第四話 聡の思い・花音の決断・亜美の反省

 さとしは、本当に悔しげにつぶやいた。


「三、…………思いやりのないひと……」


 両手で顔を覆い、身体を震わせる亜美あみ

 聡も歯を食いしばっていた。

 そんなふたりを心配そうに見つめる花音かのん


「……オレ、小学生のときまで亜美のことが大好きだった」


 聡の言葉に顔を上げる亜美。


「可愛くて、元気で、優しくて……運動会のリレーで転んだオレを慰めてくれたよな。みんながオレを責める中、亜美だけはオレの味方をしてくれて……バレンタインのチョコだって毎年すごく楽しみだった……でも……中学に入って、スマホを買ってもらってから、亜美は変わってしまった」


 亜美はまたうなだれてしまう。


「フォロワーが増えたとか、『いいね』が多いとか、取り巻きを作ってそんなことしか言わなくなってしまった……イジメまでするようになって、オレ必死でフォローしようとしたけど、そんなオレを亜美は『正義バカ』って言って笑ってたよな……だから、オレはもう諦めたんだ」


 聡は囁くように、でもはっきりと亜美に言った。


「もうオレの知っている亜美は死んだって」


 亜美から小さな嗚咽が漏れる。


「SNSのフォロワーや周囲から自分が認められるのは気持ちのいいことかもしんねぇし、そのために話題を作ったり、オシャレやメイクを極めるのも自分磨きのひとつなんだろうよ。でもさ、何か違うともオレは思う。なぁ、もっと磨くべきところがあるんじゃないか?」


 スマートフォンから溢れ出る情報に、自覚なく振り回されてきた亜美。SNSでの自分の評価が、そのまま自分自身の人間としての評価だと考えていたのだ。

 花音に微笑みを向ける聡。


「花音ちゃん、亜美のことは気にしなくていいから――」

「亜美さんを同じグループにはできませんか?」


 聡の言葉に被せる花音。

 そんな花音の言葉に、亜美は驚いて顔を上げた。


「亜美さんが私にしたこと、赦したわけじゃありません。でも、大好きなひとにそんな風に言われたら、心の色だって大きく変わります」

「どうしてそう言えるんだい?」

「それは……分かるんです」

「分かる?」

「はい。亜美さんの気持ちが」


 聡を見つめる花音。


「私も聡くんが好きだからです」


 突然の告白。

 教室中がクラスメイトたちの冷やかしの声に溢れる。

 そんな中で花音は続けた。


「だから、私をひとりの女の子として見てくれたように、亜美さんももう一度ひとりの女の子として見てあげてくれませんか」

「花音ちゃん……」

「私も聡くんに振り向いてもらえるように頑張ります。だから亜美さんも……お願いします」


 聡は亜美に向き合う。


「だってさ。どうする、オレと花音ちゃんのグループに入るか?」


 亜美は涙を零しながら頷いた。


「お願いします……グループに入れてください……」


 頭を下げた亜美の肩を軽く抱きながら、花音の方に連れていく聡。


「聡! 爆発しちまえ!」

「リアルハーレムかよ、くそったれ!」

「修学旅行ベイビーとかやめろよな!」


 聡への冷やかしの声が響く。


「うるせぇ! こっちも苦労してんだよ!」


 教室に笑い声が満ちる。

 そんな笑い声をバックに、亜美は花音に頭を下げて謝罪しているようだ。聡にとっては、厄介事が増えたとも言えるかもしれないが、今はこの状況を喜ぶべきだろうと、微笑みを浮かべながら小さくため息をついた。



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