第8話 10年ぶりに再会した幼馴染、戻ってきた本当の理由を告白する。

 キーンコーンカーンコーン……。


 終礼のチャイムがなる。

 幻術師ゾーネの襲撃のあと、俺はヒヤヒヤしながら午後の授業を受けていた。


流斗りゅうと一緒に帰ろ♪」

陽菜ひなが笑顔で左腕にだきついてくる」

「なあ、このあと陽菜ひなの家に寄っていきたいんだけど、いいかな? 陽菜ひなをひとりにしたくないんだ」

「えええ!? それってアタシの家にお泊まりするってこと!? 流斗りゅうとって大胆!!」

「い、いやそういう意味じゃなくって!!」


 ……ざわざわ


流斗りゅうとのヤツ、ひのえさんの家にお泊まりだってよ!!」

「ウラヤマ!!」

「くー、見せつけてくれるぜ!!」


 陽菜ひなが大声を出すもんだから、あっという間に誤解が広がっていく。


「ほ、ほら、陽菜ひな行くぞ!」

「はーい♪」


 俺は逃げるように教室を飛び出した。


 ・

 ・

 ・


「せっかく、流斗りゅうととふたりっきりになれると思ったのに、なんでカシオもついてくるのよ」


 ヒナは、高層マンションのエントランスでカードキーを出しながら、ぽっぺたをぷっくりとさせている。


「お、俺様は、アニキに呼び出しを受けただけっす!!」

「ええ!? じゃあひょっとして……いや~ん! アタシ、そんな趣味ないんだけど?」


 陽菜ひなの顔がみるみる赤くなる。


「な、何考えてるんだよ!! そんなんじゃない。陽菜ひな、そしてカシオに相談したいことがあるんだ」

「相談??」


 陽菜ひなは首を傾げながら、エレベーターの最上階のボタンを押す。


 ポーン


 ほどなくして、エレベーターは最上階に到着した。陽菜ひなは、玄関にカードキーを当ててドアをあける。

 広々としたリビングは、家具もカーテンすらもなく、中央にほんの少量の荷物と寝袋がおいているだけだ。とても、年頃の女の子が住んでいる家には思えない。


「何突っ立ってんのよ。ほら、流斗りゅうともカシオも座って座って。で、なに? 相談って」

「ああ。陽菜ひな、今日の午後の授業でヘンなことがあったろ?」

「変なこと? ああ、アタシと流斗りゅうとが、教室で抱き合っていたこと?」

「な! アニキとヒーナ、そんな大胆な事をしたんでやんすか!?」

「そうなの。流斗りゅうとって、大胆よね♥」


 しまった。完全に説明の手順をまちがえた。このままでは、番長にまた果し状を突きつけられてしまう。 

 俺は、改めて時系列を追って説明する。


「ええ!? ゾーネちゃんが、アタシをクロノス王国に連れ戻しに!?」

「そう。教室にいる全員に催眠術をかけてね。俺は懐中魔道士メカニカルウイッチのアビリティで『睡眠耐性』を習得してたから、偶然、難を逃れたんだ」

「ちょっとちょっと、アニキ、ヒーナ、俺様には何が何やらさっぱりでやんす。一体誰です? その幻術師ゾーネって女は!」


 そっか、番長は物語序盤で時空のはざまに吸い込まれたから、ゾーネのことは知らないのか。彼女が仲間になるのって物語中盤だもんな。


「アタシも、ちょっと引っかかることがあるの、流斗りゅうと、なんでゾーネちゃんのこと知ってるの? アタシ、流斗りゅうとに話した記憶ないんだけど」

「それなんだけど……実は俺、クロノス王国のことについては、かなり詳しいんだ。少なくとも番長よりは、圧倒的に詳しいはずだよ」

「?? どういうことでやんす?」


 口で説明するより、自分の目で、直接確認してもらったほうがいいだろう。俺はスマホを取り出して『クロノスの聖女』を検索すると、一番先頭に表示されたゲームパッケージをふたりに見せる。


「ホラ、これが証拠さ」

「アタシがいる!! ゾーネちゃんも!!」

「俺様は……いないでやんすね」

「実は、陽菜ひながクロノス王国で体験したであろう出来事は、この『クロノスの聖女』ってゲームソフトで、遊ぶことができるんだ」

「なにそれ? それってプライバシーの侵害じゃない!? 失礼しちゃうわ!!」


 リアクションとるとこそこなんだ。


 でもまあ、『クロノスの聖女』って、水着イベントとかシャワーシーンのイベントとか、サービスシーンがめっちゃあったし、視点をうまく調整すれば、スカートの中とか覗けちゃうもんな。陽菜ひなの怒りはあながち間違いでもないかもしれない。

 っと、脱線している場合じゃない! 本題本題っと。


「で、このゲームのエンディングなんだけどさ、陽菜ひなから聞いた話と、ひとつだけ大きく異なる部分があるんだ。ゲームの『クロノスの聖女』では、聖女ヒーナは、魔王ヴァシュロンを永遠に封印するために、精霊……不老不死の存在に転生するんだ」

「!!!!!!」


 俺は、動揺する陽菜ひなを見逃さない。


陽菜ひな、本当はクロノス王国から逃げてきたんじゃないのか? 精霊になるのを拒んで」

「そうなんでやんすか? ヒーナ!!」

「…………………………」


 陽菜ひなは答えない。でも、表情を観れば一目瞭然だ。


「図星のようだな。どうして、そんなことを?」

(……………に……………だもん)

「? なに??」


 なんだ? なんだ?? 陽菜ひなの声が小さすぎて聞き取れない。


「だって! 流斗りゅうとに会いたかったんだもん!!」

陽菜ひな?」

「精霊になったら、二度と人間に戻れない!! 二度と流斗りゅうとに出会えない! アタシ、頑張ったんだよ!! たっくさん辛いことがあったけど、ゾーネちゃんたちと一緒に本当に頑張ったんだよ!! 魔王ヴァシュロンを倒せば、家族揃ってもとの世界に戻れるって!! なのに……なのに……アタシとパパとママは、クロノス王国の王様に騙されたの!!」


 陽菜ひなは声を張り上げた。大粒の涙をながして。


■次回予告

 陽菜ひなが、異世界から戻ってきた本当の理由を聞いた流斗りゅうと陽菜ひなを連れ戻そうと画策するクロノス王国の刺客から彼女を護るために、流斗りゅうとがある提案をもちかけて……お楽しみに!


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