第3話 10年ぶりに再会した幼馴染、番長と再会する。

 キーンコーンカーンコーン……


 お昼のチャイムが鳴る。


 長かった……めっちゃ長かった。クラスの男子連中の、困惑と嫉妬とねたみとそねみとうらみとやっかみの視線で針のむしろ状態の教室から、やっと脱出できる。

 俺は、大急ぎで教室を出ようとする。すると、


流斗りゅうと、一緒にお昼食べよ♪」


 陽菜ひなが、もはや定位置となっている俺の左腕にからみつく。クラスメイトの視線が、よりいっそう鋭くなるのがわかる。辛い。


流斗りゅうとは、いつも何食べてるの?」

「学食だよ。俺ん家、両親が共働きだから」

「じゃあ、アタシも学食にする。連れてって」

「ああ」


 俺は、左腕に絡みついている陽菜ひなを引き連れて教室を出る。


 ……ざわ……ざわ……。


「お、おい! 誰だあの子、めちゃくちゃ可愛くね!?」

「あんな可愛い子、うちの学校にいたか!」」

ひな陽菜ひな。転校生らしいぞ」

「すげーな! アイドルが裸足で逃げ出すレベルじゃねーか!!」

「ファンクラブつくろうぜ!!」

「……ところで、となりにいる、さえない男だれだ??」

「さあ……見たことないな」

「あいつも転校生か??」

「ま、どーでもいいか」

「にしても、釣り合ってなさすぎw」

「なんであんな可愛い子が、あんなフツーの男と仲良くしてるんだ??」


 すごいな、陽菜ひなのやつ、もう学校中の噂になっている。それに引き換え、もう2年近く高校にかよっている俺の影の薄さたるや……ま、べつにいいけど。

 俺たちは学食に行くと、食券を購入して、学食のおばさんから料理を受け取る。俺はいつもの日替わりランチ。陽菜ひなはきつねうどんだ。


 陽菜ひなは、おぼつかない手つきで箸でうどんをたぐりよせると、ふうふうと、ようく冷ましてから食べる。


「美味しい! ほんと懐かしいよ日本食」

「ひょっとして、うどん食べるのも10年ぶり?」

「もちろん。クロノス帝国には、うどんなんてなかったもん。日本に帰ってきたなって実感するよ。パパとママにも食べさせてあげたいなぁ」

「……そっか」


 さっきの自己紹介の時もそうだけれど、嘘をついているようにはとても思えない。


 もしかしたら、本当にクロノス王国に行ってたんじゃ……いやいやいや! そんなこと、絶対にあり得ない! だってクロノス王国はゲームの世界なんだもの!!


 ゲームそっくりの異世界なんて、あまりにもチープすぎる!!


 きっと、10年間海外に行っていたってのは本当で、両親と離れてくらすのが寂しくて、厨二病な設定で気を紛らわせているんだろう。そうだ! きっとそうに違いない。


 食後、俺たちは中庭に移動する。


「でね。東の勇者サクソニアのリーダーなんだけどね、見た目は、クールな金髪イケメンなんだけど、ああ見えて実はすっごいシスコンなの」

「へえ、そうなんだ。意外だなぁ」


 俺は、次から次へと陽菜ひなの口から溢れ出す、クロノス王国の曝露情報を左から右へと受け流す。

 我慢、我慢だ。流斗りゅうと

 陽菜ひなの心の隙間を埋めることができるのは、幼馴染の俺だけなんだ。


 ・

 ・

 ・


 キーンコーンカーンコーン……


 終礼のチャイムが鳴る。


「やれやれ、やっと帰れる」


 困惑と嫉妬とねたみとそねみとうらみとやっかみの視線の集中放火と、陽菜ひなの電波発言を浴び続けた俺のHPは、とっくに一桁になっている。

 とっとと家に帰って、いっこくも早く休みたい。


流斗りゅうと。一緒に帰ろ♪」


 陽菜ひなはもはや定位置のなった、俺の左腕に絡みつく。

 そうだった。登校も一緒なんだから、下校も陽菜ひなと一緒だよな。

 俺たちは階段を降りて下駄箱へと向かう。そして、下駄箱を開けると、


「ん? なんだこれ??」


 外履きのスニーカーの上に、紙が置いてある。手に取ると、その紙には「果し状」と書かれてあった。


「ん? なになに? ひょっとしてラブレター?? へぇ、流斗りゅうと、結構モテるんだ♪」


 天然なのかワザとなのか……俺は陽菜ひなを無視して、果し状と書かれた紙を広げる。


―――――――――――――――――――――――――――――― 

 壬生みぶ流斗りゅうと


 俺は、貴様を認めない。放課後、別練の校舎裏に来い。どちらが本物か勝負だ!


                    樫尾かしお耐河たいが

―――――――――――――――――――――――――――――― 


 樫尾かしお耐河たいが?? この学校の番長じゃないか!!

 まさか、番長にまで目を付けられるなんて最悪だ……。


「なんだなんだ?」

陽菜ひなちゃんの彼氏、番長に目を付けられたんだって」

「うはw こりゃタダじゃ済まないな」

「いい気味ww」


 周囲の好奇の目に晒されながら、俺は左腕に絡みついた陽菜ひなといっしょに、重い足をひきづって別練の校舎裏へと行く。そこには、身長2メートルはある、大男が腕組みをして待っていた。


「貴様が、壬生みぶ流斗りゅうとだな?」

「あ、ああ……」


 番長は、学坊と、地面につきそうなくらい異常に丈の長い学ランを身にまとっている。足元に至っては下駄履きだ。


 うちの制服、ブレザーなんだけどな。

 そんな、頭の先から爪先まで全身校則違反の番長、樫尾かしお耐河たいがが発した次の言葉は、俺の想像の斜め上をいくものだった。


「ヒーナ!! 本当にヒーナなんだな?? どうしてここに!?」


 ん? ヒーナ? 俺は横にいる陽菜ひなを見る。そこには涙を流している陽菜ひなの姿があった。

 そして、陽菜ひなは番長に放った言葉は、さらにとんでもないものだった。


「カシオ! 無事だったのね!? てっきり時空のはざまに巻き込まれて、そのまま死んでしまったかと……良かった……本当に良かった……」


 え? どういうこと??


■次回予告

 番長、樫尾かしお耐河たいがは、クロノス王国の住人??

 何が何やらチンプンカンプンの流斗りゅうとは、何故か番長に決闘を申し込まれて……お楽しみに!!


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