第12話 中央ヨーロッパ

※この小説は「WRC2に女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。


 南米からチームの本拠地ケルンにもどってきた。そこで、監督の顔が沈んでいるのが気になった。

「監督どうかしたんですか?」

 と、ともえが聞くと少し間があって話し始めた。

「うん、まだ決定ではないが、T社から連絡があり来シーズンの契約はできそうもない。という連絡がきた」

「えー、今年でチーム解散ですか?」

「他のマシンがあればできるがな・・どうやらT社はバジルのチームに力をいれるらしい」

「バジルは調子いいですからね」

「まぁ、どうあれあと2戦だ。今回はチームのホームコース。次回はともえのホームコースだ。我々にとっては無様なレースは見せられない。ともえ、がんばってくれるか」


 10月中旬、ともえはドイツ東部のBAD GRIESBACHにやってきていた。今回のラリーは3ケ国をまたぐ。ドイツをベースにしてチェコとオーストリアにも行く。リエゾン区間は1300km近くもある。サービスクルーにとっては過酷である。昨年優勝したラリードライバーは

「3つのラリーをやっている感じだ」

 と言っていた。舗装路のターマックに違いはないのだが、天候の違いや泥道があったりと道路の周辺が違い、気をつかうラリーであることに違いはない。

 来てみてともえは嬉しいことがあった。今回WRC3に3人の女性ドライバーが初出場するので、ともえに挨拶にきてくれたからである。この3人はFIAのラリースト育成プログラムで15人の中から選ばれた。いずれ女性ドライバーがラリーの世界に入ってくれると思うと、ともえは頑張ってきてよかったなと感じていた。

 ステージは木曜日から始まった。

 SS1は2.5kmのショートステージだ。競馬場脇の道を使ったコースで行う。チェコの観客は大盛り上がりだ。細かいシケインや360度ターンがありテクニックが要求される。ともえはこういうステージが大好きだ。総合10位につけることができた。もっともタイム差はごくわずかである。

 SS2はナイトステージである。12km弱のステージだが、度胸が試される。ともえはここでも総合9位のタイムをだした。ここを想定した練習は何度もやっていた。

 金曜日、SS3と6はSS2と同じだが、昼のラリーになる。SS4と7は27km近いステージ。今回の最長ステージだ。SS5と8は17km弱。森の中をぐるぐる走る感じのステージだ。この日、ともえは総合9位のタイムをだした。ターマックならひけはとらない。

 土曜日、SS9と12は20km。SS10と13は24km。SS11と14は17km。いずれもストレートが短い、曲がりくねったステージだ。舞台はドイツからオーストリアに入る。峠を越えるので気温がぐっと冷える。今回は5度まで下がった。この日トラブったマシンもあり、ともえは総合7位までポジションを上げていた。

 日曜日、ドイツにもどりSS15と17は12km。SS16と18は15km弱のステージである。ともえはこの日も調子はよく総合7位をキープした。WRC2の中では2位のタイムである。夏の間にコースを想定して走り込んだ甲斐があった。ライバルのバジルはトラブルを起こし、リタイアを喫していた。驚いたことに名手のオージーはコースアウトして、あろうことか電柱に激突して倒してしまった。マシンも大破である。2位のポジションにいたのだが、日曜日にリタイアするとポイント抹消となる。チャンピオン争いから一歩脱落してしまった。優勝はH社のヤナック。久しぶりの優勝で喜んでいた。T社の勝山は4位入賞。日曜日はトップタイムを出し、ヤナックと同じ22ポイントを稼いでいた。チャンピオン候補のH社ヌーベルは3位に入り、次の日本ラウンドでチャンピオンを決めたいと思っているようだ。

 チームの本拠地にもどり、監督から

「ともえ、チームの解散が決まった。次の日本が最後の花道となる。期待しているぞ」

 と言われたが、チームのスタッフの顔に笑顔はなかった。もしかしたら、ここにもどってくることはないと思うと、ちょっとさみしい気がした。

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