第三話 心理テスト

 ――一週間後 教室 ロングホームルームの時間


 まもなく行われる修学旅行で行動を共にするグループ分けが行われていた。亜美あみは男女問わず引く手数多あまたのようだが、それらを軽くいなしながらさとしの方へと向かっていった。


「さーとし♪ 私のグループに入れてあげるから、修学旅行を一緒に楽しみましょうよ」


 亜美の表情は明るい。


「オレのグループ、もうメンバー決まってるから」

「えっ?」


 あっさり断られ、唖然とする亜美。

 そんな亜美に背を向ける聡。

 聡は、自分の席で視線を落としているひとりぼっちの女子のところへと向かった。


花音かのんちゃん」

「……えっ……はい」

「修学旅行、一緒に回ろうよ」


 驚く花音。しかし、にこやかな聡から目をそらしてうなだれてしまう。


「でも……」

「オレらのグループ、バカばっかだからさ、花音ちゃんみたいな真面目なまとめ役がいてほしいんだよね」

「まとめ役なら他の方でも――」

「そんな後付けの理由で、単にオレが花音ちゃんと一緒に動きたいだけなんだけどな」


 花音の言葉に被せる聡。

 その言葉を聞いた周囲が冷やかしの声を上げた。

 そんな声を気にしていないかのような聡と、顔を真っ赤にした花音。


「なんで花音を選ぶのよ! 大して可愛くもないのに!」


 涙目の亜美が叫んだ。


「……オマエ、自分で何言ってるのか分かってんのか?」

「分かってるわよ!」

「何度も言ってるけど、オレは亜美と付き合っているわけじゃねぇし、オレは花音ちゃんと一緒に行動したいから声をかけただけだ」

「聡、おかしいよ! 聡は私といるべきなの! 絶対!」


 涙目で激怒する亜美の姿に、小さなため息をつく聡。

 花音はそんなふたりの姿に慌てているようだ。

 聡はゆっくりと口を開く。


「……亜美、お前の好きな心理テストをしよう」

「心理テスト……?」


 突然の話に疑問が浮かぶ亜美だったが、聡はそれを無視して続けた。


「第一問。あなたは近所の幼馴染みのお姉さんから幼い娘を預かりました。一緒に映画に見に行きましたが、その途中で素敵なショップを見つけました。あなたはどうしますか?


 一、幼い女の子がいるので次の機会に行く。

 二、幼い女の子と一緒にショップを覗いてみる。

 三、次いつ来れるか分からないので、ひとりでショップに飛び込む」


 その質問に真っ青になった亜美。

 この質問は、自分のことを言っているのだ。

 亜美からの答えを待たず、聡は続けた。


「第二問。あなたは幼馴染みの男の子やその姪っ子の写真を撮影しました。あなたはその写真をどうしますか?


 一、犯罪に利用されることもあるので、自分だけで楽しむ。

 二、良い写真が撮影できたので、仲の良い友だちだけに見せる。

 三、『いいね』が欲しいので、SNSにアップして全世界に公開する」


 亜美は何も言えない。

 教室の中のクラスメイトたちも聡たちに注目している。


「第三問。あなたは幼馴染みの男の子がデートをしようとしていたことを知りました。あなたはそれが気に食いません」


 身体をびくりと震わせる亜美。


「あなたはどうしますか?


 一、気に食わないけど幼馴染みを応援する。

 二、気に食わないからスルーする。

 三、気に食わないから相手の女の子を脅してデートを中止させる」


 亜美はうなだれている。


「最後の問題」

「ねぇ、聡くん。いくらなんでも亜美さんが……」


 仲裁した花音は、聡が見たこともないほど寂しげな、そして悔しげな表情をしていたことに気付いた。花音はそれ以上の言葉を飲み込んだ。


「最後の問題。これまでの質問で『一』を選んだひとは、相手の立場に立ってモノを考えられるひとです。『二』を選んだひとは、まぁ普通の感覚のひとかな。さて、『三』を選んだひとをあなたはどう思いますか?」


 涙を零す亜美。


「一、自分を最優先するのは当たり前、だから自分に正直なひと。

 二、自分が一番なんだから当たり前、だからとても素敵なひと。

 三、――」

「ごめんなさい……」


 亜美の口から謝罪の言葉がこぼれる。

 それでも聡は、本当に悔しげにつぶやいた。


「三、…………思いやりのないひと……」



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