第11話 チリ・ビオビオ
※この小説は「WRC2に女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
9月末、ともえは初めて南米にやってきていた。アメリカで乗り換えてやってきたが、乗り継ぎが悪くて丸一日かかってしまった。夏のギリシャから春のチリに来て、体調が思わしくない。マネージャーのアンナも同様だ。それでも、レーススケジュールはすすむ。
水曜日のレッキ(下見)は、悪天候の中だった。というより霧の中の走行を強いられた。標高が高いところが多くて、雲の中を走っているのである。それに、道がひどい。前回のギリシャと違ってごろごろした石は少ないが、コーナーごとに路面コンディションが違う感じがする。滑りやすい砂っぽいコーナーの次に、泥のコーナーがやってくるという感じだ。それに、かまぼこ状の道にはまいった。道のまん中が高くてはじが側溝みたいに下がっているのだ。時々、ガリガリっていう底をする音がする。
コ・ドライバーのトムは細かいペースノートを作っているが、ほとんどが記号だ。
ともえが言ったことをすばやくノートに記録していく。ともえはコーナーの角度を4種類に区別している。超高速コーナーをHIGH、高速コーナーをMIDDLE、要ブレーキの中速コーナーをLOW、そして急なコーナーをBREAKと呼んでいる。それをトムはH・M・L・Bと記している。ともえがレッキでトムに言う時は次のような感じだ。
「STRAIGHT 100m RIGHT LOW SOON LEFT MIDDLE STONE RIGHT 」
これをトムが「S 100 RI L SO LE M ST RI 」と記していく。そして本番ではともえが話したように伝えるのである。ちなみに、日本語に直すと
「直線 100m 右の中速コーナー すぐに左の高速コーナー 右に石あり」
ということになる。
金曜日、天気は持ち直したが路面は乾いていたり湿っていたりしているのは変わらない。
SS3でともえは大きなアクシデントに遭ってしまった。右の高速コーナーで滑ってしまい、左リアタイヤを破損。パンクだけでなく車軸がおかしくなってしまい、デイリタイアに追い込まれてしまった。
土曜日、霧の中の走行を強いられた。トムが読み上げるペースノートだけがたよりだ。だが、SS8で石にヒット。右フロントタイヤをだめにした。路面がレッキとは違っていた。
日曜日、ともえは順位を落としていたので、走り切ることだけを考えて走った。トムもチームもあきらめていない。今は苦しくても経験を積むことが大事だ。しかし、今日も霧の中、少しペースを落として走る。少しでもラインをはずすと道の両脇の溝に吸い込まれる。
最終16ステージ。8.7kmのパワーステージだ。ともえは第1出走となった。今年最後のグラベルステージだ。霧はだいぶ晴れてきたが、頭上は真っ白だ。道路幅は比較的広い。最初は下りだ。中間からは上りのコースで、ラストにはジャンプ台が待ち構えている。ともえは派手にとんだ。
「 FLYING JAPONNE !」(飛ぶ日本人)
と歓声が上がっている。4分56秒で走りきった。ともえにしては納得いくステージとなった。WRC2の優勝候補であるオルベルグは4分48秒。やはり格が違う。ちなみに最速タイムはオージーの4分 29秒。さすがWRC1はすごい。
総合優勝はT社のロバンペロ、2位が同じT社のエブンス。前回のギリシャで負けてしまったので、今回でだいぶポイントを稼いだ。これでマニファクチャーのタイトル争いがわからなくなった。
次回はターマックの中央ヨーロッパ。ともえにとってはホームレースになる。そして日本へと続く。ここから巻き返しだ。
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