第12話 10年ぶりに再開した幼馴染、異世界の勇者と決闘する。

「なんだなんだ?」

ひのえさんを賭けて、流斗りゅうとと番長があのコスプレ野郎と決闘するんだってよ」

「決闘? 2対1で?」

「ああ、コスプレ野郎が承諾したらしい」

流斗りゅうとはともかく番長とケンカするなんて、あのコスプレ野郎大丈夫か?」


 野次馬たちが、俺達の決闘を遠巻きに眺めながら好き勝手なことを言っている。

 こっちの世界だと、コスプレをした変な人にしか見えないけれど、勇者ランゲは魔王を倒す実力者。当然のごとくめちゃくちゃ強い。まともにやり合ったらとてもじゃないけれど勝ち目はないだろう。


 俺は、胸ポケットから懐中魔道士メカニカルウイッチをとりだすと、竜頭をカリカリと巻く。


「御主人様、およびですか?」

「コンスタンタン、ロイヤルオークを出してくれ」

「かしこまりました」

「ほう。それが最新鋭の懐中魔道士メカニカルウイッチか。とは随分と出で立ちが異なるな」


 ピゲは『クロノスの聖女』に登場する懐中魔道士メカニカルウイッチだ。おだんご頭でメイド姿をした妹キャラなコンスタンタンとは対象的に、布面積が少ない服をまとっためっちゃナイスバディのおねーさんだ。

 でも違いはそれだけじゃない。コンスタンタンには、ついさっき習得したのスキルがある。


「こっちの準備は整った」

「でやんす」

「いざ尋常に勝負!」


 勇者ランゲは、腰に着けた聖剣ツァイトベルグをぬくと、持ち手をクルリと回転させる。

 

 よし! 予想通り!!


 勇者ランゲは、スキル『手加減』を使うつもりだ。『手加減』は峰打ちをすることで、敵を瀕死状態にして、途中参加のパーティーにとどめを刺させる経験値稼ぎ用のスキルだ。

 さすがの番長でも、クロノス王国最強の武器、双剣ツヴァイゲルトで切りつけられたら、命がいくつ合っても足らなくなる。


「勇者だかなんだか知らんでやんすが、俺様の必殺技を受けてみやがれ! 喰らえ、蒙古覇極道タイガータックル!!」

「ほう、見事な突進技だ。だが足元がお留守のようだな……」


 勇者ランゲは、体勢を低くして番長のスネを斬りつける。


 ボギィ!!

 脛骨が折れる鈍い音がする。だが、


「うおおお!!」


 番長は構わず勇者ランゲに肩からぶちかましを喰らわせる。


「な、なんだと!?」


 たまらず双剣でガードする勇者ランゲを確認しつつ、俺はすぐさま『回復』のスキルを番長にかける。


「畳み掛けるでやんす! 蒙古覇極道タイガータックル!!」

「なるほど、『ふんばる』と『回復』のコンボか。だが甘い。技を躱せばすむだけのこと」


 勇者ランゲは、番長の突進をバックステップで躱そうとする。

 今だ!! 


「いでよ、突風!!」


 俺はすかさずロイヤルオークを振りかざす。

 ロイヤルオークから発生した小さな竜巻は、ふらふらと蛇行して、俺達を囲む野次馬の中に突っ込む。


「「キャーーーーーーーー」」


 女子生徒のスカートがまくれて、白、ピンク、水色のストライプ、色とりどりの下着が百花繚乱に咲き乱れる。


「き、貴様! 淑女に対してなんと無礼な!!」


 目のやり場に困った勇者ランゲは、たまらず目をつむる。計画通り!! 勇者ランゲ、その騎士道精神が命取りだ!!


「今だ、コンスタンタン! 『パーティーアタック』だ!」

「かしこまりました」


 バキ! ゴスゥ!!


 コンスタンタンは番長の背中に現れると、肘打ちからの鉄山靠をぶちかます。

 番長の蒙古覇極道タイガータックルは、膝打ちで前かがみによろけつつも、鉄山靠で一気に加速して、隙だらけの勇者ランゲに強烈なスーパー頭突きをお見舞いした。


「ドスコーイ!」

「グハッ!!」


 勇者ランゲは番長の攻撃をモロに喰らって、白目を向きながら激しく吹っ飛んだ。

 俺は、勇者ランゲが手放した双剣を素早く奪い取ると、そのまま持ち主の首筋に当てる。勝負アリだ!!


 周囲側ざわめくなか、コンスタンタンが勇者ランゲの両腕を後ろ手で縛り上げる。

 俺はそれを確認すると、うつ伏せに突っ伏している番長に『回復』のスキルをかけて、つづけて勇者ランゲにも『回復』のスキルを使用した。


「約束だ。勇者ランゲ。陽菜ひなのことはあきらめて、クロノス王国に帰るんだ!」

「ああ、男に二言はない。こちらの世界のことはこちらで片付けるよう、国王に進言することにしよう」

「あの、ランゲ、聞きたいことがあるんだけれど」

「なんだい、ヒーナ?」


 陽菜ひなが勇者ランゲに質問をする。その評定は真剣そのものだ。


「アタシのパパとママは、クロノス王国でどうなってるの?」

「ヒーナ、キミの父上と母上は、宮殿に軟禁状態だ。聖女を逃がした疑いでね」


 陽菜ひなの質問に、勇者ランゲは気まずそうに返答する。


「そっか……ごめんなさい、パパ、ママ」

「その件についても国王に進言するよ。君たち家族は、この世界で暮らすべきだ」

「ありがとう、ランゲ」

「では、私はクロノス王国へ帰るとしよう」


 勇者ランゲは、時空のはざまをつくりだす。


流斗りゅうとといったか、聖剣ツァイトベルグは、君に託す」

「え? いいの?」

「私を破った豪傑に、報奨を与えぬわけにはいかないだろう? さあ、受け取ってくれ」

「あ、ああ」

「では、さらばだ」


 勇者ランゲが時空のはざまに入ると、空間はゆっくりと閉じていった。

 やれやれ、これで、全て丸く収まった。


 ・

 ・

 ・


 そう、思っていた。


■次回予告

 これで平穏な毎日が訪れると思ったのもつかの間、勇者ランゲの妹、幻術師ゾーネが現れて、とんでもないことを言い放つ! ……お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る