第11話 10年ぶりに再会した幼馴染、勇者の決闘を受ける。

「もう、流斗りゅうとたら、ふざけないでよ!」


 陽菜ひなは、顔を真赤にしながら、スカートの裾をなおす。


「ごめんごめん」


 ふざけているつもりは全くなかったんだけどな。俺は、コンスタンタンにロイヤルオークを収納してもらっていると、


 ピロリロリン♪

『アビリティポイントを獲得しました。習得するスキルを選択してください』


 突然、脳天気な音楽とメッセージが脳内に流れ出した。


「え? なんで?」


 まったくもって不可思議なタイミングに、俺は思わず声をあげる。


「どうしたの、流斗りゅうと

「アニキ、何事でやんすか?」

「い、いや、なんでもないよ」


 ひょっとして、陽菜ひなのパンチラがイベント扱いだったのかな?

 俺は懐中魔道士メカニカルウイッチの裏を確認する。


「あ! 番長のスキルが追加されている!!」

「ほんとでやんすか!?」

「ほら、ここ。蒙古覇極道タイガータックルに派生スキルが生えている」

「スゴイじゃない、カシオ!!」


 俺は番長の派生スキルを確認する。

 え? これって、めっちゃ強いんじゃ……俺は迷わず、蒙古覇極道タイガータックルの派生スキルのうちのひとつ、『ふんばる』を獲得する。


「なんすか? それ?」

「技モーション中にどんなにダメージを喰らっても、技がキャンセルされないんだ」

「?? もう少しわかりやすく頼みやす」

「つまり、敵からの攻撃を我慢すれば、蒙古覇極道タイガータックルが絶対当たるってこと」

「なるほど!! そいつは強力でやんす!!」

「俺が習得した『回復』と併用すれば、ほぼ確実に攻撃を当てることができるはずだよ!」


 やれやれ、陽菜ひなのパンチラのお陰で、最低限の迎撃体勢は整った。あとは念の為この共通スキルを獲得してっと。


 キーンコーンカーンコーン……


 下校のチャイムが鳴る。俺達は教室に置いていた通学カバンを持って、校門に向かうと女子の人だかりが出来ている。


「見て、あの人、めちゃくちゃカッコいいい!!」

「でも、なんであんな格好してるのかしら?」

「確かあれって『クロノスの聖女』の登場キャラクターのコスプレよね」


 コスプレ?? 猛烈に悪い予感がする。


「おお! ヒーナ!! 探したよ! 我らが希望の光!!」


 この芝居じみた言い回し、間違いない!

 声の主は黒山の人だかりを抜け出して、俺達の前に姿を表す。

 その人物に、陽菜ひなは仏頂面で話しかけた。


「ひさしぶりねランゲ」

「おお、ヒーナ! 異世界の出で立ちも、とても似合っているじゃないか」


 キラーン!


 その男は、陽菜ひなの慇懃無礼な挨拶を、爽やかな笑顔と白く輝く歯で華麗に受け流す。

 長い金髪を首の後ろで縛り、いかにもファンタジーなコスチュームと、両の腰に携えた双剣。幻術師ゾーネの兄で東の勇者サクソニアのリーダのランゲだ。

 まさか、こんな早くに現れるなんて!


「ランゲ、あなたもアタシをクロノス王国に連れ戻しに来たの?」

「連れ戻す? 何を言ってるんだい?? クロノス王国こそ、キミが生きるべき世界じゃないか」


 ランゲの言葉に、陽菜ひなは激しく拒絶する。


「イヤよ!! ランゲも「精霊の儀」を真相を知っているでしょう。あの儀式は不死の呪い! 自我をなくしたまま生き続けるなんて、アタシには耐えられない」

「……………………………………」


 勇者ランゲは、陽菜ひなの言葉にしばし沈黙する、そして重い口をひらいた。


「ヒーナ、キミの背負ってしまった過酷な運命には同情をするよ。だが、キミが精霊となり魔王ヴァシュロンの封印を監視しない限り、クロノス王国には平穏は訪れない。100万の民草の命とは、とてもじゃないが天秤には掛けられない」

「そ、それは……」


 俺はハッとする。


 そうか、クロノス王国はゲームの世界なんかじゃない。陽菜ひなが10年間過ごしたクロノス王国には、実際に沢山の人がいて生活を営んでる。


「100万人の平穏か、ひとりの犠牲か。つまりはトロッコ問題ってやつか?」


 俺は苦虫を噛みしめるようにつぶやく。


「トロッコ問題? ああ、君たちの国では「竜のジレンマ」を、そう呼んでいるのか。なら話は早い。竜に生贄を捧げて平穏をもたらすのと、生贄を逃がして村が滅ぶ。どちらが懸命な判断か、考えるまでもないだろう」

「そうだな、考えるまでもないよ! 陽菜ひなは渡さない! 勇者ランゲ、お前に決闘を申し込む!!」

「いいだろう!」

「ただし、こっちは俺と番長、2対1で戦わせてもらう! 世界を救った勇者が、これくらいのハンデで文句を言わないよな!」

「もちろんだ。2人でも10人でも一向に構わん!!」


 しめた。うまいこと挑発に乗ってくれた。ゲーム『クロノスの聖女』に登場する勇者ランゲは騎士道精神の塊だ。


「決闘の場所は?」

「ここで構わない」

「承知した! では準備ができたらいつでも声を掛けるがいい」


 勇者ランゲは校庭の中央に陣取ると目を閉じる。きっと精神集中をしているんだろう。(全パラメータ10%アップの効果)


 まさか、こんなに早く勇者ランゲが現れるとは思わなかった。だけど好都合だ。このは、考える限り最強の立地だ。


 俺は、番長に手短に作戦を伝える。


「わかったっす。当たって砕けろでやんすね!!」

「いや、砕けられると困るんだけど」

流斗りゅうと、カシオ……大丈夫?」


 陽菜ひなが不安そうに俺達を見つめる。


「大丈夫だ。問題ないよ」

「あたって砕けるでやんす!」

「だから、砕けられると困るんだけど!!」

「あはは!」


 俺と番長の天丼なやりとりに、陽菜ひなは笑顔を見せる。


「じゃ、行ってくる!!」

「でやんす!!」


 勇者ランゲの言い分は充分に理解できる。でも、陽菜ひなはこっちの世界の住人だ。異世界の人間を勝手に召喚して、勝手に生贄にするなんて、虫が良すぎるんじゃないのか!?


 大丈夫だ。俺は間違っていない! 陽菜ひなはこっちの世界の住人だ!!

 俺と番長は、互いに拳をぶつけると、ランゲの待つ校庭の中央へと向った。


■次回予告

 圧倒的強者、勇者ランゲに対して、流斗りゅうとと番長が、ゲームで得た知識チートで立ち向かう! 果たして勝敗は!?


 次回、「番長の最後!?」 デュエルスタンバイ!!

 *タイトルは予告なく変更される場合があります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る