第10話 10年ぶりに再会した幼馴染、スカートをめくられる。

 ふぁああ! よく寝た。

 俺は机に置いてある時計を見る。まだ7時前なんだ。普段、母さんに怒鳴られながら起きている俺にとっては、奇跡的な目覚めの良さだ。


 これも、懐中魔道士メカニカルウイッチのアビリティ『睡眠抵抗』の効果だろうか。睡眠の質が上がったような気がする。


 俺は、横で寝息を立てる陽菜ひなに目を落とす。

 薄手のトレーナーから、すらりと伸びた両足が艶めかしい。


「ん……」


 陽菜ひなが寝返りをうつと、トレーナーがずれあがる。もう少しで下着が見えてしまいそうだ。

 俺は、吸い込まれるようにトレーナーの裾をつまむ。あとほんの数センチめくりあげるだけで、パンツが丸見えのモロ見えだ。


 って、ダメだダメだ! そんなことしちゃ。陽菜ひなの気持ちを考えろ。

 俺はしばし葛藤していると、


「ねえ、なにやってるの??」


 ギクゥ!! バ、バレた!


「そ、その、トレーナーがめくれてたから、直してあげようと……」

「うそ! さっきからずっと固まったままじゃない!」


 え? どういうこと??


「せっかく寝たふりをして襲われるのを待ってたのに……もう、流斗りゅうとのいくじなし!!」

陽菜ひな、起きてたのかよ!!」


 陽菜ひなはイタズラっぽく舌を出す。


「さ、これから着替えるから。恥ずかしいから出てって出てって!」


 陽菜ひなは、俺の背中をぐいぐいと押して部屋の外へと締め出す。寝てるところを見られるのはいいのに、着替えを見られるのは恥ずかしいのか。乙女心……さっぱりわからん。


「行ってきます」

「行ってきまーす」

「はーい。いってらっしゃい」


 俺と陽菜ひなは母さんに見送られて登校する。歩くこと数分、ほどなく番長と合流する。


「おはようございます! アニキ、ヒーナ!!」

「大丈夫でやんしたか! クロノス王国の死角に狙われやしないかと、ハラハラしてやした」

「ヘーキだよ。流斗りゅうとが一緒に添い寝してくれたし」

「お、おい陽菜ひな!!」

「そうでやんすか! 紳士のアニキが側にいてくれたら安心でやんすね」

「うん。ちょっとヘタレだけどね!!」


 コラ陽菜ひな! 余計なこと言うなよ!!


「そ、そうだ、陽菜ひな、番長。放課後、付き合ってくれないか? クロノス王国の刺客に対抗するための作戦会議がしたい」

「モチロンでさぁ!! この樫尾かしお耐河たいが、アニキとヒーナの為なら、たとえ日の中水の中!!」

「ありがと! カシオ」

「助かるよ、番長」


 放課後、俺たちは屋上にあつまる。まずは状況整理からだ。


「普通に考えたら、俺たちの方が圧倒的に不利だ。でも、昨日、刺客として襲ってきたのが幻術師ゾーネってことを考えると、俺たちにも戦いようがある」

「どう言うことでやんすか?」

「多分だけど、聖女ヒーナが逃亡した事実は、クロノス王国全土には知れ渡っていないはずだ。知っているのは、王様の側近、そして幻術師ゾーネの兄、勇者ランゲ率いる東の勇者サクソニアのメンバーくらいじゃないかな?」


 俺の推理に陽菜ひながうなずく。


「うん。そうだと思う。「精霊の儀」の真実を知るのは、ほんの一握りの人だけなはずだよ」

陽菜ひなが異世界に逃げたことはできる限り秘匿したい。クロノス王国から大挙して敵が押し寄せることはないはずだ」

「なるほどでやんすね!!」

「そうなると、クロノス王国の王様が使える手駒はほんの僅か。でもって、その人たちの能力は、ゲーム『クロノスの聖女』をクリアした俺が把握している。さらに、今、陽菜ひながこっちにいるってことは、東の勇者サクソニアのメンバーは、懐中魔道士メカニカルウイッチで新しいアビリティを獲得できない。それにくらべ、俺たちはアビリティを習得し放題ってわけ」


 俺はそこまで一気に話すと、陽菜ひな懐中魔道士メカニカルウイッチを手渡す。


懐中魔道士メカニカルウイッチでアビリティを獲得できるのは、陽菜ひなに認められた人物だけだ。だからさ、陽菜ひな懐中魔道士メカニカルウイッチとして、番長にも使用許可を与えてくれないかな?」

「モチロンいいわよ!!」


 陽菜ひなは、懐中魔道士メカニカルウイッチの上部にある竜頭りゅうずをカリカリと巻くと、青白く輝く光の中からお団子頭でメイド姿の少女が現れる。懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタンだ。


陽菜ひな様、ご用件を申し付けてください」

「そこにいるカシオを、使用者に登録したいの。お願いできる?」

「かしこまりました」


 コンスタンタンは、スカートのすそを持って、うやうやしくお礼をすると、番長の体が青白く光る。


「おお。なんだか力が湧いてくるっす!!」

「よし成功だな。今度は、幻術師ゾーネから奪った、ロイヤルオークを使ってみよう。コンスタンタン、ロイヤルオークをここに」

「かしこまりました」


 パチン!


 コンスタンタンが指を鳴らすと、頭上に時空のはざまが浮かび上がり、クロノス王国最強の杖、ロイヤルオークが出現する。


「ロイヤルオークは、道具で使うと風を操ることができるんだ。それ!!」


 ロイヤルオークを振り上げると、小さな竜巻が巻き起こる。

 竜巻はふらふらと蛇行して、思うように操作ができない。

 あ、あれ? 結構、扱いが難しいな。


 竜巻はそのまま陽菜ひなのもとへと蛇行していく、そして


「キャア!」


 陽菜ひなのスカートがめくりあがって、純白のパンティーが丸見えのモロ見えになった。


流斗りゅうと、何するのよ!! もう最低!!」

「俺様、アニキのこと見損なったでやんす」

「ご、ごめん!! ワザとじゃない、ワザとじゃないんだ!!」


 俺は、必死に言い訳をする。

 陽菜ひなのヤツ、朝のベッドでは寝たふりをしてトレーナーの裾をめくられるのを待ってたってのに……俺は複雑な乙女心に困惑しきりだった。


■次回予告

 引き続き、刺客対策を続ける流斗りゅうとたち。今のところ、陽菜ひなのスカートをめくっただけだぞ! こんな調子で大丈夫か?


 ……お楽しみに!

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