第6話 上官双晶と語り合って
上官双晶は上官景砂に会釈をする。それから、彼女の元へとゆっくりと、それでいて確かな足取りで歩いてきた。
「本日は気分がよろしいのですか?」
上官双晶は、腰掛の隣にあった鞦韆に腰を下ろしながら聞いた。彼は相変わらず一切の感情を感じさせないが、朝の割には疲れているようにも見える。それなのに。
「気分がいいというか、部屋にいるだけだとなんだか気が滅入るような気がして」
と、彼の状況を全く察することなく上官景砂が返した言葉にも、
「なるほど。それなら、書物とか運ばせましょうか? それだけでも、だいぶん気が滅入ることはなくなるでしょうから」
と、彼女自身が微塵も気にしていなかったことまで気にかけてくれる。わがままかもしれないが、彼女はその言葉を言われた瞬間に、「そういえば今は暇すぎるかもしれないな」と思い始めてしまっていたのだった。
「お気遣いありがとうございます。それから、何から何まで不自由ないようにしてくださって。その点に関しても感謝しています」
と、彼女はつい自らに恥じ入りながら言うと、上官双晶は謙遜するかように首を横に振った。
「それくらいは当然ですよ。……ところで、家の規則はどうしました?」
おそらく他人の子と思われる上官景砂に衣食住を与えるだけでも十分贅沢だと彼女は思う。しかし、上官双晶はそれ以上のことを普通だと言う、その姿に彼女はほんの僅かばかりの疑問を抱き始めていた。
「読みました」
「おっと、早いですね。あの規則を読んで、どこかの公子のように厳しすぎる、などと思いました?」
どこかの公子、という言葉に、上官景砂はつい例の人物の姿を思い浮かべてしまう。そしてその姿が脳裏に完全に浮かび上がったときに、なぜかくすっと笑いをこらえられなくなるのだった。
そんな風に上官双晶と上官景砂が並んで語り合っている様子を、使用人と思しき人々はみな一瞥しながらそこを通り過ぎていく。何の脈絡もなく迎え入れられた養女と、彼女を傷のついた玉のように接する上官家の当主が一体どのような関係を持っているのかが気になって仕方がないのだ。
しかし、当の本人たちはそれを全く気にすることなく語り続けていた。上官景砂からすると、自分の本当の身分を知ることよりも、とりあえず生き延びることが大切で、上官双晶からすると自分にどのような役目を持ち合わせているかくらいは誰よりも理解していたから。
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