第4話 10年ぶりに再会した幼馴染から、アイテムを受け取る。

「カシオ! 無事だったのね!? てっきり時空のはざまに巻き込まれて、そのまま死んでしまったかと……良かった……本当に良かった……」

「ヒーナ! お前の方こそどうして……まさか、時空のすきまに巻き込まれたのか!?」

「ううん。はじまりの村グラスヒュッテを襲った魔王ヴァシュロンは滅んだわ。アタシは、自分の意志でこの世界に訪れたの。だってこの国は、アタシの本当の故郷なんだもの」

「そうだったのか……」


 陽菜ひなと番長は、夢中でクロノス王国について語り合っている。

 まさか、番長も『クロノスの魔女』をやりこんでいただなんて。


 まあ、番長は魔王ヴァシュロンが倒されたことを知らないっぽいから、まだクリアはしていないみたいだけど……。


「カシオ、魔王ヴァシュロンを倒せたのは、はじまりの村グラスヒュッテで身を挺してアタシの命を救ってくれた、あなたのおかげよ」

「そんな……あの時は、ただ夢中だっただけで。ヒーナ、よく、無事でいられたな」

 

ん? はじまりの村グラスヒュッテで、身を挺してヒーナを助けた……??


「ああ!!」


 俺は、思わず声をあげる。

 確かにあった! ゲーム開始早々のイベント!!

 聖女ヒーナは、魔王軍から逃れるため、聖女であることを隠して、山深いはじまりの村グラスヒュッテで育てられたんだった。


 そして、魔王軍の襲撃に遭った時、聖女ヒーナを助けたのは、はじまりの村グラスヒュッテの幼馴染、カシオだったはずだ。

 あのイベント、ムービーも、ボイスも入ってなかったから気が付かなかった。そういや、カシオの身長は2メートルって、設定資料集に書いてあったな……。


「俺様とヒーナは、7歳の時からずっと一緒だった幼馴染だ! 貴様みたいなポッと出が彼氏だなんて、俺は断じて認めん!!」


  俺は反論する。


「お、俺だって、生まれた時から7歳までずっと一緒にいた幼馴染だよ!!」

「な、なんだって!? ということはヒーナ、まさか君は本当に……」

流斗りゅうとが言っていることは本当よ。アタシは7歳のころ、パパとママと一緒にクロノス王国へ召喚されたの」


 陽菜ひなの言葉に、番長はガックリと膝をつく。


「なんてこった。俺様以外の幼馴染がいたなんて」

「カシオ、アタシは優しいあなたのことがとっても大好き。でも結婚はできないわ。なぜならクロノス王国に召喚される前、この、流斗りゅうとと結婚を約束していたんだもの」

「そんな……」


 番長は、そのまま頭を抱えて地面に突っ伏す。

 そういや、『クロノスの聖女』のカシオって、ことあるごとに、ヒーナに「結婚してくれ!」ってプロポーズしていたもんな。


「そういうわけで、再会できたのは嬉しいけれど、あなたとの結婚は無理。ゴメンね、カシオ」


 陽菜ひなは、頭を抱えている番長をよしよしする。


「ううう、わかったよヒーナ。だが……あの男が本当にヒーナのフィアンセにふさわしいか確かめる必要がある! 流斗りゅうととやら、俺様と勝負だ!!」

「そうね、そうしましょう!!」

「ちょっ、ちょっとまってくれ!!」


 冗談じゃない!! 2メートル越えの大男と勝負だなんて、命がいくつあっても足りないよ。


「俺様はいつでも戦えるぞ!」


 番長は、学ランを脱ぎ去り、両腕をボキリボキリと鳴らしている。


「ちょっと待って、流斗りゅうとと作戦会議をするから!」


 そう言うと陽菜ひなは、俺の手を引っ張って、校舎の影に連れていく。


「な、なあ、陽菜ひな、キミからもなんとか言ってくれ! 俺、あんなのと戦ったら粉々に砕け散っちゃうよ!」


 情けないがしょうがない。俺、格闘技はおろか、ケンカだってしたことが無いのに。


「頼む。陽菜ひな! 一生のお願いだ!!」


 俺は、両手を合わせて懇願をする。すると陽菜ひなは、おもむろに制服のブレザーを脱ぎ出して、ブラウスのボタンをひとつひとつ外していった。


 え? ええ? どういうこと??


 陽菜ひなのまったくもって予想外の行動に困惑するも、ブラウスのボタンを外す陽菜ひなに釘付けになっていると、たわわな胸元に、キラリと光るものが挟まっているのに気が付く。


「え? それってもしかして、懐中魔道士メカニカルウイッチ??」


 陽菜ひなはこくりとうなづくと、首から下げた懐中魔道士メカニカルウイッチを、俺に手渡す。


流斗りゅうと、あなた専用の懐中魔道士メカニカルウイッチよ。クロノス王国を旅立つ時に、パパから受け取った最新モデルなの。ゼンマイを巻いてみて。」


 俺は言われるがまま、震える手で懐中魔道士メカニカルウイッチの上部についたつまみを回転させてゼンマイを巻く。


 カリカリカリ……カリカリカリ……カリカリカリ。


 懐中魔道士メカニカルウイッチは青白く光り、光の中からお団子頭でメイド姿の小さな女の子が現れる。


「初めましてご主人様。わたしは、懐中魔道士メカニカルウイッチコンスタンタン。ご用件を申し付けてください」

「え、えっと、これから決闘しなきゃいけないんだけど、手伝ってくれるかい?」

「かしこまりました」


 コンスタンタンは、スカートのすそを持って、うやうやしくお礼をすると、懐中魔道士メカニカルウイッチの中に再び消えていった。


「随分と待たせてくれたなぁ! 覚悟はできたか?」

「あ、ああ」

「そうか、では死ね!! 蒙古覇極道タイガータックル!!」


 とっくに痺れをきらしていたのだろう。番長が猛スピードで俺に突進をしてくる。

 すると、首から下げた懐中魔道士メカニカルウイッチが再び青白く光出し、コンスタンタンが現れると、片手で番長のタックル攻撃をいとも容易く受け止めた。


「な、なんだってー!!」

「な、なんだってー!!」


 あまりの出来事に、俺と番長の声がハモる。

 コンスタンタンは、そのまま、番長に向かって強烈な肘打ちをくらわせる。


「ぐはっ!」


 たまらずよろける番長に、コンスタンタンは、流れるように肩と背中を使って突進技を食らわせる。鉄山靠てつざんこうだ。


「ぎゃああああああ……」

 ドッカーン!!


 攻撃をもろに喰らった番長は、派手に吹っ飛んで校舎の壁に打ちつけられた。

 め、めちゃくちゃな強さだ……。


 ピロリロリン♪

「アビリティポイントを獲得しました。習得するスキルを選択してください」


 『クロノスの聖女』で聴き慣れた音楽とメッセージが脳内に流れ出す。俺は迷うことなく、習得するアビリティを選択した。


「『回復』を習得! 番長の傷を癒さないと!!」


■次回予告

 懐中魔道士メカニカルウイッチを受け取ったことで、陽菜ひなが異世界帰りであることを信じ始める流斗りゅうと。次回、陽菜ひなの過激なモーニングコールに流斗りゅうとがタジタジに……お楽しみに!


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