第2話 10年ぶりに再会した幼馴染が自己紹介をした。

 俺は登校しながら、さっきからずっと話している陽菜ひなの言葉を聞いている。


「魔王ヴァシュロンとの戦いは熾烈を極めたわ。でも、パパとママが共同発明した懐中魔道士メカニカルウイッチと、クロノス王国の辺境伯が率いる東の勇者サクソニアが、二振一具ふたなりひとそろえの聖剣ツァイトベルグによって魔王を封印したの……って、いきなりこんなこと言っても何言ってるか解らないよね」


 陽菜ひなは、すまなそうに眉をひそめる。


「ん、大丈夫だよ」


 大丈夫だ、問題ない。俺には、クロノス王国のことが完全に理解できていた。

 なにせついさっきまで、徹夜で遊んでいたテレビゲーム『クロノスの聖女』の設定と完全一致なんだもの。


 懐中魔道士メカニカルウイッチは、『クロノスの聖女』に出てくるアイテムで、見た目は懐中時計にそっくりだ。

 アビリティポイントを集めて、機械仕掛けの魔道士を成長させるゲームシステムがシンプルにもかかわらず極めると奥が深くてめっちゃ面白い。


 その他にも、クロノス王国の辺境伯が率いる東の勇者サクソニアっていう主人公パーティも、最強の武器である聖剣ツァイトベルグも、ゲーム中にしっかりと登場をしている。


 うーん。陽菜ひなのやつ、結構重症なんじゃ……。


 なんとかしないと。せっかくカワイイのに、このままでは厨二病認定されて、クラスで浮きまくってしまうだろう。そんなの、いくらなんでも可哀想すぎる。


「なぁ、陽菜ひな

「なぁに、流斗りゅうと

「キミが異世界……クロノス王国帰りってのは、ふたりだけの秘密にしておかないか?」

「え? どうして??」


 キョトンとする陽菜ひなの顔を観ながら、俺は話しを続ける。


「いいか陽菜ひな。キミは異世界帰り。しかも聖女だ。いわばクロノス王国の国賓ってことになる。そんなことが知れたら、マスコミが黙っちゃいない」

「なにか問題があるの??」

「おおアリだよ! 取材取材の毎日で、君はほとんど自由が効かなくなってしまう。SPだってつくだろうし、俺なんかとは、ほとんど会えなくなってしまうはずだ」

「そんなぁ。そんなの絶対イヤだよ! アタシ、やっと流斗りゅうとと再会できたんだよ? 10年ぶりに会えたんだよ!? それなのに、また、大好きな流斗りゅうとと会えなくなるなんて耐えらんないよ!!」


 陽菜ひなは瞳を潤ませて俺を見つめる。その姿は、まるで捨てられた子犬のようだ。


「俺だって嫌だよ! だからさ陽菜ひな。君が異世界帰りなことはふたりだけの秘密だ。いいね!」

「うん! えへへ、ふたりっきりの秘密だなんて、ドキドキしちゃうね♪」


 陽菜ひなは、頬を赤らめながら再び俺の左腕にからみつき、右肘にたわわなバストが当たる。

 ったく、こっちは、さっきからずっとドキドキしてるっつーの!


 キーンコーンカーンコーン


「しまった! 予鈴だ!! 急ぐぞ陽菜ひな!!」

「あん。流斗りゅうとまってよー!!」


 俺は、からみついた陽菜ひなの腕を無理やり剥がすと、大急ぎで校門へと掛けていった。


 ・

 ・

 ・


「起立! 礼! 着席!!」


 ガタガタガタガタ!


 クラス委員の号令に併せて、生徒たちがそうぞうしく着席をする。

 担任の真理子先生は、全員が着席したのを見計らうとしゃべりはじめた。


「転校生を紹介するわ」


 ガヤガヤガヤガヤ!


 季節外れの転校生に、クラスの生徒たちはざわめき立つ。


ひのえさん、入ってきて」


 ガラリ。


 その瞬間、ざわついていた教室が「シン……」と静まり返った。転校生のあまりのカワイさに言葉を失ったからだ。


「はじめまして。ひのえ陽菜ひなです。この街には10年ぶりにもどってきました。よろしくお願いします」


 陽菜ひなは、ペコリとお辞儀をすると、花が咲くように微笑んだ。


 うおおおおおおーーー!!


 クラスは大騒ぎだ。


ひのえさん! 趣味は何ですか??」

「スキな食べ物は!?」

「休日は何をして過ごしていますか!?」

「好きな芸能人は?」

「彼氏はいますか?」


 男子たちの怒涛の質問が、陽菜ひなに向って投げつけられる。


「静かに!! そんなに一気に聞かれたら、ひのえさんがとまどうでしょう?  ひのえさん。自己紹介をお願いできるかしら」

「はい!」


 陽菜ひなのやつ大丈夫かな……くれぐれも『異世界』とか『聖女』とか、イタイ発言はしないでほしい。


「それじゃ改めて……ひのえ陽菜ひなです。10年前から両親の都合で他の国に住んでいました。日本に戻ったのも10年ぶりです」


 陽菜ひなの言葉に周囲がどよめく。

 よかった。確かに、異世界はだもんな。


「スキな食べ物はチーズケーキで、趣味はパン作りとお菓子作りです。なかでもドライフルーツを使ったパンと、いちごのチーズタルトが得意です。休日も、お菓子を焼いている事が多いかな? 芸能人のことは……ごめんなさい。ちょっと詳しくないです」


 陽菜ひなは、男子どもの質問に無難に答えていく。ウソをついているようには見えないから、どうやら本当の事を言っているらしい。


「最後に彼氏なんですけど……フィアンセがいます!! そこにいる流斗りゅうとです!!」


 ……ざわ……ざわ……。


 な!? 何言ってるんだ陽菜ひなのやつ!!

 いきなりの爆弾発言に、クラスメイトの視線が一斉に俺に向けられる。


 その視線は一様に「なんでこんなヤツが?」という、困惑と嫉妬とねたみとそねみとうらみとやっかみが渾然一体となっている。


 しまった!! 告白されたことも口止めをすべきだった……。


 絶世の美女とつきあう凡人男。その噂はあっという間に学校中に広まった。

 俺は、今までの、おだやかに流され続ける生活が、濁流に飲み込まれていくのをひしひしと感じていた。


■次回予告

 陽菜ひなに、秒で、付き合ってることをバラされた流斗りゅうと

 美少女転校生と、その彼氏の噂はあれよあれよと学校中に広まって、ヤバい奴に目をつけられることに!? お楽しみに!


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