第10話 ギリシャ・アクロポリス
※この小説は「WRC2に女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
9月初め、真夏のギリシャにやってきた。湿度は低いが35℃を越える暑さで日向はつらい。
下見のレッキから暑さとほこりと石ころに悩まされた。イタリア・サルディーニャと同様の悪路と聞いていたが、ともえにとってはそれ以上だった。大きな石ころが転がっているし、道路脇に突出した石がある。これにぶつけたらパンクやマシン損傷につながりかねない。
「ラリーというよりパリダカのようなラリーレイドのコースみたいだ」
とベテランドライバーのオージーが言っていた。
初日の金曜日、SS2でともえは早速コースのえじきにあった。下りのコースで右のリアタイヤを大きな石にぶつけてしまった。タイヤはバースト。しばらくそのまま走り、安全地帯でタイヤ交換を行った。コ・ドライバーのトムが甲斐甲斐しく作業を行う。メカの経験もあるので頼りがいのある相棒である。ともえは運び屋に徹している。だいぶ派手にぶつけてしまったので、ホイールがすんなりはずれない。それでもトムはなんとか外して、ニュータイヤを取り付けた。ひとつ問題があった。ホイール周りのフェンダーがはずれてタイヤに干渉しかねないのだ。そこでトムは後ろ半分のフェンダーを外すことを選択した。そして、ともえにゴーグルを渡す。ポーランドラリーの時と同様だ。車内に土煙が入ってくるので、ゴーグルは必需品だ。
気を取り直して、またクルマを走らせる。案の定、車内に土煙が入ってくる。不運はまたやってきた。今度は右前輪がパンクだ。とがった石を踏んでしまったようだ。またまたコースサイドでタイヤ交換をする。これで積んでいたスペアタイヤは終わりだ。車内に土煙もはいってくるので、次のサービスパークまで無理はできなくなった。これで初日はクラス最下位となった。
2日目、マシンは修復された。何とか少し挽回したいと思ったが、ガタビシの道はやはりとばせない。石にぶつけないように走るためにはペースを落とすしかなかった。ナイトコースのSS12はターマックコースである。多くの観客に見せるための特設コースである。会場は高速道路のサービスエリア。まるでジムカーナのコースである。360度ターンは得意なので、楽しむことができた。このSSだけはクラス3位のタイムを出すことができた。今回のレースではこのSSだけが救いだった。
3日目、最終SS15。ここで最悪の事態が起きた。出走して2kmの右カーブで石に乗り上げ、180度横転してしまったのだ。
「Tom ! Are you OK ?」(トム、大丈夫?)
とともえが聞くと、
「I'm OK .」(大丈夫)
と返事がきた。観客が近寄ってきてくれてすぐにマシンを起こしてくれたが、走れる状況ではなかった。初のリタイアである。
その夜、ともえは一人で食事をしていた。皆といっしょに食べる気にはなれなかった。部屋でサンドウィッチを食べるのがやっとだった。そこにマネージャーのアンナがやってきて、静かに話しかける。
「The director told you not to worry too much about it . If you race long enough , these things happen . You're not the only one who retired 」
(監督があまり気にするな。と言っていたわよ。長くレースをやっていれば、こういうこともあるわよ。リタイアしたのはあなただけじゃないでしょ)
と言うように、このレースではT社勢は散々な結果となっていた。オージーもエブンスも転倒。勝山もコースアウトでマシンにダメージを負っていた。ポディウム(表彰台)はH社の独占となってしまった。
次戦は9月末のチリ。ともえにとっては初の南米ステージである。
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