第6話 10年ぶりに再会した幼馴染、爆睡をする。

「それじゃあ、母さん、行ってきます」

「行ってきますー」

「はーい、行ってらっしゃい」


 玄関で靴を履くと、陽菜ひながすばやく左腕にからみついてくる。


「まあまあ、仲がいいこと。あの頃といっしょねー」


 母さんはニコニコしている。俺達もう高校生なんだけれどな。


「アタシ、明日から毎日迎えに来るからね」

「どうせ、朝ご飯目的なんだろ」

「えへへ、バレたか」


 陽菜ひなは、イタズラっ子ぽく舌をだす。

 ぐっ……あざとい、でもカワイイ。


「あ、そういえば流斗りゅうと覚えてる? この公園でさ……」


 俺達は他愛のない昔話をしながら、学校へと向かう。

 学校付近まで来ると、校門に黒山のひとだかりができていた。

 俺はクラスメイトに質問する。


「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、番長が校門の前で座り込みをしてるんだ。お前に用があるみたいだぞ」

「はぁ?」


 人混みの影から校門を覗き込む。本当だ。なにやってるんだろ?

 俺は、人混みをかき分け番長のもとにいく。


壬生みぶさん、ヒーナ、お待ちしておりやした!! お荷物お持ちしやす!」


 ??? なんだなんだ??


「先日の決闘で痛感いたしやした。懐中魔道士メカニカルウイッチに選ばれた貴方様は、この世界を救う勇者でさあ。そんな偉大なお方に一瞬でも歯向かった俺様が愚かでした。これからは、壬生みぶさん、いや、アニキとよばせてくだせえ!! この樫尾かしお耐河たいが、アニキとヒーナに一生ついていきやす!!」


 ??? なんだなんだなんだ??

 番長のヤツ、昨日、壁に激突したとき頭でもうったのかな?


「それでは、アニキ、ヒーナ、お荷物を!!」

「え? ああ……」

「ありがとー、カシオ♪」


 番長は、俺と陽菜ひなのカバンを受け取ると、俺達の3歩あとをついてくる。


「(ひそひそ)なんだあいつ? 番長を従えてるぞ??」

「(ひそひそ)絶世の美少女の転校初日に告白されて、その日のうちに番長を子分にするなんて、めちゃくちゃすごいな!」

「(ひそひそ)なんでこいつ、今までまったく目立たなかったんだ?」

「(ひそひそ)さあ……」


 周囲の目は、畏怖と困惑と混乱と好奇が渾然一体となっていて、なんというか、めっちゃ居心地が悪い。ああ、一昨日までの平々凡々な毎日が懐かしい。


 ・

 ・

 ・


 キーンコーンカーンコーン……


「アニキ、お昼行きやしょう!!」


 チャイムがなるなり、番長が俺と陽菜ひなのクラスにすっとんでくる。

 お昼休みくらいは、陽菜ひなとふたりっきりでいたいんだけどな……口もとまで出かかった本音をぐっと飲み込んで、学食に行く。

 俺はいつもの日替わり定食。陽菜ひなは昨日と同じきつねうどん。番長は、めっちゃでっかい日の丸弁当だ。


 俺達はお昼をもぐもぐと食べながら、2年前、異世界から転移してきた番長の身の上を聞く。


「もぐもぐ。そっかー、カシオもたいへんだったんだね。もぐもぐ。」

「もぐもぐ。気がついたら全く知らない土地に飛ばされて、俺様も一時はどうなることかと思いやした。もぐもぐ。今は住み込みで土木工事員として働かせてもらいつつ、学校にまでかよさせてもらって、俺様は幸せものっす。もぐもぐ」

「もぐもぐ。不便はなかったのか? 言葉とか食べ物とかさ? もぐもぐ。」

「いや、それは一切。日本語はほとんどクロノス語と一緒ですし。それにこっちの白米はサイコーっす。もぐもぐ。これさえあれば、俺様はおかずなんていりやせん!!」


 そうなのか……クロノス王国ってめっちゃ中世ファンタジーっぽい世界なのにな。ってか、なんで日本語が通じるんだろう。

 その後は中庭にうつって、クロノス王国での陽菜ひなと番長の思い出話を聞いてお昼休みをすごした。


 ・

 ・

 ・


「はるは~あけぼのぅ~~~~」


 ふわあぁ眠い。昼飯のあとって、ってなんでこんなに眠いんだろうな。御年59歳の、古文の猿滑さるすべり先生の間延びした声を聞くとなおさらだ。

 俺は、斜め後ろに座る陽菜ひなを見る。陽菜ひなは机に突っ伏して、スヤスヤと心地よさそうに爆睡をしていた。


 おいおい。まあ、猿滑さるすべり先生は生徒が寝てようが一切注意しないからいいけどさ。中間試験で泣きをみてもしらないぞ。でもまあ、わからんでもない。猿滑サルスベリ先生の朗読は、生徒たちに『ラリホーマ』って言われているくらいだもの。


 あれ? そういえば、猿滑さるすべり先生の声が聞こえないな。俺は教壇を見る。そこには、教壇につっぷして爆睡をしている先生がいた。


 おいおい、先生まで爆睡してんのかよ!!


 俺は周囲を見る。陽菜ひなや先生だけじゃない! 俺以外、クラス全員が眠りに落ちている。


 え? ええ!? どうゆうこと??


 ギュイイイイイイイーーーン


 突然、猿滑さるすべり先生の後ろにある黒板にポッカリと穴が開く。そこから漆黒のカラスをたずさえ、ならの木の杖と魔女の衣装に身を包んだ、中学生くらいのツリ目で金髪ツインテールが似合う可愛らしい女の子が現れる。


「んふ♪ 成功成功。みーんな眠ってる。ゾーネちゃんにかかれば楽勝ね♪」

「カーカー!」


 『クロノスの聖女』に登場するメインパーティキャラのひとり、幻術師ゾーネだった。


■次回予告

 時空のはざまから突然現れた『クロノスの聖女』の登場人物、幻術師ゾーネ。彼女が異世界から来た目的ははたして……お楽しみに!?

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