第二話 嫉妬と憎悪

 ――放課後 校内二階 女子トイレ


「痛いっ!」


 トイレの床に倒された花音かのん。眼の前には、憎悪に満ちた瞳で自分を睨みつける亜美あみがいた。

 花音の胸ぐらを掴み上げる亜美。


「何調子に乗ってんの。アンタみたいなメガネブスがさとしの隣に立てるわけないでしょ」

「…………」

「シカトしてんじゃねぇよ! オマエ鏡見たことあんの? 聡の隣に立てる女だと思ってるなら、とんだ勘違いよ。それに聡はアンタにだけ優しいわけじゃないから」


 亜美の辛辣な言葉。花音もそんなことは分かってるのだ。自分の容姿のことも、聡の優しさも。そうは思っていても、小さな期待があったことも確かだ。亜美の言葉に何も言い返せない花音。あまりの悔しさに瞳から涙がにじみ出てくる。


「スマホ出せよ」

「…………」

「早く!」


 花音はスカートのポケットから自分のスマートフォンを取り出した。


「LIMEで聡にメッセージ送って。『映画には行けなくなった』って」

「イ、イヤです……」


 声を震わせる花音に自分の顔を近づける亜美。


「……オマエさ、今度の修学旅行、どのグループにも入れねぇようにしてやろうか。ひとりぼっちの修学旅行、行きてぇか?」


 友だちの少ない花音は、どこかのグループに入れてもらうしかない。亜美が『花音を入れるな』と言えば、みんなそれに従うだろう。一生に一度の修学旅行。花音は亜美の命令を聞くことにした。


『映画には行けなくなりました。本当にごめんなさい』


 送信をタップするときには、涙で文字がぼやけていた。


「勘違いしてんじゃねぇよ、ブスのくせに」


 トイレを出ていく亜美。

 花音の小さな嗚咽がトイレの中に響いていた。



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