第23話 新たなる訪問者。

 裡子りこ先輩が、クロノス王国の王宮占術師ベルアンドに攫われてから、1ヶ月が経過した。

 賢者ノモス、そしてその師匠である大賢者マリーンの謀反が発覚したことにより、無実が証明されたランゲ&ゾーネ姉妹は、クロノス王国に戻って裡子りこ先輩の捜索をしてくれている。

 残念ながら手がかりすらつかめていないようだけれど。


 賢者ノモスと一緒についていった番長ともそれきりだ。


 陽菜ひなの両親は、ランゲ&ゾーネ姉妹同様、無罪放免……てことにはならなかった。懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタンを、秘密裏に開発していたことが問題視されたからだ。

 とはいえ罪状には問われていない。懐中魔道士メカニカルウイッチを没収されるにとどまり、ひきつづき王宮お抱えの研究者として働くことを許された。

 今は、ゾーネがマンションの窓に造った時空のはざまからクロノス王国に通勤していて、俺の家に居候をしていた陽菜ひなも両親と暮らしている。


 没収をされたコンスタンタンは、今はランゲ&ゾーネ姉妹の手にわたり、裡子りこ先輩をさらった、賢者ノモス捜索の旅に同行をしている。


 そう、つまり俺は、どこにでもいる普通の高校生に逆戻りしたって訳だ。


「おはよう! 流斗りゅうと!!」


 いや、どこにでもいる普通の高校生ってのは自虐がすぎるかもしれない。だって俺にはこんなにもカワイイ幼馴染がいるんだもの。

 いつものように、定位置の左腕に絡みついてくる陽菜ひなに、俺は質問をする。


「なあ、陽菜ひな

「なあに? 流斗りゅうと

「ランゲたちから、なにか報告とかあった?」

「ううん。なんにも。ランゲとゾーネちゃんはもちろん、国の兵士たち総出でノモスさんを捜索しているけれど、まったく足取りがつかめないみたい」

「そっか……」

「ゾーネちゃんの推測だと『精霊の儀』が執り行われる日まで、異世界に潜伏してるんじゃないかって」

「それって地球ってこと?」

「だと思うけど……ゾーネちゃんも断言出来ないって言ってた」

「そっか……」


 ノモスたちの潜伏先が本当に地球なのであれば、ひょっとしたら、自分にも出来ることが……いや、ないか。

 この地球上から、まったくの手がかりの無しで裡子りこ先輩を探し出すだなんて、完全に無理ゲーだ。


「俺がプレイしていた『クロノスの聖女』では、『精霊の儀』は冬至の日に行われてたけど、クロノス王国の『精霊の儀』も、同じ日に行われるって認識で合ってるよな?」

「そうだよ。クロノス王国では極夜の日って呼ばれてるけど、その日に一瞬だけ光を受ける霊峰ヴァイスベルクで『精霊の儀』は執り行われるの。ランゲからは極夜の日に霊峰ヴァイスベルクを立ち入り禁止にして厳戒態勢をひくって聞いているわ」


 なるほどな。益々もって普通の高校生にはお手上げだ。

 俺は自分の無力さに打ちひしがれていた。


 ・

 ・

 ・


 キーンコーンカーンコーン……


 終礼のチャイムが鳴ると、俺は席を立って教室を出る。


「あれ? 流斗りゅうと!? 一緒に帰んないの??」

「美術室に寄ろうと思ってさ」

「……そっか。アタシもお邪魔していい??」

「ん。別に構わないけど」


 授業以外で美術室に行くのは1か月ぶりだ。


 ガランとした美術室に、ずいぶんと日照時間が短くなった日差しが横から細い筋となって差し込んでいて、舞っているホコリがキラキラと光っている。

 俺は、光の筋の終点を見る。そこには裡子りこ先輩がコンクールに向けて描いていた、地中に封印をされた天使の油絵がイーゼルに立てかけられていた。


「あれ?」

「どうしたの、流斗りゅうと

裡子りこ先輩の絵、変わっている気がする」


 俺は、油絵に近づいて確認する。


「やっぱりだ。この絵、完成しているよ。ほらここ。右下にサインが入っている」

流斗りゅうとの思い違いじゃない? 実はもう完成してたとかさ」

「それは無いよ! 裡子りこ先輩、コンテストの締切ギリギリまで描くって言ってたから」


 ?? 一体どういうことだ?

 まさか裡子りこ先輩がクロノス王国から戻ってきた?

 いやいや! 流石にそれは考えられない。


 俺は、もう一度絵画を確認する。すると、


 ガタッ!


 突然、カンバスが震え始めた。


「きゃ、なに??」


 驚いた陽菜ひなが、俺の左腕にからみつく。


 ガタッ! ガタッ! ガタッガタガタガタガタガタガタ!


 裡子りこ先輩が描いた絵が激しく震える。そして、


 ピカァ!!


 油絵から青白い光が放たれると、いきなり人影が飛び出してきた。

 裡子りこ先輩が描いた地中に封印されている天使そっくりの、金髪の長髪で、彫刻のような見事な体型をした全裸の男性だ。


 全裸の男は、まばゆい黄金の羽をはばたかせて、ゆっくりと美術室の床に降り立つと、開口一番、とんでもないことを言い放った。


「我が名はヴァシュロン。かつて魔王と呼ばれた男。封印されし我が肉体を、この地へといざなってくれた高野たかの裡子りこに礼を言いたいのだが……どこにいる?」


■次回予告

 突然、地球に現れた全身素っ裸のマッチョ。魔王ヴァシュロンを自称するこの男と裡子りこ先輩の関係は……お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る