき変態だと認定されそうな発言をしながら胸をはる。
でもしゃーない。
「む、どうやらこの建物のようだな」
数分後、ヴァシュロンは商業施設の入ったビルで足を止めた。
「え? ここ?」
「ああ。断言しよう! ここから北に9メートル、上空へと29メートル……このビルの13階に時空のはざまがある」
「そんな! この場所って……」
俺は、おどろいた。だってこのビルの13階は、ゲーム『クロノスの聖女』を販売しているゲームメーカー、株式会社ノーチラス。俺の父さんが働いている会社のオフィスがある場所だったからだ。
■次回予告
株式会社ノーチラスの事務所を訪れるも、あえなく門前払いをくらう。しかたなく
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