第7話 10年ぶりに再会した幼馴染、幻術師に狙われる。

「んふ♪ 成功成功。みーんな眠ってる。ゾーネちゃんにかかれば楽勝ね♪」

「カーカー!」


 なんだなんだ? なんで『クロノスの聖女』の登場人物が教室にやってきたんだ?

 俺は気づかれないように、すばやく寝たふりをする。


 幻術師ゾーネは、ゆうゆうと時空のはざまをまたぎ、異世界への第一歩を踏み出す。


 が、一歩目に選んだ場所が悪かった。幻術士ゾーネは、猿滑さるすべり先生のツルンツルンの頭頂部で、つるんと滑って教団の前で尻餅をつく。


 「んきゃん!!」


 ミニ丈の魔女っ子服から、紫と白のストライプの可愛らしいパンツが丸見えのモロ見えだ。


「いったーい」

「カーカー!」

 

 幻術士ゾーネのひとりコントに、思わず吹き出しそうになってしまうのを、必死で我慢する。

 魔術師ゾーネは、ならの木の杖を両手で持ってヨロヨロと立ち上がると、陽菜ひなの元へツカツカと歩み寄り、とんでも無いことを言い放つ。


「まったく、世話の焼ける聖女様よね。『封印の儀』の直前に逃げ出すなんて、何考えてんのかしら?」


 ええ!? 俺は心臓が口から飛び出しそうになる。


 『封印の儀』は、物語のクライマックスのイベントだ。魔法ヴァシュロンを永久封印するために、聖女ヒーナがその身を捧げて精霊に姿を変える。その切なくも美しい結末に、昨日、徹夜でプレイして感動のあまり大泣きをしたんだ。


 ひょっとして……ゲーム『クロノスの聖女』と、陽菜ひながいたクロノス王国で、ストーリーの結末が違う!?!?


 俺が動揺しているあいだも、幻術師ゾーネは爆睡する陽菜ひなをおんぶして、黒板にできた時空のはざまに連れ去ろうとする。


「ぐ、聖女様、結構、重いわね……。胸に余計な脂肪がついてるからよ」


 そういや、幻術師ゾーネって、聖女ヒーナの豊満なバストに嫉妬している設定だったな。どうやら、ゲームと異世界では物語の結末は違うけれども、エンディング直前までのストーリーや、登場キャラクターの設定とかには大きな差異はないらしい。


 なら、対抗手段はある!!


 俺は、寝たふりをしながら、ブレザーの内ポケットから、懐中魔道士メカニカルウイッチをとりだすと、静かに竜頭りゅうず(時計のゼンマイを巻くつまみ)を回す。


 カリカリカリ……カリカリカリ……カリカリカリ。


 ゼンマイを巻くと、懐中魔道士メカニカルウイッチは青白く光り、光の中からお団子頭でメイド姿の小さな女の子、コンスタンタンが現れる。


「おはようございますご主人様。ご用件をお申し付けください」

「(ひそひそ)陽菜ひなが、クロノス王国に連れ戻されそうなんだ。どうにかして幻術士ゾーネをやっつけたい」

「承知しました。ですが、幻術士ゾーネは、魔王ヴァシュロンを封印した東の勇者サクソニアの一員です。一筋なわではいきませんよ」

「(ひそひそ)俺に作戦がある。俺が囮になるから……………………………………」

「……かしこまりました」


 よし! 作戦は整った。

 おれは息を潜めて、陽菜ひなをおんぶした幻術士ゾーネが、俺の前を横切るのを待つ。


 今だ!


「幻術士ゾーネ! 陽菜ひなを離せ!!」


 俺は、幻術士ゾーネにタックルを仕掛けにいく。


「キャ、なに??」


 幻術士ゾーネは俺のタックルを間一髪で交わすと、ならの杖を振り上げる。 

 計画通り……!!


「今だ、コンスタンタン!!」

「かしこまりました」


 コンスタンタンは、目にも止まらぬ早業で、杖をふりあげ隙だらけとなった魔術師ゾーネのみぞおちに、肘打ちをクリーンヒットさせる。


「うう……」


 魔術師ゾーネが前屈みになった刹那。俺はすぐさま彼女の武器のならの杖をとりあげる。


「しまった!!」

「観念しろ、魔術師ゾーネ! 伝説の杖『ロイヤルオーク』の威力は、キミが一番知ってるだろう?」


 幻術士ゾーネ最強の武器、『ロイヤルオーク』は、装備すると魔力が爆発的に上昇する。そして魔力を持たない普通の人間でも、道具としてつかうことで、誰もが巨大な竜巻から、鋭利なかまいたちまで、自在に風を操ることが可能なマジックアイテムだ。


「自分の武器で切り刻まれるのはいやだろう? 悪いことは言わない、陽菜ひなを置いてとっととクロノス王国に帰るんだ!!」

「う、うわーん!! お兄様に言い付けるんだからー!!」

「カーカー!!」


 幻術士ゾーネは、おんぶをしていた陽菜ひなをつきとばすと、泣きべそをかきながら黒板に空いた時空のはざまへと去っていった。


陽菜ひな!! 大丈夫か!?」


 俺は倒れた陽菜ひなを抱き抱えると、今頃になって足がガクガクと震え始めた。我ながら、とんでもない無茶をしたもんだ。


 ……ざわざわ。


 とたんに、教室が騒がしくなる。幻術師ゾーネの催眠術が切れたのか。

 クラスメイトたちの視線は、俺たちに集中している。無理もない、俺は教室のど真ん中で、陽菜ひなを抱きかかえているんだもの。


「ほっほっほ。授業の真っ最中だというのに、お盛んじゃのう! 若いとは素晴らしい!」

「よ! ご両人!!」

「大胆だなー」

「見せつけてくれるぜ!!」


 なんだか勘違いをしている猿滑さるすべり先生と生徒たちにからかわれて、俺と陽菜ひなは大急ぎで自分の席に戻った。


■次回予告

 陽菜ひなは、『封印の儀』の直前に、クロノス王国から逃亡を測っていた。陽菜ひなを護るため、流斗りゅうとが取った行動は……お楽しみに!


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