第14話 異世界からの来訪者、反逆者扱いをされる。

壬生みぶ流斗りゅうと!! 聖女様はどこ? お兄様が、ランゲお兄様が処刑されちゃうの!!!」

「え? なに? 聖女様って……だれ?」


 突然、時空のはざまから現れた、キテレツな格好をした少女に、裡子りこ先輩が動揺する。


 えっと……どこから説明すれば良いのやら。


壬生みぶ流斗りゅうと!! 早く聖女様のもとに連れて行きなさい!! これは命令よ!!!」

「ま、待ってくれ! 今、陽菜ひなに連絡するから!!」


 俺は大急ぎでスマホを取り出すと、陽菜ひなに電話する。


『……なに? 流斗りゅうと??』


 うひぃ。陽菜ひなのヤツ、教室にひとり取り残したからめっちゃ怒ってる。


「あ、あのさ陽菜ひな、まだ学校にいる?」

『……いるけど……なによ?』

「美術室まで来てくれないか? 幻術師ゾーネがこっちに来てるんだ。陽菜ひなに急用だって』

「それ、貸して!!」

「あ、おいこら!!」


 幻術師ゾーネが俺のスマホを奪い取る。


「聖女様!?」

『あ、ゾーネちゃんじゃない、久しぶり♪』

「よかった! 本当に聖女様だ!! 聖女様、お願い! 力を貸して!! 兄様が、ランゲ兄様が、処刑されちゃうの!!」

『えぇ?? どういうこと?? と、とにかく急いでそっちに行くね!』


 俺は、幻術師ゾーネに奪い取られたスマホに向って叫ぶ。


陽菜ひな! ついでに番長も連れてきてくれ!!」

『わかった!!』

「?? なにこの黒い板? めっちゃ便利じゃない。こっちの世界の魔術もなかなかやるわね」


 電話が切れたのだろう。幻術師ゾーネは、スマホを俺に返す。


「え? この娘、スマホをしらないの??」


 裡子りこ先輩が、幻術師ゾーネをまじまじと見る。


「なに? このガキンチョ! このゾーネ様に興味があるの?」


 ガ、ガキンチョって……俺は裡子りこ先輩を幻術師ゾーネに紹介する。


「ゾーネ。この人は、高野たかの裡子りこさん。俺や陽菜ひなの1こ上の先輩だよ」

「以外! 年上だったんだ」

「はじめまして、高野裡子たかのりこです。よろしくね、ゾーネちゃん」

「よ……よろしく」


 にこやかな顔をして手を差し伸べる裡子りこ先輩に、幻術師ゾーネはしぶしぶと応じる。


「サラサラでキレイな髪だね。いいなぁ。わたしは癖っ毛だからゾーネちゃんがうらやましいよ」

「そ、そうかしら? もしよかったらゾーネがいつも使ってるトリートメントをつかってみる?」

「わぁ! 嬉しい! ありがとう!!」


 裡子りこ先輩は、幻術師ゾーネの両手を握りしめるとニッコリ微笑む。幻術師ゾーネもまんざらでもない顔をしている。裡子りこ先輩の癒やしのオーラおそるべし。


 そんなふたりの尊み極まるやり取りと眺めていると、番長を引き連れた陽菜ひなが息をきらして美術室に駆け込んできた。


「はぁはぁ、ゾーネちゃん! ランゲが処刑されるってどういうこと!!」

「でやんす?」


 そうだった。癒やされてる場合じゃない。事態は緊急を要する。


「兄様は、国王に聖女様のご両親の開放を求めたの。そしたら『勇者ランゲが、聖女をさらった異世界の蛮族に洗脳をされた』って暴動が起こって」

「ええ!? アタシが異世界にさらわれた? まったく話が見えてこないんだけど!?」

「ゾーネだってわかんないよ! でも、これだけはハッキリ言える、兄様は洗脳されてなんかない!!」


 なるほど、なんとなく話が見えてきた。どうやらクロノス王国のお偉方にとって、陽菜ひなが自らの意思でこっちの世界に逃げてきたってのは都合の悪いことらしい。

 だから、真実を告げようとした勇者ランゲを反逆者として葬りたいわけか。


「おねがい! 聖女様!! クロノス王国にもどって、兄様の無実を証明して!!」


 幻術師ゾーネは、涙ながらに訴える。でも、


「だめだ! 陽菜ひなはクロノス王国には行かせない!!」


 俺はきっぱりと断る。


「なによ! 壬生みぶ流斗りゅうと!! あなたには関係ないでしょ?」

「大アリだよ!! 俺は、陽菜ひなの婚約者なんだから!!」

「ええええぇ!」


 俺の発言に、幻術師ゾーネは目を白黒させる。

 

「婚約者を危険な場所に行かせるわけには行かないよ。当然だろ?」

「な、なんでクロノス王国が危険なのよ!! 聖女様は、国民が全員が慕うお人よ! 危険な目に合うわけ無いじゃない!!」


 ん? なんだか話が噛み合わないな。ひょっとして幻術師ゾーネは『精霊の儀』の実態を知らないんじゃ?


「とにかく! 勇者でも処刑されちゃう物騒な国に、陽菜ひなは行かせない!」

「そんな……ううぅ……兄様ぁ」


 幻術師ゾーネは、美術室の床に力なくへたれこむ。そんなゾーネの背中をさすりながら、陽菜ひなが口を開いた。


「アタシは、別に行ってもいいよ。ってかランゲを助けたい。だって命の恩人だもん。冒険の道中、何度ランゲに助けてもらったか」

「ほら! 聖女様も、兄様を助けたいって言ってる!! 壬生みぶ流斗りゅうとのろくでなし!! 人でなし!! 女たらし!!」


 うう、まいったな。陽菜ひなをクロノス王国につれていくだなんて、自殺行為もはなはだしい。でも、陽菜ひなの願いも無碍にはしたくない。


「わかった。じゃあ一度、勇者ランゲと話させてもらえないか? 幻術師ゾーネ、君のスキル『通神』を使って」

「モチロン! いいわよ!!」


 『通神』は、幻術師ゾーネが懐中魔道士メカニカルウイッチのピゲから授けられたスキルだ。使い魔のカラスを介して、離れた相手とのコミュニケーションを可能にする(いわゆるイベント専用スキルに該当する)


 幻術師ゾーネは、地面に膝をつくと、目を閉じて静かに祈祷をはじめる。


「……………………む? …………むむ? 

 …………むむむむむむむむむむむむぅうう…………はぁはぁ!!」


 幻術師ゾーネは目を開けると、狼狽して声を絞り出した。


「に、兄様に繋がらない! なんで!?」

「! もしかしてだけどゾーネ、キミも反逆者の扱いを受けたんじゃないか?」

「ええ!?」

「試しに『通神』以外のスキルを使ってくれないか?」

「? 別にいいけど……それじゃあ『分身』!! え? あ、あれ?」


 やっぱりだ、なにも起こらない!!


「これで確信したよ。ゾーネ。キミが懐中魔道士メカニカルウイッチピゲから授かった能力は、クロノス王国に封印されている。こんな芸当ができるのは……大賢者マリーンくらいしかいない」

「マリーン様が!? なんで? なんで??」


 大賢者マリーンはクロノス王国で魔術の頂点に立つ人物で、陽菜ひなの両親とともに、懐中魔道士メカニカルウイッチピゲを作り出したクロノス王国の要人中の要人だ。


「そんなぁ……兄様……兄様……!」

「大丈夫だ。問題ないよ。こっちの世界にも、懐中魔道士メカニカルウイッチがあるから。陽菜ひな、管理者権限でゾーネがスキルを習得できるようにして」


 俺は、胸ポケットから懐中魔道士メカニカルウイッチをとりだす。懐中魔道士メカニカルウイッチは青白く光り、メイド姿でお団子頭のコンスタンタンが現れる。


「ご要件はなんでしょう?」

「ゾーネちゃんがスキルを使えるようにして!!」

「かしこまりました。ですが……」


 陽菜ひなの依頼に、コンスタンタンは戸惑いの表情を浮かべる。


「私と契約しますと、他の懐中魔道士メカニカルウイッチとの契約がリセットされますが、それでもよろしいですか?」

「大丈夫、問題ないわ!! 兄様を助けるためだもん!!」


 幻術師ゾーネは、迷わず返答をする。


「かしこまりました。幻術師ゾーネに使用権限を付与します」


 コンスタンタンが、メイド服の裾を持ってお辞儀をすると、懐中魔道士メカニカルウイッチの裏に刻まれた文様に新たな光が灯る。


「よし、これで『通神』が……ってあれ??」

「どうしたの流斗りゅうと

「ゾーネのスキルが完全にリセットされちゃってる」

「「ええー!!」」


 どうすりゃいいんだ? これ?


■次回予告

 アビリティポイントを貯め直さないと、スキル『通神』を習得できないことに気がつく流斗りゅうと

 アビリティポイントを貯めるために、幻術師ゾーネは番長と決闘することに!?

 次回 「さよなら番長」 ……キミは……刻のナミダをみる。


*次回タイトルは予告なく変更される場合がございます。

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