10年ぶりに再会した幼馴染から告白された。ただし彼女は異世界で聖女していたとイタイ発言をする。え?本当に行ってたの!?

かなたろー

第1話 10年ぶりに再会した幼馴染に告白された。

「か、感動した……」


 俺は、ついさっきクリアしたばかりのRPGのエンディングスタッフロールを観ながら感涙をしていた。

 カーテンの隙間から入り込んでくる朝日がまぶしい。あまりにゲームにのめり込みすぎて夜通しプレイをしてしまったようだ。


 ゲームタイトルは『クロノスの聖女」。


 創造神オーデマと破壊神ヴァシュロンとの戦いをバックボーンに、クロノス帝国の戦いを描いたファンタジックなRPGだ。

 タイトルの通り、物語には『聖女』が最重要人物として登場する。


 聖女ヒーナ。


 腰まである栗髪に赤茶色の瞳。どこか憂いを帯びた表情。ギリシャ神話の登場人物のような服の上からでもわかる抜群のスタイル。そして世界のためにその身を捧げて精霊となる悲しい結末。


「ああ、こんな女の子が彼女だったらなぁ」


 俺はゲームを通して、完全に聖女ヒーナに魅了されていた。


流斗りゅうと! いつまで寝てるの!? 学校遅刻するわよ!!」


 一階から母さんの声が聞こえてくる。


「しまった! もうこんな時間か!!」


 俺は慌てて制服に着替えると、大慌てで家を出た。


 俺の名前は壬生みぶ流斗りゅうと、なんの特徴もない至って普通の高校2年生だ。きっとこれからもなんの特徴もない大学生活を経て、なんの特徴もない社会人生活を経て、なんの特徴もない老後を迎えるのだろう。


 そんな人生で大丈夫か?


 大丈夫だ。問題ない。なんの特徴もないけれど、けっして不幸ではない。平々凡々。俺は周囲に流されるまま、穏やかな人生を送れさえすれば充分に幸せだ。


 平凡な俺は、いつものように通学路を歩く。毎日おんなじ。ただただ周囲に流されるまま過ぎていく毎日。でも、この時の俺は知らない。この日を堺に、激流の日々へと飲み込まれることになるのだから。


流斗りゅうと! 久しぶり!!」


 突然、背中からいきなり知らない女の子に声をかけられた。俺はけだるく後ろを振り向く。すると、


「え? え?? ええええ??」


 俺は、女の子に釘付けになった。


 腰まである栗髪に赤茶色の瞳。制服の上からでもわかる抜群のスタイル!

 そう! 『クロノスの聖女』に登場する聖女ヒーナにそっくりだったからだ。


「え? ええっと……」


 超絶美少女に声をかけられて、キョドりまくる俺を尻目に、女の子は頬をふくらませる。


「もう! ひょっとして、アタシのこと忘れちゃった?? まあ、10年ぶりだもんね。アタシ、あの頃より髪が伸びてるし」

「ん? 10年ぶり?? ひょっとして、となりに住んでたひのえ陽菜ひな!?」

「ピンポーン! 思い出してくれた?」

「あ、ああ……」


 陽菜ひなは、7歳の頃までおとなりに住んでいた幼馴染だ。家族ぐるみで仲が良かったから、陽菜ひなとはどこへいくのも、いつも一緒だった。

 ビックリした。まさか、あの陽菜ひながこんな美少女になっているなんて。


「また、この街に越してきたんだ。お父さんの仕事の関係?」

「ううん。アタシだけ。そこのマンションに昨日から住んでるの」


 陽菜ひなが、高層マンションの最上階のあたりを指す。


「そうなんだ。でも、どうして陽菜ひなだけ?」

「それはモチロン! 流斗りゅうとに会いたかったからだよ」

「え?」

流斗りゅうと、言ってくれたよね。おっきくなったらお嫁さんにしてくれるって!」


 覚えている。確かに「結婚して欲しい」って言った記憶がある。でも、幼稚園のころの話だ。


「い、いきなりお嫁さんって言われても俺達まだ学生だぞ!!」

「それじゃあ。結婚するまでは彼氏でいてくれるってことだよね?」


 陽菜ひなは、上目遣いで潤んだ瞳をこちらに向けてくる。

 うわ! めちゃくちゃカワイイ!!


「ま、まあ、彼女なら、いいけど」


 俺は、動揺しているのをさとられないように、至って平静をよそおって返事をする。すると、


「やったぁ! 婚約成立だね!!」


 いきなり陽菜ひなが抱きついてくる。たわわな胸が、制服越しにも当たっているのがわかる。

 青天の霹靂とはこういうことだ。いいのかな? こんな何の特徴もない俺が、こんな絶世の美少女とつきあっちゃって、本当にいいのかな??


「そ、そうだ、陽菜ひな! 急がないと学校おくれちまう」

「そうだね! 急ごっか!」


 陽菜ひなは満面の笑顔で答えると、俺の左腕に両腕をからめて、ピッタリとよりそってくる。俺の左肘に、陽菜ひなのたわわなバストがふたたび押し付けられる。


 ああ、幸せだ。幸せすぎて、天罰でもあたるんじゃないのか?

 でも、どうして陽菜ひなだけこの街に戻ってきたんだろう? 高校生なのに一人暮らしってけっこう大変だよな。俺は、それとなく理由を探ってみる。


「両親は、どうしてるの?」

「パパとママは、異世界に残るって」

「……は?」


 気のせいだろうか、って聞こえたぞ??


「パパとママは、重要な仕事に就いているからこっちには戻れないんだよね。だからアタシ、ひとりで異世界から戻ってきたの!!」

「そ、そうなんだ?」


 やっぱりだ。陽菜ひなのヤツ、ハッキリとって言ってる。


「アタシね、パパとママと一緒にクロノス王国ってところに召喚されたの。パパは天才魔法技師で、ママは高次元のマナを扱えるウイッチだからって。

 でね、その両親の血をひいてるアタシは聖女になって、魔王ヴァシュロンを封印することに成功したの。クロノス王国に平穏が訪れたから、アタシはもとの世界に戻ったってわけ」


 いやいやいやいや!

 それって『クロノスの聖女』のゲーム設定そのままじゃないか!

(最後に精霊になるってところだけ違うけど)


「ん? どうしたの流斗りゅうと?」


 俺の右肘にたわわなバストを押し付けながら、陽菜ひなは、くったくのない笑顔で小首をかしげている。


 なんてこった。めっちゃ美少女になって再会した幼馴染が、重度な中二病をわずらっていただなんて……。


■次回予告

 陽菜ひなの電波発言にたじろぐ流斗りゅうと。このままでは、幼馴染が学校で変人あつかいされてしまう。このことはふたりだけの秘密にしようと持ちかけて……お楽しみに!


――――――――――――――――――――――――――――


 最後までお読みいただきありがとうございます。最近増えた異世界帰りモノですが、ヒロインが異世界帰りはまだないなーと思っていたら、自分でかきたくてうずうずしてしまい、筆をとった次第です。

 ヒロインのとんでも行動に、慌てふためく主人公をコメディ成分多め(+お色気)で楽しく書きたいなと考えております。


 少しでも「おもしろそうだな」と思われましたら、フォローや★★★のご評価をいただけますと幸いです。執筆の励みになります!!


 よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

10年ぶりに再会した幼馴染から告白された。ただし彼女は異世界で聖女していたとイタイ発言をする。え?本当に行ってたの!? かなたろー @kanataro_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ