第18話 異世界からの来訪者と、作戦会議をする。

 さてと、ランゲのアビリティポイントも溜まったことだし、クロノス王国に向かう準備も万端だ。

 あとは、いつ陽菜ひなの両親を助けに行くかだけれど……俺はノモスさんに質問をする。


「処刑はどこで執り行われる予定ですか?」

「レマンヌス湖の大噴水です。執行予定時刻は12時。確認したところクロノス王国とこの土地では、時差が8時間ほどあるようです」

「今は午後6時前だから……あっちの世界は10時前ってことか。自転と公転の周期って、こっちの世界と同じですかね?」

「正確な差異は図りかねますが、おそらく」

「ってことは、処刑執行はこっちの世界で明日の午後8時ってことか」


 レマンヌス湖の大噴水は、ゲーム『クロノスの聖女』にも登場する。レマンヌス湖のほとりにある、高さ100メートを超える水を吹き上げる大噴水は壮大そのものだ。噴水には常に虹がかかっていて観光スポットになっている。


「宮殿からレマンヌス湖までは馬車で30分ほど。護衛をつけることを考えると、1時間ほどの道のりになるでしょう」

「なるほど。とすると、宮殿をでるのは10時過ぎってところか……」


 キーンコーンカーンコーン……


 終礼のチャイムが鳴る。学校から場所を移さないとだな。


 ・

 ・

 ・


「おっじゃましまーす!!」

「カーーー!」

「あ、コラ、ゾーネ!! 家の中では靴をぬいでくれ!!」

「靴を脱ぐ? なるほど、それがこの世界の庶民の習わしか」

「庶民は余計だランゲ!!」


 俺は、ランゲ&ゾーネ兄妹に注意する。ゲームの中でもうっすらと感じていたけれど、この兄妹って結構なトラブルメーカーだよな。


「ただいまー!!」

「おじゃま致します」

「でやんす!」

「おじゃまします……」


 ランゲ&ゾーネ兄妹につづいて、陽菜ひなと、ノモスさんに番長、そして裡子りこ先輩が続く。


 ん? 裡子りこ先輩?


裡子りこ先輩も着いてきたんですか?」

「うん。なんだかそのまま帰るのも悪い気がして……迷惑だったかな?」

「め、めめめ迷惑だなんて! そんな!! 散らかってるけど上がってってください」

「ありがとう」


 裡子りこ先輩はローファーをぬぐと、玄関にひざまずいて、自分の靴と一緒に、みんなが脱ぎちらかした靴を丁寧に並べると、


「じゃ、改めてお邪魔するね」


 はにかみながら微笑んで、トントンと階段を上がっていった。

 まさか、裡子りこ先輩が俺の家に来るなんて。夢みたいだ。


 ムニュ


 ん? 俺は左腕を見る。そこには、いつもよりもおっぱいを押し付けながら絡みついている陽菜ひながいた。


「何やってんだ?」

「べっつにぃ!!」


 なんだなんだ? なんだか妙に機嫌が悪い。

 俺は何故だがプンスカしている陽菜ひなに絡みつかれながら、自分の部屋に入る。


 6畳の狭い部屋に7人がひしめき合う。かなりの人口密度だ。


「では、早速、作戦会議の続きを……」


 ノモスさんが話し始めると、


「あ! わたし、飲み物汲んでくるね。壬生みぶくん、お台所貸してもらってもいいかな?」

「そんな! 俺がやりますって!」

「ううん。みんなはひのえさんのご両親の救出作成に集中して」


 そう言い残すと、裡子りこ先輩は足早に階段を降りていく。さすが裡子りこ先輩、めっちゃ気が利くな。


 ムニュ


 さっきからずっと左腕にからみついている陽菜ひながおもいきりおっぱいを押し付けてくる。さっきからなんだんだ一体。


「では、救出作戦の続きを行いましょう」


 ノモスさんが、地図を広げながら話しをつづける。


「個人的には処刑執行の直前、大噴水でお二方をお救出するのが最良と考えています」

「何故です?」

「王宮からの移動には数十人の兵士が付き従います。急襲をかけるにしても、双方無事では済まないでしょう」

「なるほどな。できることならば、同胞の血を見るのは避けたいところだ」


 ノモスさんの提案に、物騒な感想を付け加えてランゲが賛同する。


「反面、処刑執行の直前であればそばにいるのは執行人のみ。民衆はもとより、兵たちもけがれを恐れて皆距離を取ります」


 なるほど、なるほど。


 俺たちは、裡子りこ先輩が汲んでくれた緑茶を湯呑みですすりながら、ノモスさんの説明に集中する。


「ゾーネ殿であれば、使い魔のカラスを介して、処刑場のすぐそばに時空のはざまを造り出せますし、お二方を救出し脱出までの時間をかなりかせげることになるでしょう。皆さんのご意見をお聞かせ戴けますか?」


 説明を終えたノモスさんは、皆を見回す。


「まかせて、ゾーネが聖女様のご両親を助けちゃうんだから!」


 幻術師ゾーネが、控えめな胸を張る。


「私も異論ない。我が妹であれば、必ずやこの大任を全うするだろう」

「よくわかんないでやんすが、俺様は姉さんにどこまでも付き従いやす!」


 ランゲと番長も、ノモスさんの作戦に賛同する。


「俺も問題ないと思う。陽菜ひなはどう思う?」

「大丈夫。アタシはみんなの事を信じてるから!」

「ありがとうございます。では、当日の詳細な作戦を……」


 ・

 ・

 ・


 1時間後、1階から裡子りこ先輩の声が聞こえてくる。


「みなさーん、晩御飯の準備ができましたよ!!」


 え? いつの間に??

 俺は、大急ぎで階段を駆け下りてダイニングに移動する。

 肉じゃが、鶏の唐揚げ、麻婆豆腐にチンジャオロース。テーブルには、家庭的な料理が所狭しとならんでいる。


裡子りこ先輩、そこまでしてくれなくても……」

「うんん、わたしは何も出来ないから。せめて明日に備えて英気をやしなってもらわないと」


 そう言って裡子りこ先輩は、控えめにはにかんだ。

 俺が裡子りこ先輩の気配りに感動していると、


 ムニュ


 ん? 俺は左腕を見る。そこには、さっきよりもさらに、おっぱいを押し付けてくる陽菜ひなが絡みついていた。


■次回予告

 いよいよ救出作戦開始! 果たして流斗りゅうとたちは陽菜ひなの両親を救うことができるのか!? お楽しみに!!

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