第5話 10年ぶりに再会した幼馴染、朝ごはんを食べる。

「ただいまー」


 返事はない。両親は共働きだからだ。

 父さんはゲームプログラマーで、母さんは3Dデザイナー。職業柄、帰ってくるのも遅めだ。


 俺は自分の部屋に入るとベットに寝転がって、陽菜ひなからゆずり受けた懐中魔道士メカニカルウイッチをまじまじと眺める。


 見た目は、普通の懐中時計なんだけど、裏面には、迷路のような複雑な紋様が刻まれていて、中央付近に、2つの宝石がキラキラと輝いている。

 『クロノスの聖女』に登場する、アビリティシステムに使用する紋様だ。

 2つの宝石は、さっき習得した懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタンの召喚能力と、番長と戦ったときに習得した『回復』のスキルだ。


 陽菜ひなのやつ、まさか本当にクロノス王国からやってきたのか?? (ついでに番長も)


 ポーン


 通知音とともにスマホが震えると、スマホにチャットが表示される。


 『今日も遅くなります。今週はずっとおそくなるかも』


 母さんからのチャットだ。

 しゃーない。なんか適当に晩御飯を用意しとくか。


 両親の帰りが遅い時は、俺が晩御飯を作っている。中学生のころからの習慣だ。もっとも、そんな凝った料理はできないから、冷蔵庫にある材料で適当に作っているだけだけれども。


「今週は、ずっと忙しいみたいだし、カレーでも作るかな」


 俺はキッチンの引き出しから圧力鍋を取り出すと、手早く豚肉と野菜を切って圧力鍋に放り込む。圧力鍋なら、風呂に入っている間に十分に火が通る。

 風呂から出て、ルーを溶かせば3日分のカレーの完成だ。


 俺は手早くカレーを食べると、すぐに自分の部屋へとトンボ返りをして、ベットにつっぷした。


 ……めっちゃ疲れた


 そりゃそうだ。クロノス王国から帰ってきたと言い張る陽菜ひなと10年ぶりに再会をして、告白をされて同じくクロノス王国出身の番長と決闘してとんでもなく濃厚な1日だった。

 しかも『クロノスの魔女』を夢中で遊んでたから完徹状態だ。


 俺は目を閉じると、気絶するように眠りについた。


 ・

 ・

 ・


 夢を見ていた。子供の頃の夢だ。


 俺は、子供にもどっていた。7歳の頃だ。7歳の俺は、河川敷を歩いていた。

 女の子と手をつないでいた。おとなりに住んでいる陽菜ひなだ。


 俺は陽菜ひなが大好きだ。だから今日、告白をするんだ。大人になったら結婚しよう……って。


 今日は、陽菜ひなの誕生日だ。だからプレゼントを持ってきた。指輪だ。指輪型のキャンディ。あと、陽菜ひなが大好きなフレンチブルドッグがプリントされたハンカチ。


 俺は、両親にばれないように、その二つを、陽菜ひなが好きなオレンジ色の折り紙で、ていねいにラッピングした。


 俺は、シロツメクサの咲き乱れる河川敷の土手で、陽菜ひなにプレゼントを手渡した。そしてキスをした。将来を誓い合ってキスをした。


 陽菜ひなのやわらかい唇が、俺の唇と重なる。陽菜ひなの唇はとってもやわらかかった。

 ん? これ、夢だよな?? にしては、唇の感触が、妙にリアルな気が……。


 ・

 ・

 ・


 俺はゆっくりと目を覚ます。


「ん? うむう!?」


 目の前に陽菜ひなの顔がある。そして俺の唇は、陽菜ひなの唇とばっちり重なっていた。

 俺が目覚めたことに気がついた陽菜ひなは、ゆっくりと唇をはなす。


「な、何やってんだよ陽菜ひな!」

「なにって、モーニングコールじゃない。流斗りゅうとのお母さんに頼まれたの」

「モ、モーニングコールって、他の起こし方があるだろ!」

「あら? アタシとのキスが不満??」

「そんなことはないけど……」


 不満なんて有ろう筈はない。こんな絶世な美少女とのキスなんて嬉しいに決まってる! でも不意打ちだなんて心臓に悪すぎる。


 1階から母さんの声が聞こえる。


流斗りゅうと起きた? せっかく陽菜ひなちゃんが迎えにきてくれたんだから、早く起きなさい!!」


 そりゃ家族ぐるみでの付き合いだったんだもんな。母さんが陽菜ひなのことを無警戒で家にあげるもの当然だ。

 俺は制服に着替えると、陽菜ひなと一緒にダイニングへ向かう。

 そこには、2人前のごはんと味噌汁、そしてハムエッグが並んでいた。

 ん? 父さん、昨日は会社に泊まりだって言ってたよな……。


「ほらほら、陽菜ひなちゃん、流斗りゅうとと一緒に朝ごはん食べてって」

「わぁ! ありがとうございます!! いただきまーす♪」


 陽菜ひなは、お味噌汁をすすると、お茶碗を持って、おぼつかない持ち方の箸でお米を口に運ぶ。


「おいしい♪ やっぱりお米とお味噌汁って最高♪ あっちの国じゃあ、食べられなかったし」


 まさか陽菜ひなのヤツ、母さんにクロノス王国から来たなんて言ってないよな。

 俺は母さんを見る。母さんはご機嫌で朝ごはんをほうばる陽菜ひなを見て、ウンウンとうなづいている。


「日本の高校を卒業するためにひとりで戻ってくるなんて、えらいわよね。一人暮らし、なにかと大変でしょう?」

「えへへ、そんなことないですよ」


 よかった。陽菜ひなのヤツうまいことごまかしてくれたらしい。


「そうだ! 陽菜ひなちゃん、明日も朝ご飯を食べにいらっしゃい」

「え? いいんですか!?」

「モチロンよ。流斗りゅうと、普段はなかなか起きて来ないんだから。陽菜ひなちゃんに頼んだらすぐに起きてきたし、陽菜ひなちゃんが迎えに来てくれると助かるわ」


 そりゃあ、こんなとんでもない美少女に、目覚めのキスなんてされたら、眠気なんて吹っ飛んでしまうに決まってる。でもこんなのが毎日続いたら、心臓に悪すぎる。


 ピロリロリン♪

『アビリティポイントを獲得しました。習得するスキルを選択してください』


 え? なんで?? ……あ、そういや『クロノスの女神』だと、イベントをクリアした時も経験値とアビリティポイントをもらえたな。

 古参キャラと途中参加キャラの習得スキルの差を緩和させるための処置だ。

 俺は、ごくごく小さい声で、習得したいスキルを答える。


 さっきのキスが、イベント扱いだったのかな……?


「(ひそひそ)『眠り耐性』を習得! 陽菜ひなが迎えに来たら、部屋に入る前に目覚たい!」

『了解しました。『眠り耐性』を習得します』

「? 流斗りゅうと、なにひとりでぶつぶつ言ってるの?」

「な、なんでもないよ!!」


 やれやれ、とりあえずこれで、陽菜ひなの過激なモーニングコールに襲われずに済む。

 ……ちょっと、もったい無い気がするけれど……。


■次回予告

 学校に登校すると、校門で番長が待ち伏せしていた! 昨日の復習とおもいきや……お楽しみに!

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