第17話 異世界からの訪問者、番長を手なづける。

「なるほど、あなたが聖女ヒーナ様のご両親によって造られた懐中魔道士メカニカルウイッチですか。これは興味深い……」


 賢者ノモスは、コンスタンタンを喰い入るように眺めている。


「ノ、ノモスさん、もういいですよね?」

「こ、これは失礼。お見苦しい所をお見せしました」


 賢者ノモスは、我に返ったのか、ほほを赤く染めてメガネを曇らす。

 ギャップ萌えというやつだろうか。クールビューティーなおねえさんが、恥じらう姿ってなんだか可愛らしい。

 そんなノモスさんをほっこりしながら見つめていると、勇者ランゲから声をかけられる。


壬生みぶ流斗りゅうと、そちらのレディーは?」

「え? ああ。この人は、高野たかの裡子りこさん。俺や陽菜ひなの1個上の先輩で、同じ美術部に所属してるんだ」


 俺は、ランゲに裡子りこ先輩を紹介すると、ランゲは裡子りこ先輩の前にひざまずく。


「お美しいお嬢様。お初にお目にかかります。私はランゲ=ワン=デイマティック。以後、お見知りおきを」


 ランゲはうやうやしく自己紹介をして、裡子りこ先輩の手のひらにキスをする。


「え? あ、はい……よろしくおねがいします……」


 突然の出来事に、裡子りこ先輩は顔を真赤にして消え入るような声で返事をした。そうだった、勇者ランゲはめっちゃプレイボーイだったんだ。俺は、ふたりの間に割って入る。


「ランゲ、お前、アビリティを失ったんだろ? 早くコンスタンタンと契約したほうがいいんじゃないか?」

「おっと、そうだったな。可憐な姫君を前に、つい取り乱してしまったよ」


 ったく、調子いいなランゲのヤツ。俺は再びコンスタンタンを取り出す。


「ご要件はなんでしょう」

「ここにいる、ランゲと契約をして欲しい」

「私と契約しますと、他の懐中魔道士メカニカルウイッチとの契約がリセットされますが、それでもよろしいですか?」

「ああ、構わん。承知の上だ」


 ランゲが即答をする。


「かしこまりました。勇者ランゲに使用権限を付与します」


 コンスタンタンが、メイド服の裾を持ってお辞儀をすると、懐中魔道士メカニカルウイッチの裏に刻まれた文様に新たな光が灯る。


「確認したよ。これでアビリティポイントをためればスキルを獲得できる。でも問題はアビリティポイントを貯める方法だよなぁ。番長はついさっきゾーネと模擬戦をしちゃったし……あれ?」

「どうした? 壬生みぶ流斗りゅうと

「番長と、もう一回模擬戦ができるみたいだ。何でだろう??」

「なるほど! では話は早い。カシオ殿、手合わせを願おうか!」

「よくわかんないけど、わかったでやんす!」


 番長とランゲが先頭準備を始めていると、幻術師ゾーネが元気いっぱいに手をあげる。


「はいはいはい! じゃ、ゾーネが審判しちゃう!!」

「カーー!!」

「ありがとう。助かるよゾーネ」


 俺は審判を幻術師ゾーネに任せると、首をひねりながら懐中魔道士メカニカルウイッチを確認する。なんで、番長だけ何度も何度も模擬戦ができるんだ??

 しきりに首をひねる俺に気がついたんだろう。ノモスさんが話しかけてくる。


「番長さんはオプション扱いかもしれませんね。調べてみては?」

「なるほど、その考えはなかったです」


 オプションは、パーティーメンバーをサポートするキャラクターのことで、幻術師ゾーネの使い魔であるカラスとかが該当する。


 俺は懐中魔道士メカニカルウイッチを確認した。

 ノモスさんの言う通りだ。番長はパーティーメンバーとしてではなく、カラスと一緒にオプションとして登録されてあって「E流斗りゅうと」って記されてあった。【E】はEquipment=装備の略。つまり番長は、俺のオプションってことになる。


 番長のやつ、なんでオプション扱いなんだ??


「ギャアアアアアアア!!」

「勝負あり! 兄様の勝ちー!!」

「カー!」


 あ、勝負がついたみたいだ。懐中魔道士メカニカルウイッチに、勇者ランゲのスキルが大量に開放されていく。


「む、無念……」


 番長が、ボロボロになって倒れている。一体、どうやったらあんなに痛めつけることができるんだ??


「事態は急を要するのでね。カシオ殿を回復しつつ手加減で攻撃をさせてもらった。おかげで大量のアビリティポイントが手に入ったよ」


 キラーン!!


 ランゲは歯を光らせながら、トンデモナイ事を言い放つ。よくそんなエグいこと思いつくな!!


「もう、勝負はついたろう。番長を回復させてやってくれ」

「すまない。実はギリギリまで手加減と回復を繰り返したのでね。あいにくMP切れなのだよ」


 キラーン!!


 鬼かよ!! ったくしょうがないな。 

 


 俺は番長を回復しようとする。けれど番長は、いつのまにかノモスさんに膝枕をされて、とっても幸せそうな顔をしていた。


「うう……姉さん、ありがとうございます」

「番町さん。あなたの献身的な行動をきっと神も見ておいででしょう」

「ありがとうございます! ありがとうございます!! この樫尾かしお耐河たいが、一生姉さんについていきやす!!」


 ピロリロリン♪


 『クロノスの聖女』で聴き慣れた音楽が聞こえると、システムメッセージが脳内に響きわたった。


「オプション『番長』の装備者が、流斗りゅうとから賢者ノモスに切り替わりました」



■次回予告

 陽菜ひなの両親奪還のため作戦会議を続ける流斗りゅうとたち。

 真面目に会議を進める中、何故か陽菜ひな裡子りこ先輩に嫉妬して……お楽しみに。

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