第24話 新たなる訪問者。サイドチェストを決める。

「我が名はヴァシュロン。かつて魔王と呼ばれた男。封印されし我が肉体を、この地へといざなってくれた高野たかの裡子りこに礼を言いたいのだが……どこにいる?」


 え? どういうこと??


 この羽つき全裸男、今、って言ったよな?

 こいつが『クロノスの聖女』のラスボス、魔法ヴァシュロン??


 いやいやいや、さすがにそれはありえない。だって姿形が似ても似つかない。


 魔王ヴァシュロンは、ハエの頭にハエの羽が生えている、全身がヘドロにまみれた魔王の名にふさわしい、醜悪でおどろおどろしい姿をしていたハズだ。

 ヴァシュロンを自称する羽つき全裸男は、陽菜ひなを見ると、またもやとんでもないことを言い放つ。


「ん? キミはクロノスの聖女ではないか! なぜ、この地にいる?」


 ヤバい!  もし、こいつが本当に魔王ヴァシュロンだとしたらめちゃくちゃヤバい。今は懐中魔道士メカニカルウイッチが手元にないんだもの。攻撃されたらひとたまりもない。

 俺は、陽菜ひなの前に立ちはだかると、つとめて慎重に、羽つき全裸男に質問をする。


「クロノスの聖女に何の用だ?」

「礼をしたい」

「……は??」


 理解がまったく追いつかないまま、羽つき全裸男は話しを続ける。


「クロノスの聖女は、我が肉体にこびりついたけがれを削ぎ落としてくれたのだ。人類を正しく導くため、雲上に住まいし我は、オーデマとともに地上へと降り立った。そして、オーデマは北の人類、我は南のの人類を導いた。

 人類は大いに繁栄をした。が、そこで困ったことが起きた。北の人類と南の人類が、オーデマと我、どちらが偉大かを議論し、やがて紛争がはじまったのだ。

 結果、北の人類が勝利し、南の人類を支配した。我は穢れた者とされ、聖なる力を失っていき、やがては自身を制御できなくなっていったのだ」


 確かに『クロノスの聖女』で、大天使オーデマが『ヴァシュロンは邪悪に蝕まれた。我は彼を浄化しなければならない』とかなんとか言ってたな。


「クロノスの聖女が東の勇者サクソニアを率いて、正気を失った我と戦い浄化をしてくれ、高野たかの裡子りこが我の本当の姿を描いてくれたおかげで、我はこの地に復活をすることができたのだ」


 全裸のヴァシュロンは、大胸筋をピクつかせながらかなりかいつまんで、いままでの経緯を説明をしてくれる。

 なるほど……一応、筋は通るな。それにしても裡子りこ先輩は、なんで魔王のヴァシュロンの真の姿なんて描いてたんだ? 偶然にしては出来すぎているような気がする。


「話は戻るが、封印されし我が肉体を、この地へといざなってくれた高野たかの裡子りこは……どこにいる?」

「それが、裡子りこ先輩、クロノス王国にさらわれちゃったの」

「なん……だと!?」


 全裸のヴァシュロンは、大胸筋をピクつかせながら驚く。


裡子りこ先輩、このままだとアタシの代わりに『精霊の儀』の生贄にされちゃいそうなんです!!」

「なん……だと!?」


 全裸のヴァシュロンは、大胸筋をいっそうピクつかせる。


「『精霊の儀』は、雲上に住まいし我らの肉体を、地上に縛り付ける下法ぞ。オーデマは、何故、そのような愚行を……」

「アタシたちにもわかんないよ! でも、アタシの身代わりに、裡子りこ先輩が犠牲になるなんて耐えられない! ねえヴァシュロン!! 裡子りこ先輩にお礼が言いたいのなら、裡子りこ先輩を助けるのを協力して!!」

「ふうむ……少し、考えを整理したい。むぅん!!」


 全裸のヴァシュロンは、おもむろに大胸筋をピクつかせると、サイドチェストのポーズのまま静止する。

 全裸のヴァシュロンは、大胸筋をブルブルと震わせ続けると、大量の汗を吹き出し始めた。


 シュウウウウウ!


 吹き出た汗が蒸発して、湯気となってもうもうと立ち込めて視界が悪くなる。

 そういえば魔王ヴァシュロンが登場するときって、必ず湯気が立ち込めてたけれど、あれ、これが原因だったのか。


 シュウウウウウ!


 裸のヴァシュロンが長考すること数分。


「ふぅぅぅ……いいだろう。高野たかの裡子りこの救出に協力しよう」

「本当!?」

「うぬ。人類はすでに雲上に住まう我らの力を借りずとも充分に進化をした。我らの役目はすでに終わっているのだ。同士オーデマが何故、地上に留まろうとしているのか、我も知りたい」

「やったぁ! ありがとうヴァシュロン!!」


 喜ぶ陽菜ひなが、全裸のヴァシュロンに抱きつこうとする。俺は大急ぎで陽菜ひなの袖を掴むと、ヴァシュロンに礼を言う。


「ありがとうヴァシュロン。協力感謝するよ。さっそくだけど、裡子りこ先輩がどこに囚われているか解ったりするかな? ランゲたちがクロノス王国をくまなく探してくれているんだけど、一向にてがかりがつかめなくって」

「それであれば、既に検討はついている」


 俺の質問に、全裸のヴァシュロンが大胸筋をピクつかせながら返答する。


「先程、我の気を充満させてこの星のことを探った。どうやら、高野たかの裡子りこは、この場所から半径10キロ以内の場所に監禁をされているようだ」


 あの湯気、そんなこともできるのか! さすが雲上人!!


「ほんと!? それじゃ! 裡子りこ先輩を救出しに行こう! 今、すぐに!!」

「承知した。我が先導しよう」


 陽菜ひなの言葉を受けて、サイドチェストのポーズを取りながら、空中を滑走して美術室を出ようとするヴァシュロンに、俺はつとめて冷静なツッコミをする。


「ヴァシュロン。まずは服を着てくれないか??」


■次回予告

 服を着たヴァシュロンとともに、裡子りこ先輩を救出にいく流斗りゅうとたち。その場所は、意外な場所で……お楽しみに!

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